11.8 人脈は関わる人間によって増えていくらしい
結局1日として直接会って話を聞く機会もなく当日。俺は改札近くの壁に沿って立ち、待っていた。
日程や持ち物やら費用やらは新しく作られたグループラインを用いて行われていた。相談部の面子に柏木がいるだけなのだからフツーに相談部のグループに柏木入れれば良いだろ、と俺は思っていたがそう簡単には行かないらしい。
まだ僅かではあるがバイト代も入った事で金銭的余裕も出来た。……まぁ今後はもう少し鈴への出費も減らすつもりだし……。
ふとスマホの時計を確認すると時刻は13時50分。集合時刻とされていた14時まではもう直ぐだ。
生まれ持った心配性により俺は既に15分待っている。家にいると妙に落ち着かず早く出てきてしまったがここで待つのはそれはそれで落ち着かない。
「まさか待ち合わせ時間を間違えたのでは?」と要らぬ予感を過らせつつ周囲にふっと目を向けると、正面方向から爽やかな男がキャリーバッグを引き摺りながら片手の平を俺に向けながら歩いて来た。
「お!やっぱ早いね」
「まぁ……14時で合ってんだよな?」
「そうだよ」
お洒落云々については言及出来る立場に居ないが、そんな俺でも感じる"なんかイケてるなぁ“と言う感覚。それがビビビッと伝わって来る。「暑いねぇ」とか言いながら仰ぐ格好や額に光る水滴さえもそこらの有象無象の男とは違う。なんか隣に立ってんの気まずっ……。
だがこんな奴でさえも誰も来ないよりは随分マシだ。認めたくはないがちょっと安心した。
程なくして残る3人が同じ方向から現れた。来るなり相変わらずのテンションの笠原とそれをやや抑えるように口を挟む柏木。そしてひたすら相槌と反応を見せる神谷。やっぱバランス良く成り立っているグループなんだろうと改めて感じる。
彼女らの他愛無い会話をぼんやりと眺めていたら、斜め右下に妙な視線を感じそちらを向く。
「久しぶり。元気そうだね」
「おう、まあな……」
唯一俺と変わらぬテンションでこの場にいるのは
久しぶりと言っても半月と少しくらいのものだろうが。
「どうかしたのか?」
小さい口をぽかんと開けて俺を見上げる小動物に問う。すると、
「なんか、こーやってヤナギと一緒に遊ぶの初めてだなぁーって思って……なんか楽しみ」
「そうか……」
俺を見てどこからその「楽しみ」と言う感情が湧いてくるのだろう。友達と遊ぶという事ですら圧倒的に経験値の少ない俺に何を期待していると言うのだ。
「お前の家って金持ちだったんだな。別荘持ってる人なんか身近に聞いた事ねぇよ」
「うーん……どうだろう。厳密には別荘って言うより親戚が建てた家って感じなんだよね。それを借りてるような……貰ったような……私もよくわからない」
「そうなのか」
いつも通りのふわふわとした雰囲気の神谷の話を俺は静かに聞いていた。
あちら側の会話もひと段落ついたようなので俺達は既に停車していた電車へと乗り込んだ。が、
「どうする?」
中澤が言う。そう、今日は5人と言う一見きりが良いように見えてそうでは無い人数なのだ。電車のボックス席を座ろうにも1人浮いてしまう事は致し方ない事。となれば俺がどうすべきかも流石に知っている。
俺は中澤達の横を抜け傍に設置されていた二人席に腰を下ろした。
気を利かせているように見えて1番面倒臭いとか思われてもおかしくない行動だろう。だがこれは、俺が無理に気を使ったものでは無い。
てか俺が動かなければ中澤か笠原辺りが譲り合いを始めて余計面倒なことになるのが容易に想像できるからな。
気まずそうに俺を見下ろす視線へ俺は応じた。
「別に違う電車に乗るわけでもないんだ。どこでも良いだろ」
「それもそうね」
奥にいた柏木が軽くそう言ってくれたお陰でその場の変な気遣う空気は解消された。だが、次の瞬間。
ストッ。
大したものは無いスマホの通知欄に目を移す俺の左側が埋まる。反射的にそちらを見るとスマホを弄る色白の横顔。柏木だった。
「えっ……」
突然近距離に現れた柏木とその行動の意が分からず困惑する俺を柏木は手を止めチラリと横目をやる。
「何?あんたがどこでも良いって言ったんでしょ?ほら、1人だと可哀想だと思って」
ニヤリと悪ガキのように口角を上げる柏木に返す言葉も見つからず固まる。すると、
「嫌なの?」
「嫌とかでは無いけど……」
意味不明と言う言葉がしっくりくる。だがまぁ隣を避けられるのに比べりゃあ悪い気はしない。それにここから俺が何を言おうと多分柏木は変わらない。
俺も諦め再度スマホに目を移した。
「じゃ、じゃあ私達はこっち座ろっか……でも美香と柳橋くんって珍しい組み合わせだね……」
「そう?……まぁそうかもね」
荷物を置きながら苦笑いで話す笠原に柏木は俺を一瞥し、答えた。確かに珍しいのかもしれないが……。
俺としては、鈴のプレゼントを買いに出掛けたり、度々家に来ていることもあるせいかあんまり違和感は感じなくなった。まぁ全て鈴絡みの何かだけど。
「ねぇ、あんたバーベキューとかするの?家族でとか」
「した事ねぇよ」
「じゃあ今日が初めて?」
「いや、地域行事で一回海でやったな……皿に盛られたの食べてただけだけど」
「え、それはなんか違くない?」
「違くないだろ食べるのもバーベキューのうちだろ?」
「まぁそうだけど……あ、でも遠足の時やったわよね?」
「あーやったな。マシュマロ焼いてた」
「似合わないよね。言うまでも無いけど」
「じゃあ言うな」
フフと鼻で笑う。単純に慣れというのもあるが、次々に出てくる柏木の話題に引っ張られ電車にいる間は絶えず会話が続いていた。だが毎回最後は鼻で笑われて終わると言う何だか負けたような気分だけが残る。
こーゆーコミュ力お化けと話した後は必ず「実は俺、コミュ力高くなったのでは!?」と錯覚し、直後見事に事故る。陰キャの[特性:実力過信]は中々に危険だから気をつけなければ。
駅に着くとそのまま流れるようにバスへ乗り現地へと向かう。移動の流れでテキトーに乗り込んだ為、今度は隣の席が中澤になった。
「新鮮だよなぁ、このメンバー」
「そうだな」
新鮮……そう言うと聞こえは良い。寄せ集めと言っても良いメンバーではある。そもそも俺からすれば他人と出掛けることがないので比較のしようがない。
普段ならここで会話が終わり、沈黙が流れるだけだろうが今日はなんか違う。電車での柏木により先ほど珍しく話しすぎたせいか、俺としてもこの場で何も話さないのは気持ち悪く感じた。
「バーベキューとかはよくやるのか?……仲間内で」
俺からの話題提供に少し驚いたような間を空けつつ、中澤は普通に答える。
「まぁ……何回かしたことあるかな。コミュニケーションの場としては最適だと思うよ」
「へぇそう……」
コミュニケーションの場って……。その言い方だと俺のコミュ症克服の為みたいじゃねぇかよ。
「あ、もしかして嫌だった?それなら……」
「いや別にそんなんじゃ無いけど。俺は嫌な事だったら変な気とか使ったりしないではっきり断る」
「そっか、そうだよな。……実は今回こーやって遊ぶ事も柳橋くんにとっては迷惑に思われてるんじゃ無いかって笠原達と言ってたんだけど……楽しみにしてくれていたみたいで良かったよ」
「……」
なんか物凄くポジティブな方向へ変換された気がしたが。まぁ何でも良いや。
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