12.4 陽キャの中身は意外と複雑なのかもしれない
指摘されるままに中澤も手元を確認し、「あー……」と分かりやすく返事に困る。
この感じ……。
やはり中澤はわざと笠原と行動する事を選んでいたと言うことか?笠原に対してあれだけ奥手だった中澤がこんな分かりやすい俺でも推測出来るような行動を……?
「……まぁでもこれだけあれば大丈夫じゃ無いかな。そんなに多く使うわけでも無いし」
「ふーん、まぁ良いけど」
柏木の鋭い視線が中澤を捉える。だがこれは単に、電池切れを理由に自分が残る事を断られた件について納得が行っていないだけとも取れるよな。女性の勘は鋭いって話もよく聞くが……。
事情を知っていて尚且つ、明日の雰囲気を考えると中澤の邪魔をする事だけは避けたい。それにこの「誰が残るべきか会議」を気まずそうな顔で黙り込む笠原の姿も見るに耐える。
とにかく今は、この先どう進むにしても急がねばならない事には変わりは無いだろう。
「誰でも良いだろ、残るのなんて。そろそろ行かねぇと片付け間に合わなくなるぞ」
この話し合いを終わらせる為にも俺は重い太腿を引き上げ一歩。そして涼しげな顔を装った。が、
「ちょっと待って」
「うわっ……急に引っ張んなよ」
脱力し切っていた左腕を勢いよく後ろに引かれ思わずよろける。そのせいでずきずきと筋肉痛の走る太腿が悲鳴を上げた。
なんとか痛みを抑え込み振り返ると何か物凄い案でも閃いたかのように人差し指を立てた神谷が瞳を輝かせている。
「そうだよ!ヤナギが希美と来るのが一番良いじゃん!」
「は……?」
「は……?ちょっと待って、こいつが希美と……?」
「え……俺の代わりに柳橋くんがって事?」
ただでさえ静かな山道がさらに静まり返る。
またこいつは余計な事を……!
そんな事はとうに知っている。
中澤の反応を見るに少なくとも俺と中澤は敢えて避けていた選択肢だったんだよ。柏木が何故言い出さなかったのはよく分からんけど。
「だってさぁ、テントの片付けとかもヤナギより優也くんの方がパパッてやってくれそうだし……もうヤナギへとへとじゃん」
「お前なぁ……」
ど直球に言うなそんな事。そーゆー事はもう少しオブラートに包んで言え。
「てか、疲れきってんのはお前も同じだろ?ここまで来る時へばってたじゃねぇか!」
「私はまだ大丈夫。ヤナギより体力あるし。あとヤナギずっとゲームばっかりしてたのに何故か充電いっぱいだし」
無意識に時間を確認したままだった俺のスマホ画面を横目でチラ見しながら神谷は得意そうに言い足した。
俺もなんかしら言い訳でも付け足そうとしたが、それはそれで笠原に無駄な責任を感じさせてしまうだろうと思い、敢えて返答はしなかった。
「へ、へぇ……そう……まぁ……それならしょうがないわね」
「……うん……分かった。そうしよう。じゃあ俺達は先行くから、何かあれば柳橋くんに連絡するよ」
「おう……」
悪いな中澤。俺からけしかけておいてこんな感じで……。せっかくのお前のチャンスを邪魔するようなカタチになってしまって……。
当然の対応なのかもしれないが、中澤はそれ以上何か付け加える事もせず表情でも何も語らずに先へ進んで行った。
「みんな……振り回しちゃって本当にごめんね……私……明日は皆んなの倍働くから!」
取り繕うような不器用な笠原の笑顔と言葉に、3人は暖かく微笑む。
「希美〜、私達遊びに来てるんだよ〜。じゃあまた後でね、ヤナギも」
先に進む2人の背を小走りで追いかける小さな背中は段々と遠のいて行った。
あいつ……まだそんな余力を隠し持っていやがったのか……。
***
ゆっくりと歩き進めるも、目的のものらしい物は見当たらない。
もう既に誰かに拾われた可能性も考え、先程俺のスマホから笠原のスマホへ電話をかけてみたが繋がりはしなかった。
どの範囲にあるかも分からない上で何度も電話をかけるのも無謀だ。本人曰く、笠原のスマホの充電もそう多くはないと言う事だ。
「本当にみんなに悪い事しちゃった……」
「落ち込むのも分かるけど、俺らに対してはもう良いんじゃ無ぇの?故意でやった事でも無いし、一々そんな事で責めたり嫌ったりするような連中じゃ無いだろ、あいつらは」
「……そうだね……切り替えなきゃ」
まぁ多分無くしたのが俺だったら確実に柏木がブチギレていただろうけど、笠原に対しては絵に描いたような真っ直ぐすぎる信頼関係が築かれているみたいだし。中澤と神谷に関してはそもそも人の失敗を責めるという思考回路が存在していない。
俺の場合は自分自身が失敗の道を歩み過ぎたせいで予定通りに事が運ばないことに慣れてしまっている。そのせいでたいていの事態には「まぁそーゆー事もあるだろう」と特に考えもせず受け入れてしまう。
てか、そもそも俺に他人を責める資格があるのかどうかって問題に行き着いてしまう。
「せっかくこんなとこまで来て楽しんでたのにスマホを無くしたって記憶だけ残るのも嫌な話だろ」
「そうだよね……!ありがとう!あとよかった。柳橋くんも楽しんでくれてたんだね!」
「なんだよそれ。どーゆー意味だよ」
「いやぁ……ほら、柳橋くんってあんまり感情を表情に出さないからさ、本当はこーゆー場所あんまり好きじゃなかったりしたらどうしようって思ってて……へへへ……」
俺が前を向いたタイミングで少し先を歩く笠原が振り返り目が合い、笠原は柔和な笑みを溢した。
距離が意外にも近かった事もあり、俺は1秒と経たぬまに目を地面へと逸らしてしまう。人と目を合わせるのはやっぱり得意では無い。それも近距離となれば往年陰キャには少々ハードルが高すぎた。
「たまにはな。あとその……良い記憶より悪い記憶の方が残りやすいだろ?人によるのかもしれないけど」
卒業式の返事で声が裏返った事とか他クラスの女の子が自分に手を振っていると勘違いして振り返しちゃったこととか無駄に鮮明、いや、寧ろ悪化した形で永遠に残り続けてるもんな。そして羞恥心で死にたくなる。
「なるほど……?そーか!じゃあこの時間も楽しい思い出にしようって事だね!」
「ん……?いやまぁ……そう出来るなら1番良いのかもな」
「うん!そうだよね!」
変な伝わり方したみたいだけどまぁ良いや。隣でしょんぼりされるよりかはいつものうるさい方が扱いやすい。
「……こうして話せる事も無かったかもしれない……」
普段であれば聞き流してしまうような声量の言葉もこの夕暮れの大自然の中では異様な程に耳によく届く。
何か話さなければならない事でもあるのだろうか……。
思い当たるところでは……田辺先生からの雑用依頼か……生徒会選挙関連の何かか……。
「あ、そー言えばね!私、生徒会選挙に出ることになったんだー!」
「へぇそう」
この話題って事はそれに手伝えって話が始まるのか?なんでも良いけど。
「え!?あんまり驚かない感じ?」
「驚くも何も中澤から聞いてたしな。あとお前ならそーゆーのやりそうじゃん。神谷が言ってきたら驚くけど」
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