11.5 人脈は関わる人間によって増えていくらしい
「あんた達いつの間にそんな仲良しこよしの部活になったのよ」
鋭く、だが気怠げな声が出入り口の方から聞こえた。
見るとそこには腕を組み扉にもたれ掛かる柏木が立っている。恐らく笠原達を迎えに来たのだろう。
「え?仲良し?そう見えた?ふふふ……!」
何故かニヤつきながら若干気味の悪い笑い声を溢す笠原に柏木も苦笑。
「……何その反応」
「別に〜」
「まぁなんでも良いけど。終わったなら帰ろ」
呆れたようにそう言うと柏木はこちらへ向かって歩いて来た。
時間はまだ遅くは無いがやる事もない。笠原達が帰ったら俺も帰るとしよう。
「あんた達バーベキューするの?」
「あ!そうなんだよ!まだ日程とかは決めてないんだけどね」
柏木はふーんとスマホを見ながら答える。すると、笠原は何か思いついたようで「あ!」と声を漏らした。
「美香も一緒にどう?絶対楽しいって!」
「いや私は相談部でもないし……」
そう言いながら柏木は微妙な反応。今更そんな事気にしてるやつ居ないと思うけどな。4人が5人になろうと対して変わりはしないし。
「あんたも行くの?」
柏木から突如向けられた視線に一瞬びくりとしながらも俺は答える。
「まぁ……何も無ければ……」
「あっそう……」
何だよ。俺が行くなら行きたくないとか言われたら俺だって流石に少しは傷つくぞ。
俺の言う「何も無ければ」は「何も予定がなければ」の意では無く「身体的に何も無ければ」と言う意味だ。つまり風邪でも引かない限りは何も無い。
「分かった……考えておくわ。日程決まったら教えて」
「うん!」
笠原は嬉しそうに返事をした。
ここで改めてメンバーを見直すと5人中4人はいつも仲の良いメンバー。そこにぶち込まれた俺は明らかに浮いている。
てか男女比が2:3ってのもバランスが悪い。もう1人誰か……あ、そうだ。
俺は徐に中澤へ視線を送る。それに気付いた中澤は俺に向けて小首を傾げた。
「大江とか誘わなくて良いの?だってあいつ…….ほら……」
真横に柏木がいるため直接的な話は出来ない。しかし
中澤は瞬時に俺の言いたいことを察したらしく分かりやすく頷いた。
「そうだね。大江は盛り上がるの上手いし」
「うん!絶対大江くんもいた方が楽しいよ!」
神谷は見た感じ興味を示しては無さそうだが、中澤の発言を聞き笠原は納得したように言った。が、
「え!?大江も来んの?」
当の柏木だけはあからさまに嫌そうな声を出した。あれ?あいつもしかして柏木から嫌われてたのか?体育祭の時はそんな感じしなかったんだけど……。
「えっと……美香って大江くんと仲悪かったっけ……?」
少し気まずそうに笠原が尋ねると柏木は自らの長い髪を指先で弄りながら不快そうな表情を見せた。
「いや、嫌いっていうか……あいつしつこいから面倒臭い」
「あぁ……そうなんだ……」
更に気まずそうに苦笑を浮かべる笠原。
ごめんな大江。恐らくお前は脈なしだ。これ以上は多分無理。潔く諦めてくれ。
「じゃあ取り敢えずはこの5人って事で……まぁまだ日程とかも何も決めてないんだけど」
予想外の事実に微妙な空気感を残しながらもこの日は解散となった。
***
何においても基本は引き際が1番大事だと俺は思う。スマホゲームが負け続きだったり自分で切り始めてしまった前髪だったりくだらない人間関係だったり……。
大江に至っても
値引きされた弁当コーナーで品定めしているお爺さんをぼんやりと目で追いながらそんな事を考えていると、18時の合図と共に佐藤くんが「お疲れ様です」と一言言いレジを出て行った。
俺は今日は22時までなので佐藤くんに「お疲れ様です」と返し再び弁当を選ぶお爺さんに視線を戻す。
田舎だから夜は一定の時間以外は暇だ。今はまだその時じゃ無い。
時給が低いだのなんだの言っている声もここではほとんど聞かない。何故ならこの楽さだと最低賃金を貰えることですら有り難く感じてしまうのだ。
「あ!おはようございます!柳橋克実さんですよね?よろしくお願いします、百瀬です!」
「よ、よろしくお願いします……」
ぼーっと突っ立っていた俺を引っ叩くかのような明るさでレジに入って来た1人の女性。真っ直ぐな視線に少し気まずさを感じ反射的に目を逸らした。
「鈴のお兄さんだと聞いてます。そうですよね?」
「まぁ……はい」
「私鈴の友達なんです」
「はあ……」
百瀬……驚きからさっきは気が付かなかったが、そうか。この人が例の……。
「さゆりん……」
「は……?」
「あ、いや……鈴がそう呼んでたもんで……」
え?今一瞬凄い殺意を感じた気がする。しかも目付きも鋭くなったような……。
「そうですね。鈴からはそう呼ばれています。でも克実さんはやめてください。結構気持ち悪いので」
「あ、はい……」
初対面の男に気持ち悪いって言うか?普通。俺が気持ち悪かったのは自覚あるけど。にしてもだ。
鈴の友達ってだけあってやはり相当気が強い人だろうな。
「年は下ですがここでは私が先輩なので分からないことは何でも聞いてください!」
「はい……あ、でも俺は前に1年くらいやってた事あるからそんなに……」
言い掛けたところで一瞬百瀬の頬がムッと膨れたように見えたので俺は口を紡ぐ。
「そ、それじゃあよろしくお願いします……」
「はい!よろしくお願いします!」
単純だな。頼られる事にやりがいやらを見出しているタイプなのだろう。
これ以上話す事もないし丁度人が増え始めた事もあり俺は仕事へ戻った。
***
混み合う時間を超え、また店内に静けさが戻った。しかし、俺は一つ気付いたことがある。
百瀬はまだ全然仕事に慣れていない。
あれだけ自信満々な態度を示していたから余程自分の仕事に自信があるものだと思っていたが、商品の入れ忘れや入力漏れ等彼方此方で小さなミスを重ねていた。
俺が辞めた後の3ヶ月の間に入ったのだから経験は少ないだろうし仕方のない事だが、何故あんな自信があったのか不思議でならない。しかもミスった後は必ず気まずそうに俺に視線を飛ばす。だが俺が見ると急いで目を逸らす。こりゃあかなりプライドの高いタイプだな。
俺は流し台に重ねられたトレーを洗い始めた。しかし隣で備品補充をする百瀬がこちらをチラチラ見てくるのでなんか集中出来ない。
何か話した方が良いのだろうか。いや、そんなコミュ力を俺は持ち合わせていない。ここは大人しく……
「あの……!」
「え、あ、はい。なんでしょう……」
突然の呼びかけに思わず手を止めおかしな口調で反応した。
「ダサいなぁとか思いましたか?私の事」
「いや、別に。慣れてないんだろうとは思いましたけど」
あ、やっぱ気にしてたんだ。
百瀬は気まずそうに、それでいて少し不満そうに俺に向き直る。
一体次は何だ……?
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