第24話 幕間1:誰一人チソチソの話をしていない


 アレク達は3兄弟から離れながら、冒険者ギルド内のざわめきを聞く。


「……オーガ1匹の討伐で報酬が金貨1000枚!? ほんとにそんな美味しい仕事が出たのですか!?」

「肌が真っ赤なオーガでの。領主さまから討伐命令が出たそうな」

「……その遺骸、持ち帰れとのこと……」

「……ははあ、また領主さまの悪趣味がでたのですかね? 僕が思うに、領主さまはそいつをはく製にでもするんだと思います!」


 女の子冒険者達の一行が盛り上がっている。ボーイッシュな魔法使いにドワーフ少女の斧使い、それにマスクで口元を覆った暗殺者風の女の子。

 今、売り出し中のパーティだ。


「……そのオーガ退治にこの2人を連れて行って欲しい。きっと役に立つ」

「構わんが、足手まといだったら恨むぜ。この2人も、そして、お前もだ」


 銀級冒険者のベテラン、恨み屋フィーゴは中年の魔法使いと話している。

 中年の魔法使いの背後にはこれまで見たことのない2人。

 大男と少女だ。襤褸切れをまとってみすぼらしい。


「……今回の相手、お前の腕前を見るによい相手となるだろう。心してかかれ」

「はい、お師匠様!」

「それにしても赤き鬼とはな……予言からは逃れられぬか」


 老剣士に付き従うのは若い二刀流の女剣士。

 異国風の出で立ちはこの町では珍しい。


「……くくく、面白い。つまり、誰がここのギルドで一番腕が立つか……勝負だな」

「くだらぬ。知恵足りぬオーガなど食指が動かぬ」

「そういうな。これはここの冒険者達を食ういい機会……」


 ぼそぼそと言葉を交わすのは、最近フォールダウンの町に流れてきた素性のしれない4人組。

 普通の冒険者達とは違う禍々しい雰囲気に、周りからは距離を置かれている。


 どうやら、ここの冒険者ギルドでそれなりの力を持つ連中はみんなオーガ退治に参加するようだ。

 その中の一角で、獣人族の女盗賊が自分の仲間達に注意を促している。


「……ちょっと厄介なのが、そのオーガ、結構強めの魅了をかけてくるみたいなのにゃ。かかったエルフが教会送りになって今も治療中にゃんだとか……」


「……わ、私は大丈夫だからね!」


 突然、そばを歩いていたクレアが上擦った声でアレクに話しかけてきた。


「あ? ああ。もちろん、俺だって全然平気さ、グリン3兄弟あんな奴等のいうことなんか」

「え? あ、ああ、うん。そう、そうだよね。私達はオーガに洗脳なんかされてないから……」

「失礼だが、諸君らもオーガ退治に行くのだろうか?」


 そんな2人の会話に急に割り込んできた者がいる。

 重装鎧を身に着けた若い女騎士だ。


「光の戦士アレク殿に、聖女見習いクレア殿、だったかな? 諸君らが最初にクリムゾンオーガと対峙したと聞いているが」

「あんたは?」

「聖騎士のメリルという。よければ私と手を組んでもらえぬだろうか。諸君らはあのクリムゾンオーガと出会って無事生還した。その経験は何物にも勝る。共に悪逆なオーガを討ち果たそうぞ」

「え、そりゃ仲間は多い方がいいけど……」

「……だめ!」


 クレアの思いもよらぬ強い口調に、アレクは振り返る。


「なにがダメなんだ、クレア?」

「……見たでしょう? あのオーガは明らかに強力な洗脳能力を持っていたわ。もし、またあいつと出会ったら……こ、今度は取り返しがつかないことになるかも……。アレク、オーガ退治は諦めましょう」

「じゃ、じゃあ、あのエルフのタマリエルとかいう子は見捨てるのか?」

「それは……」

「あの邪悪なオーガを倒さない限り洗脳は解けないかもしれない。あの子が一生、あんな間違った気持ちを持ち続けるなんてかわいそうだし、正しくないことだ!」


 アレクの言葉に、クレアが唇を噛む。

 その様子を見ていた聖騎士メリルは厳かに告げた。


「私なら、かのクリムゾンオーガ退治の役に立てると思う。話を聞く気はないかね?」

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