第40話 俺ちゃんのかわいいお・ね・が・いの破壊力がヤバい件

 よくわかんねーけどやばそう。

 女騎士の妙な落ち着きぶりに、俺は逆にそわそわしてきた。


「どうした、オーガよ。魅了の力を使ってこないのか?」


 女騎士の言葉は自信に満ちている。

 いや、むしろ俺がなにか仕掛けてくるのを待ち構えているといった感じか。

 力を温存しているからこその余裕。

 でも、せっかくタマちゃんと再会できたんだからここで連れて帰りてえんだよなあ……。

 ……なあに、人間同士、話し合えばわかってもらえるさ!

 暴力なんてそんな野蛮な!

 話し合いで女の子をただで渡してもらうくらいよゆうよゆう!

 ついでに有り金とか装備とか種もみとかも全部話し合いで渡してもらえるから平和やで!


 俺はタマちゃんを取り押さえている聖女見習いに小首を傾げて問いかける。


「なあ、タマちゃん返して?」

「!? なにを言ってるの!? こんないたいけな女の子をオーガみたいな怪物に渡すわけないでしょ!?」

「オーガ様! 私を求めてくださるのですね! お願いです、聖女様。私を放して、オーガ様の元へ行かせてください」

「おっほお、タマちゃん! ええ子や! ね? タマちゃんもそうしたいって言ってるしさあ?」

「……く! この子ばかり見て、わたしのことなんてどうでも……い、いや、そういうことじゃなくて……と、とにかく、オーガの戯言なんかに耳は貸さない……!」


 えー?

 この子は頑なだなあ。

 これはあれか?

 俺がオーガだからエルフを食べちゃうものという偏見を持っているのでは?


「ね? 絶対に齧らないから? タマちゃん渡して? 絶対齧らないよ? オーガだけど齧らない、約束するから? ね? O・NE・GA・I?」

「はうん……!」


 ピロリロリン。

『+6666』

『対象名:聖女見習いクレア

 好感度:+7233     』

 ヤンデレが可能になりました。


 聖女見習いが身をよじって呻いた。

 どうやら、俺のかわいいお願いに心をやられちゃったみたい。


「? おい、どうしたんだ、クレア? 様子が……?」

「違う! 違うから……違うからね! アレク!」

「あ? ああ、違うのか? そうか、わかった……?」


 俺とタマちゃん達との間に立ちはだかっていた光の戦士は、釈然としない様子だ。

 女騎士も眉を顰め、聖女見習いを見つめている。


「……大丈夫……わたしは負けたりしない……」

「おい、クレア? マジでどうした?」

「アレクは信じてくれるよね……? ……こんなのは嘘で……これは操られてるから仕方なく……」

「クレア?」

「! アレク殿! いかん! クレア殿はすでに魅入られている!」


 一瞬だった。

 聖女見習いが手を放し、タマちゃんを突き飛ばす。

 驚いた光の戦士がタマちゃんを抱きとめる。

 そうして態勢を崩した光の戦士の首筋に光が閃いた。


「ごば」

「……こうすればわたしも褒めてもらえる……オーガの役に立てば……認めてもらえる……ほら、わたし、お願いを聞いてあげたよ? その上アレクだって……わたしだっていい子でしょ……?」

「きゃああ!」


 血を噴き出して倒れる光の戦士に悲鳴を上げるタマちゃん。

 いつの間にか短刀を手にした聖女見習いはうつろな目でぶつぶつと呟くばかり。

 俺、びっくり。

 チソチソしんなり。


 ひえぇ。

 なんで!?

 なんで急に修羅場になった!?

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