11.7 人脈は関わる人間によって増えていくらしい
「え……?俺の部屋……?」
動揺と言うか、発言が予想外すぎておどおどとあからさまに返答に困ってしまった。
「あー……見られちゃ困るものでもあった?それなら……」
「いや、そーゆー事じゃないけど」
そんなブツ堂々と置いてるわけないだろ。あったら真っ先に親に見つかってる。世はペーパーレスな時代なんだ。
「じゃあ何?」
はっきりしない態度に少し強めの返しが来る。まぁこれと言って嫌な理由があるとかでは無いが……。
「いや、何と言うか……そーゆーのって普通女性側が拒むものとばかり思ってたから」
「……」
何も答えが来なかったのでふと顔を上げると柏木は、変に堅い表情で俺を見ていた。よく分からんな。
「まぁお前が良いなら良いけど……」
***
普段は鈴ですら入りたがらない俺の部屋に学校でしか見ない顔がいる事実。暑さ対策の為もあって戸を開けているおかげで密室である感じはあまりしないが俺とてそれなりに緊張はしている。
他の部屋から持って来たクッションの上に柏木が座る。俺はベッドに腰を下ろした。
「なんていうか……殺風景……もっとヲタクっぽい部屋かと思ってた」
ぐるりと部屋を見渡し、柏木は言う。やはり側から見るとヲタクと思われているようだ。
「必要ないものは置いてないんで」
「ミニマリストみたいな?」
「いや、ああ……そんな感じかもな」
意識した事なかったけどちょっとかっこいい響きに惹かれて頷いた。すると柏木はふーんと興味なさげに相槌を打つ。
「それでバーベキューの話ってのは?」
「来週の土曜日。空いてる?」
「まぁ俺は大丈夫だけど」
念の為バイトのシフトを確認しつつ俺が答えると、柏木は小さく頷いた。
「まだ確定してはないみたいだけど今のところその日にしようとしてるらしいわ1泊2日で」
「1泊2日?バーベキューなら1日で十分だろ」
突然出てきた情報に驚いたがそれと同時に俺が何も聞かされていなかったことにも驚いた。俺本当に誘われてたのか?
「まぁ……時間あった方がゆっくり出来るし良いんじゃない?バーベキューは河原でやるみたいだけど泊まる場所は綾の家の別荘みたいなの借りれるみたいだし」
視線を窓の外へ向けながら柏木は言う。
確かにそうだよね!とでも言うと思ったか?その情報俺が何も知らなかったのおかしいだろ。てか、なに?別荘?神谷の家ってそんな金持ちだったのか。
にしても……夏休みに河原でバーベキューとか陽キャかよ。いや、俺以外はそうか。だけど誘われたとは言え、今一つ俺と俺以外のメンバーとの間に溝を感じずにはいられない。
「何?あんた行きたくないの?」
顔に出てしまっていたか?俺の抱えるこの解れない感情が表情を通して「行きたくない」と言うふうに思われてしまったらしい。
「いや、そーゆー訳じゃないけど……悪い、何でもない」
誘ってもらった身でここでぐだぐだ言うのはやっぱ違うよな。笠原達も善意でそうしたんだろうし、その理由まで勘繰るのはあまり気の良いものじゃない。
「あっそう。後さぁ……あんたに1つ聞いておきたい事があるんだけど」
「ん?なんだよ改まって……」
気の強そうな視線がビシバシと伝わり俺は目を逸らす。そもそも今のこの状況も落ち着かなくてしょうがない。
「私はね、あんたのことよく知らない。まず存在を知ったのがこの春な訳だから当然よね?」
「まぁそうだな……」
いつものテキトーな感じではない。柏木は何か覚悟のような物を決めたように順々に言葉を並べていく。
「でもこの前あんたが希美と過去に一悶着あったってのを知って……」
「うん……」
終わったことを掘り返されるのはあまり好きではない。だが柏木の聞きたいことがこれではない気がしたのであえて口を挟む事は避けた。
「前に一緒に出かけた時聞いたわよね?あんたが鈴に甘くする理由。あの時は濁されたけどなんかあるなら教えて欲しい」
柏木の目が言う。決して軽い気持ちではない。俺とてそこまで大袈裟にしているつもりはないが周りからそう見えるって事は以上なレベルだからなのだろう。けどなぁ……。
「いや、まぁなんだろう……それを知ってお前はどうしたいんだよ」
「どうしたいって……あんたの事知りたいからって理由だけじゃダメなの……?」
「……えっ……俺の事を?知りたい……?」
「あっ、ちょっ!違う!へ、変な意味じゃないから!あんた達兄妹とこれから関わってく中でずっとモヤモヤしたままだと嫌だからって意味で……!」
「あ、そ、そうだよな……」
あっぶねぇ、一瞬ドキッとしちまった!100%無いと分かってても期待してしまう。それが陰キャ。
カァっと熱った顔面を深い呼吸で冷まし、俺は平静を取り戻した。
「別にそこまで言うなら良いけど。大した理由じゃねぇよ?」
「うん」
「簡単に言えば……その……笠原から聞いたって言ってた例の事があった時の事だな。流石に当時の俺じゃあ無傷では無いわけ。そん時に親とか担任の先生なんかよりずっと近くに居たのが鈴だった。その借りが俺ん中でずっと残ってるだけだ」
改めて自分の口から話すと小っ恥ずかしいな。自爆のフォローを妹がしてくれてたなんてみっともないにも程がある。
それでも「嫌われ者の妹」を嫌な顔一つ見せず
「それ……鈴はどう思ってるの?」
顔こそ下を向きながらも問う柏木に俺は答える。
「正直分からん。でも多分あいつも気付いてはいると思う。だから側から見たら一見俺を小馬鹿にしたような態度でもあいつなりに頼っている風を装って俺を立ててくれてるんだと思ってる」
ペラッペラな人生のくせに自分語りをしているようで恥ずかしくなったので、首に手を回しながらチラリと柏木へ横目をやる。しかし、
「へぇそう……ふーん……」
「おい!お前が聞きたいって言ったん……だろ?……え、どうした……?」
「別に……」
目を擦りながら鼻を啜るような音。いや、泣くポイントどこにもなかっただろ。どーゆーことだ?
「は、ハウスダストよ!多分!……この部屋ハウスダスト凄いわ!」
わざとらしい咳払いをして手で顔を覆う柏木。
「まじか。掃除したばっかなんだが……」
「関係ない!あ、そろそろ鈴起きた頃よねきっと。じゃあまた」
「え、ああ……」
タタタッと階段を降り、消える。自分の部屋なのに何故か置き去りにされたような寂しさを感じた。
***
先日の報告から数日後。
俺の元へも正式に連絡が届くようになった。よく考えれば圧倒的に予定が少ないであろう俺を最後に確認するのは妥当な考えではある。バイトあるからそんな暇でもないんだけど……。
メンバーも笠原、中澤、神谷、柏木と既に固まったらしい。大まかな予定としては、駅に集合した後電車とバスでキャンプ場へと向かう。そして夜にバスで神谷の別荘とやらへ向かう。だが、話し合いが進むにつれて若干の変更が生じ、キャンプ場と神谷の別荘とで少し離れた場所になったらしい。
翌日は少し離れた遊園地へ行くと言う話だ。基本的には笠原、柏木の2人で決めたものに所々中澤が口を挟む程度だったみたいだ。特に強い希望もない俺と神谷は提案されたものにただ賛同していた。
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