第8話 俺ちゃん、スカウトされる

「あ!」


 俺が一瞬怯んだ、その隙をつかれてしまった。

 光の戦士達はタマリエルを拘束すると、マントを光らせて飛び去ってしまう。


「勝負は預けておいてやるからありがたく思うんだな! でくの坊オーガが!」

「……私達が殺しに来るまで、誰にも殺されないよう気を付けておくことね!」

「オーガ様! オーガ様ぁ! どうか私を救って……!」


 光の戦士達の捨て台詞とタマリエルの叫びがか細く消えていく。

 僅か数秒での犯行。

 人を攫うのに手慣れてやがる……!


「おいいいい⁉ 俺のエルフちゃん返せええええ! まだ何にもしてないんだぞ? 何にもできてないのに、こんなのって……こんなのってあんまりだああ!」


 エッチできそうなエルフ、目の前で取られた!

 俺はその事実に目の前が真っ暗。

 こんなチャンスもうないかもしれないのに……!


「俺んだぞ! 返せ! 戻せぇ!  泥棒―! どろぼー! ろろぼー!」


 最後悔しくて泣いちゃった。

 届かぬとわかっていても、俺は涙を浮かべて虚空へ石を投げる。

 投げた石の数だけ男の子は強くなれるから。適当に言った。

 そんな石の1つが崖上に達した。

 そこにあった茂みを鳴らす。


「……いつから気付いていた?」

「え? 誰だ?」


 がさり。

 俺が石を投げ込んだ崖上の茂みからフードを被った人影が姿を現す。


「愚鈍なオーガと侮っていたが……お見通しだったという訳か?」


 マジで誰だよ?

 てか何?

 次から次へと。


「クリムゾンオーガよ。貴様は抜け目なく私を見つけ出し、冒険者共の襲撃も難なく切り抜けた。やはり私が目を付けただけのことはある。合格だ。喜べ。貴様は死人使いデスメソスの眼鏡にかなったのだ」

「あ、これ完全に悪い奴やん。名前にデスって……わかりやすくて助かる」

「お前は何を言ってるんだ、赤オーガよ?」

「……そんなのはどうでもいいんだよ! 俺はあのエルフのタマリエルちゃんを追いかけなきゃいけないんだから! あんた帰ってくれる?」

「あのエルフの娘にえらくご執心だな? そんなに気に入ったのか?」

「あほか!? エルフちゃんだぞ!? しかも好感度バク上がりしてるんだぞ!? 今すぐ結婚申し込みたいだろうがああああ!」

「……チッ」

 

 舌打ち!?

 後輩に舌打ちされたこと思い出して胸が苦しいんだが!?


「……ふん。ならば、手を貸してやろうか? もっとも、その前に誓ってもらうことになるが」

「誓う? 何をだ?」

「私、死人使いデスメソスへの忠誠だ。貴様には我が軍団に入ってもらう」

「軍団て……」


 悪人臭さ半端ない。

 そんな死人使いの仲間になれって?

 ……なんか合わなそうな奴にスカウトされちゃったな。

 俺はチソチソが萎れていくような気分になる。


「断ればどうなるか……それくらい想像できる頭は持っているだろうな? さて、返答は?」

「俺は……」


 俺は言葉を一旦途切れさせた。

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