第19話 チソチソ小さくする邪神の伝説
デスメソスは気が気ではないのか、俺の股間に険しい目つきを向けてきた。
「チソチソを小さくする邪神を、これは邪神だ、と判断できるくらいには、貴様も善悪の判断ができるようだな。……なのに貴様は、それでも自分のチソチソは小さくしたいと望むのか。度し難いクソアホオーガだな」
「俺一人のチソチソ小さくするのとみんなのチソチソを小さくするんじゃ規模が違うし、個人の自由だし!」
「くそでかチソチソは世界の宝だ! 貴様の股間にはある意味、世界遺産がぶら下がっているのだぞ! 大切に保護して、すくすくと大きく育てていきたいとは思えないのか!?」
「チソチソはそんなありがたがって額に入れて飾るようなもんじゃねえ! みんながニコニコ大人も子供も笑い合えるために使うもので、みんなが幸せになれるなら小さくしたっていいんだ!」
「……原理主義者か、貴様……!」
「いいから、チソチソを小さくする邪神の話をしろよ。気になるから」
「くそ、いつか貴様にも理解させてやる、無学なオーガが……」
デスメソスはむくれ顔で呟いた。
それから、一旦咳払い。
「……邪神がもたらした災厄を聞けば、貴様もなぜチソチソを小さくするのが許されざる罪なのか理解できるかもしれん。その図体のわりに小さな脳に教えてやる。……すべてのチソチソを小さくする力を持った邪神がどこから来たのか、それは誰も知らない。ただ、邪神の存在が広く知られるようになったのは、古王国時代の末期のことだ」
「古王国時代?」
「魔法が高度に発達した時代だ。人々は繁栄を謳歌して、争いもなく平和な時代だったとされている。今とはまるで違う。だが、そこに邪神が現れた」
「なんだ? するってえと、邪神がみんなのチソチソを小さくすることで争いが絶えなくなったんか? それまではチソチソがでかかったのに、ちっちゃくなってみんなオコになっちゃったの?」
古王国人と今の人間ではチソチソの大きさが違うとか、そういう生物学的な違いでもあるんか。チソチソの大きさで攻撃性が変わるとか?
チソチソ小さいと喧嘩っ早くなるとか、そういうもんでもねえだろ。
「そんな話ではない。邪神はすべてのチソチソを小さくしたのだ。生きとし生けるもの、すべてのチソチソを。するとどうなるか。人々は生殖ができなくなった。生殖に必要なだけの大きさのチソチソがなくなってしまったからだ。いや、人に限らず、家畜や獣、鳥に魚に虫に至るまで、全てが子供を為せなくなった」
「え、それってやべえじゃん。いずれ絶滅しちゃわん?」
「そのぐらいの知恵は回るようだな、オーガ。その通りだ。ライフサイクルの短い、虫のような生き物の多くが短期間で滅んだ。そして、それらをエサとする小動物も激減した。となれば、それら小動物をエサとする動物達も飢えて倒れる。それだけではない。虫が媒介することで育つ作物も、実を為すことなく立ち枯れる。人々はすぐに食うものにも困るようになった。そしてそれは争いを生み、古王国は分裂。血で血を洗う戦乱が巻き起こった。だが、それ以上に人々は緩やかに自分達が滅んでいくことに、自分達には未来がないことに絶望した。邪神の暗躍により、古王国時代は陰鬱としたものになり果てていったわけだ。……わかるか?」
デスメソスは強い口調で俺の股間に呼びかける。
「チソチソが小さくなる魔法──呪いといってもいい。ただそれだけのことで世界は滅びかけたのだ! なのに貴様はまだ世迷言を抜かすのか?」
チソチソ小さくしたいってだけの可愛らしい話から随分壮大な話になっちゃったな、これ。
チソチソって大事なんだね。
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