第6話 オーガ絶対殺すマンズに殺意ストレート向けられて泣きそう

 俺が性的なことで真剣に悩んでいるのに、光の戦士達はのんきに話し合っている。

 エルフのタマリエルに気遣わしげな眼を向けていた。


「オーガがエルフを殺して食べようとしなかっただと? そんなバカな……」

「きっとあなたは混乱しているのよ、タマリエルさん。わたし達は攫われたあなたを救うよう依頼されて来た味方よ? 大丈夫、落ち着いて……」

「私は冷静です」

「いいえ、そうは思えないわ。あなた、自分がどんなにおかしなことをしているか、よく考えてみて! あなた、この醜く臭いオーガを庇おうとしているのよ? こいつは汚らしく生理的に受け入れられない人食い鬼なのに! 見なさい、あの濁り切った邪悪な目を! 豚の方がまだ誠実だわ!」

「この赤きオーガ様はただの人食い鬼ではありません! それどころか、この方は高潔な紳士できっと我々エルフの救い主となるお方です! どうか手を出すのはおやめください」

「……ど、どういうことだ⁉ クレア!?」

「く……手遅れだったみたい。この子、この卑劣なオーガに魔法か呪いで洗脳されてしまって操られてしまっているのよ」

「なに⁉ こんな可憐なエルフ少女を自分の意のままにしているだと……! どれだけ邪悪でいやらしいクソ野郎なんだ、こいつ……!」


 俺は俺の苦悩も知らないで勝手なことを言うアレクとかいう光の戦士に激怒した。


「おいおいおいおいおい! なんで俺が責められる流れなん!? ふざけんなよマジでぇ!? こっちはなあ! この子をエロ催眠で言いなりにとかチソチソなしではいられない体にしたったとかじゃねーんだよ! まだやってねーんだよ! てか、できねーんだよ! たろすけ!」

「なんて下品な奴だ、死ね!」

「アレク、今ならまだ間に合うかも。呪いを解いて洗脳から目を覚まさせればこの子もきっとまともになれるわ! 一刻も早く町の教会へ!」

「……いや、そんなことをしなくても、もっと簡単に目を覚まさせる方法がある! それは、こいつを今すぐ討伐することだ!」


 途端に俺のうなじの毛が逆立った。

 ぞわあ。

 光の戦士の目つきを見たらそうなったのだ。


「銀級冒険者の剣技、お前みたいなくそザコオーガに振るうのも汚らわしいが、使ってやる。ありがたく思え!」

「おい、やめろって! 俺、何にもしてねーっての!」

「くらえ! 脳震撃(ディズィングブロウ)!」


 叫んでジャンプした光の戦士。

 マントはためかせ、俺の頭上にまで飛び上がる。

 そして過たず、俺の脳天めがけて大剣を振り下ろし!

 ぐわー。

 鉄塊が俺の頭蓋を鈍い音立てて粉砕する……かと思った?


「なに⁉ ぐえ……!」

「……びびったぁあああ! マジで死ぬかと思ったじゃん! なんでそんな酷いことするの⁉」


 俺は大剣を右手で思い切り払いのけ、光の戦士ごと弾き飛ばしていた。

 ゴロゴロ転がって体勢を立て直す光の戦士。


「アレク! 大丈夫!?」

「ば、馬鹿な……! 脳を揺らして意識すら刈り取る、俺の渾身の一撃だぞ……? それを軽く一払いで打ち消すなんて……! こいつ、まともにぶつかったら銀級冒険者でも倒せないってのか……ごふっ……」

「いけない……! このまま追撃されたらアレクが死んじゃう……!」

「いや、そんなことせんから、もう帰ってくんないかな」

「黙りなさい、醜いオーガ! ルーンオブピース!」


 聖女見習いが護符を掲げると、宙に光り輝く文字が浮かび上がった。

 読めんが。

 その文字がひゅっと飛んで俺にまとわりついてくる。

 おお⁉

 なんだこれ⁉

 

「それは平和のルーンよ! そのルーンが刻印されている間、あなたは誰も攻撃する意思を持てない。ざまあみなさい! さあ、アレク! あの邪悪なオーガが無抵抗の内に正義の鉄槌を下すのよ!」

「元から攻撃する意思なんかないんだが!?」

「よ、よぉ~し! いいぞ、クレア! よくもやってくれたな、デカいだけのウスノロが……正義のなぶり殺しにしてやる……!」


 おいおいおい!?

 なんでこいつらオーガ絶対殺すマンになってんの⁉

 どうしたらこいつらに敵意はないって信じさせられるんだ……!

 俺はただエルフとエロいことしたいだけなのに……。

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