12.3 陽キャの中身は意外と複雑なのかもしれない
身の周りの片付けを済ませ、笠原と共に中澤達の元へ向かうと、そちらも同じようなタイミングだったようで片付けをしている途中だった。
「誰も釣れなかったんだね……」
苦笑を浮かべながら中澤がそう言うと笠原もなんとも言えない感じに笑った。そんな様子を見てどこか得意げな表情の柏木はスマホを片手にちらちらと俺達へ視線を飛ばす。
「楽しかったからよかったよな」とかなり無理のある事を俺に共感を求めてきたが否定するわけにもいかず、俺も「そうだな」とテキトーに返した。
だが、道具を一通り返却し、来た道から帰ろうとした時、先ほどまで隣にいた笠原が池の方へ向かうようにふらふらと歩いて行くのが見えた。
それには他のメンバーも気づいたようで、足を止める。
「ちょっと希美ー?何してんの?もう行くよー!」
「うーん……ごめん先行っててー!後からすぐ追いかけるからー!」
柏木の呼ぶ声に笑顔で答えると笠原は再び下を向き、何かを探すように歩き始める。
「何か落としたのかな?……聞いてくる……」
神谷はそう呟くと笠原の元へ歩いて行った。
俺はスマホの時計を確認した。次のバスの時間まではあまり余裕もなくなっている。小さい池とはいえ、あれだけ動き回っていたら範囲も絞れやしないだろう。
そんなことを考えながら顔を上げると、いつの間にか中澤と柏木も笠原の方へ向かっていた。
「希美、スマホ落としたんだって」
俺の少し前にいた柏木が少し不安そうに言った。
「バス間に合うのか?」
「分かんないけど……スマホ無い方がヤバいでしょ」
「確かに。かなりの暇を持て余すよな」
「そうじゃない!連絡取れないと色々良くないって意味!」
「あ……そ、そうだな……」
呆れた目を向ける柏木に合わせる目がねぇ。ついつい本音が出てしまった。
まぁ理由はどうあれ早く見つけるに越した事はない。既に俺以外は探索を始めている。俺も池の方に向かって足を進めた。
***
「見つからないね……」
小さいため息と共に神谷が呟く。
もう何周か歩いて回ったがそれらしき影は誰も見つけられてはいない。正直こうなると濁った池の中、もしくは山道のどこかとしか考えられない。
もう既に予定していたバスは行ってしまっているし、次のバスまでも時間もあまり無い。それに、どうやら次に来るバスがこのキャンプ場から乗れる最終のバスらしい。そろそろこの釣り堀も閉まる。
「ごめん……ここまでみんなに付き合わせちゃって……でもこれ以上は帰れなくなっちゃうと悪いから……えっと……」
不安を隠すように無理な笑顔を作りながら笠原は言葉を選ぶ。
笠原には悪いが、確かにこのまま歩き回っても見込みは薄い。
受付の方から歩いてきた中澤が自分のスマホを見せるようにして、
「確かにそろそろ切り上げないとかもな。受付のおじさんには見つかったら俺の所に連絡もらえるように伝えておいたから」
「ありがとう優也くん」
なんとなくこのまま諦める方向になりかけていた時、1人だけ納得のいかないように腕を組む柏木が口を開いた。
「いいの?希美はそれで」
「うん。これ以上みんなに迷惑かけられないよ」
なんとも無いようにしてるけどスマホ無くなるのって結構しんどいよな。まぁ俺は無くした事ないしどちらかと言うとゲームでイラついて壊す事が殆どだけどそれでも割と落ち込む。
でも本体が無くなるって事は色々なデータとかも無くなるわけだ。笠原の場合写真とかも多そうだし……。
今ひとつ納得のいく解決策が見出せないまま気まずい空気が流れる中、じっとスマホに視線を落とす神谷がいつもよりやや大きめな声で呟いた。
「まだバスあったよ!少し歩くけど違うバス停ならもう1時間後にバスがある!」
神谷は嬉しそうにその画面を周りに見せつける。だが、
「本当に私は大丈夫だよ。あと今日は夕食も作る予定だったから……その時間だとちょっと遅くなりすぎちゃうし……これ以上予定狂わせちゃうのは申し訳ないよ」
「そう……」
笠原の答えに柏木は不満を顕にしつつ、それ以上問う事は無かった。
本人がこう言う以上俺達がどうこう言うのもなんか違う気もする。これ以上の話し合いは時間を無駄にするだけだろう。
「どうするにしても一旦は戻るべきかもな。ここまでの道とか置いてきた荷物に紛れてたりする事もあるだろうし」
そーゆー事もよくありがちなことではある。しかもどこか抜けてる笠原なら十分にあり得るだろう。
「確かに。残念だけど柳橋くんの言う通りかもな。ここももう閉まるみたいだ。後は帰り道とテントの近くにある事を信じよう」
「そうね」
「そうするしか無いかぁ……」
「ごめんね、みんなありがとう」
中澤の言葉に3人は納得の表情を浮かべる。
だが俺だけは違う。
何故なら今こいつは俺の言った事を再度繰り返しただけなのだ。言う人が違うと、こうも説得力が違うのかよ……。
***
茜色が斑らに差し込む山道を足元を確かめながら進む。辛うじてまだ暗くはないがそれなりの距離だ。疲労も溜まる。
しばらく進んだところで中澤が立ち止まった。
「このペースだと片付けをする時間がちょっと心配だから……二手に別れないか?先にキャンプ場に戻って片付けをするグループと後からゆっくり追いかけるグループでさ」
そうか、チェックアウトの時間もあったか……。確かに、中澤の言う通りこのままでは少し時間が足りなくなりそうではある。
「そうね……その方が効率も良さそう。先に行く3人と後から追いかける2人ってことよね?」
柏木が確認をするように中澤を見ると、中澤もこくりと頷いた。
この感じだと必然的に笠原と誰かが後から追いかける事になるのか……。手際のいい中澤は先にキャンプ場へ行くだろうから残るのは柏木あたりか。
そんな風に考えていると、他も同じだったようで柏木が笠原の隣へと近づいていった。
「私と希美で後から行くわ。それでいい?」
「なんでもいいよ〜」
「俺も」
「ありがとう美香」
二手に別れるときはしっかり者の2人を分けるのは妥当な判断だ。強いて何か問題点を上げるとすれば、俺と神谷の歩くペースではさほど早くは到着できないと言う事。
「柏木はスマホ持ってるよな?」
「あるけど……でももう充電が無くなっちゃってるわ」
中澤の問いにそう答えると柏木は自分のスマホ画面の点滅したバッテリーマークを見せる。
「それだと……もしもの事があった時とか、ほら、俺の所に釣り堀から連絡があったりしても分からないだろ?だから……」
これは……そーゆー意図……?いや、違うか。あの中澤だ。流石にこんな場面で私情を挟んだりしないよな。
「確かにそうね。じゃあ優也と私が変わる?」
「その方が俺は安全だと思う」
中澤と柏木の位置が自然と入れ替わった。そのやり取りの傍らで神谷も「私のもほとんどなーい」と、バッテリーが残りわずかのスマホをちらちら振りながら俺に見せて来た。
写真とか色々と使うから無くなるんだろうな。まぁゲームにとことんバッテリーを使うと見越していた俺は予めモバイルバッテリーを持参し、途中で補充していたんだが。はっはっは。
「あ、待って!」
「どうかした?」
「優也のもあと少ししか無いじゃん。それで大丈夫なの?」
中澤が手に持つスマホの画面を指差しながら柏木は尋ねる。反射的に目に映った中澤のスマホ画面には、確かに残り15%と
赤い文字が浮かんでいる。
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