第32話 VS討伐隊
◆
「……馬鹿な……」
「俺の勝ちだな」
「お、お師匠様……!」
侍の爺さんは喉元に俺のチソチソを突きつけられ、微動だにできない。
その右手に掴まれた刀は、鞘から抜くこともできずにいた。
『抜けよ、早さには自信があるんだろ?』
とか挑発して居合勝負に持ち込んだわけだが、爺さんの刀より俺のチソチソの方が早く抜けた。
「……どうやって我が神速の刀技以上の速さを……」
「このチソチソケースの中で、チソチソをいわゆる鞘走りさせたのさ」
「なんじゃと?」
「それによりチソチソにはバネのように力が貯まり、チソチソケースからポロリした瞬間に爆発的な加速力を得た……デコピンするとき指に力を貯める感覚だな! ま、こんなこともあろうかと、チソチソケースを用意しておいた俺の読み勝ちってところか」
俺はクッソ長い水牛の角を加工して作ったチソチソケースを放り投げて言った。
ふう、いつのまにかチソチソケース装着しといてよかった!
紳士の身だしなみだからな!
「……そんな、お師匠様が勝負に負けるなんて……こ、この仇は弟子であるわたしが……!」
「待て、ツバキ。お主ではこの赤鬼に敵わぬ」
「け、けれど、お師匠様……!」
「いいのじゃ、これも定められたこと……だが、ツバキよ。これが予言の通りならお主には伝えておかねば……」
「おいおいおいおい! なにやってんだよ⁉」
侍の爺さんが弟子の二刀流になにか言う前に、ベテラン風の冒険者が喚いた。
「協力してオーガを倒すんだったろうが!? なんで爺さんがオーガと真正面から向き合ってるときに横から切りかからなかったんだ!? グリン三兄弟!?」
「俺たちゃぁその話に乗った覚えはねぇぜぇ? みんなで殺して報酬もみんなで山分けかぁ? それじゃあ手取りが少なくなっちまう」
「ふへへ、ライバルは減ってくれた方がいいもんな」
「くそが! じゃあ、あんたらは!? 言ったよな? 俺の足を引っ張るなら恨むぜってよお!」
「こいつらにとっては、多勢で標的を攻撃することが目的に合致しないため、行動できなかったようです」
ベテラン風の冒険者の連れであるはずの中年魔法使いは人ごとみたいな口ぶり。
彼等が連れてきているボロを着た大男と少女の2人組もまるで話を聞いていない風だ。
「こいつらは敵に一対一で勝たなければ自分達の強さを証明できませんからな」
「はあ!? なに言ってやがんだ!?」
「それに、実を言うと我々はこのオーガを領主の元へ献上されては困りますのでね。オーガ討伐はこいつらが単独で成し遂げた上で、その死体は我々で使わせてもらいたい」
「お前、なにをしようと……俺は、なにと手を組んじまったんだ……?」
「行け、8号機。お前こそが最高の素材を揃えて作られた最強の存在だと証明して見せろ」
「……マ゛ア゛ア゛……」
中年の魔法使いが命じると、初めてボロを着た大男が反応を示す。
ボロを脱ぎ捨てて、その姿をあらわにした。
「……こいつ、アンデッドだったのか!?」
「違います。人の肉を素材としたゴーレム、フレッシュゴーレムです」
中年の魔法使いは得意げだ。
「私が作り上げた最高傑作。あらゆる死体から、最高にパフォーマンスのいい部位を選び出して結合させた最強の肉体。最高の腕、最高の脚、最高の体、どこを取っても最高の力を発揮する究極の人体。それがこのフレッシュゴーレム8号機なのです」
「つぎはぎだらけの化け物……こんなもん連れてきて、なにがしたかったんだ? オーガと力比べでもさせたかったってのか?」
「それもありますが、それだけではありませんね。この8号機の体には最高の部位をふんだんにつぎ込んでいます。最強たるために、最強の右腕や最強の頭蓋骨を探し出して組み込んできました。そして、いよいよ完成するのです。このクリムゾンオーガから最強のチソチソを奪い、それを8号機に結合させることによって……!」
「この化け物のための実験と素材集めのために、わざわざ出張ってきたってのか……」
あれ?
なんだか雲行き怪しくね?
こいつら、俺からチソチソ奪うためにやってきたのかよ⁉
変態やんけ!
一度も女の子に対して使わないうちにちょん切られるとか嫌過ぎだろ!
俺は貞操の危機を感じて震える。
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