第35話 転移

 ブチ切れた俺の前に立ちはだかるフレッシュゴーレム。


「……チソチソ……譲渡を要求する……」

「やれるもんならやってみろよオラァ!」

「いいや! 9号、お前は誤作動を起こしている! これ以上の活動は認められない。強制終了!」


 中年魔法使いが叫んだ。

 途端に少女型フレッシュゴーレムは動きを止める。


「そして再起動! 8号機を回収後、速やかに離脱せよ」

「ん? あれ? おい、逃げんのか!?」

「8号機が破壊され、9号機の運用が不安定な今、お前からチソチソの奪取を試みるのはリスクが大きすぎる」


 中年魔法使いがなにか護符のような物を掲げている。


「いずれ必ずお前の最強パーツ:チソチソは手に入れて見せる。それまでは預けておくぞ、クリムゾンオーガ」

「お、おい!? こりゃどうなって……?」

「あなた達にも、今クリムゾンオーガを倒してもらっては困るのでね。全員、移動していただく」


 慌てるベテラン冒険者に中年魔法使いが告げる。

 その瞬間、中年魔法使いの手の中の護符が輝いた。


「……なに!?」


 俺はまばたきした。

 今まで目の前にいた連中の姿が消えている。

 というか、景色も違う。

 同じ森の中ではあるだろうが、さっきまでは川のせせらぎは聞こえなかった。


「……どうやら、転移の護符を使われたようだな」

「うわ、びっくりした。デスメソス、いたの?」

「ずっと側にいただろうが。あの肉人形が貴様のチソチソを奪い取ろうとした時、気が気でなかったぞ。それは私の物だからな」

「で、転移の護符?」

「あの魔法使い、あの場にいた全員をでたらめに転移させたのだろう。私はとっさに貴様を掴んだから同じ場所に飛ばされたようだが」

「あの一瞬で俺を掴んだってのか? 必死?」

「貴様を逃がしてたまるか! 正確には貴様のチソチソだが」


 闇エルフは辺りを確認するように周囲を巡る。


「……かなり飛ばされたようだな。あの場にいた連中もみなバラバラだろう。……最初に目指していた町とも大分離れてしまっている。これではいっそ北を目指して街道に出た方が……」

「……じゃあ、俺たちゃぁ随分と運がいいってぇことだなぁ!」

「あ!? なに!?」


 デスメソスの体に鞭が絡みつき、そのまま引き倒される。

 その顔を踏みつける鞭を持った男。

 その背後にも2人の男達。

 いずれもがニヤニヤ笑っていた。


「ふへへ! これでオーガ討伐の報酬は独り占めだ」

「お前ら、あの場にいた冒険者達か」

「おっと動くなよぉ? この闇エルフ、お前の仲間なんだろう?」


 仲間だっけ?


「抵抗したらこいつを殺すぜぇ? いいのかぁ?」

「ぐっ……」


 顔を踏みつけられてデスメソスが呻く。

 更に奴らはニヤニヤしたまま、デスメソスの腹なり背中なりを蹴りつけ始めた。

 それそれは楽しそうに。


「……うっ……ぐ……っ!」

「ふへへ、ほら、泣いて命乞いしてみろ。邪悪なクソエルフ」

「お前ら……」


 おかしいな。

 なんだか胸糞が悪い。

 踏みつけられているデスメソスを見ていると腹が立ってくる。

 なんでだ?

 あいつは仲間でもない、ただの変態なのに。

 だが……。


「そんな真似をしてただで済むとは思ってねーよな、お前ら……?」


 俺は静かな声で奴らに告げた。

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