11.2 人脈は関わる人間によって増えていくらしい
いや、まぁ俺の話はどうでもいい。
「何があったかしらねぇけど、そうやって尖って無いで、プライド捨てて、今のうちに解決しといた方がいいぜ?早いに越したこたぁ無いからな」
時が経つほど関係修復は難しい。最初は部分的に少し気に食わないという程度でもそれがいつしか人間そのものを示す「嫌い」という形となり、それがさらに進めば「関わりたく無い」という無関心状態を意図的に作られる。
そして最後には「何があろうと関わる気はない」とこちらがどう足掻こうと絶対に壊すことの出来ない壁を造られてしまう。それが他方に渡って起きた時孤独になる。
だが当人はそうなるまで気づく事は出来ない。
「何でお前にそんな事言われなきゃなんねぇんだよ」
「そうだな……どうするかはお前の自由だし俺の言う事が正しいとは言わんけど……似た経験を持つ先輩としての助言だ」
助けたいだとかそんなものでは無いけれどその道の生き辛さを知る身として。まだ容易に変われるこの時期に教えてやる事は俺にとって義務的感覚なんだ。
「あっそ……でもお前は今あの人とかとは仲良いんだろ?今仲悪い奴とは関わらなければいいだけじゃん」
「俺も最初はそう思ってたよ。でもな習慣ってのはそう簡単に抜けねぇんだよ。周りもそれは分かる。今神谷とかと上手くやれてんのは周りのお陰だ。俺は何も変わっちゃいない」
こんなこと言うのは何かむず痒い感覚……。だが周りの奴らが善人すぎる事は事実。本来俺が会話を交わすことすら無い人種だ。その点は俺も多少なり……
「周りのお陰……?どーゆーこと?」
「おまっ……いつから聞いてたんだよ!」
「え?ちょっと前からかな……」
佐野の方を向いて喋っていたせいで後ろにいる事に全く気が付かなかった……。しかも佐野との話の流れで出た恥ずい発言も聞かれた模様……。耳元がカァと熱くなるのを感じた。
「どうしたの?何か聞かれたらまずい話でもしてた?」
「そんなんじゃねぇけど……佐野、まぁそーゆー事だから、お前も早くあっち混ざって来い!」
「え!?急になんだよ……!まだ話終わって無いじゃん」
「終わったんだよ!いーから行けって」
立ち上がりかけた背中をトンと押すと佐野はバランスを崩しヨタヨタとしながら前へ足を運ぶ。そして納得のいかない顔をしながら集団の方へ歩いて行った。
今後会う事があるかは分からない。だがあいつならばそれなりに上手くやるだろう。俺よりは上手く……。
「何話してたの?」
「何でもねぇよ」
投げやりな返しになってしまったが神谷はさほど興味なさそうにふーんと遠くを見る。聞かれたのが勘の鈍い神谷で良かった。
少し経つとバスが到着した。
「ありがとうございました!迷惑かけませんでしたか?」
「特に何もありませんでしたよ」
ホッとした様子の女教師。この様子からだといつもの苦労が伺える。ご苦労様です。
最後に全体へ軽く挨拶を済ませ小学生達はバスへと乗り込んで行った。
それを見送った後俺達もそれぞれの帰路へと着いた。
***
財布からひらりとレシートが落ちる。
それを拾い上げゴミ箱へと放り、俺は財布の中を見た。
紙幣特有の匂いがふっと鼻を突くが中は空。小銭入れがじゃらと少しなるくらいだ。
「またバイト探すか……」
不意に漏れ出た言葉に部室に居た笠原と神谷がピクと反応した。
「柳橋くんバイトするの!?柳橋くんが!?」
「おい、どーゆー意味だ。俺だってコンビニ店員をそつなくこなすくらいは出来るんだからな」
元気が無いとか無愛想だとかで何度か注意は受けてたけど……。
「え、じゃあヤナギ部活来れなくなるの?」
「いや、そんなガッツリやるつもりは無い。あとまだ場所も決めてないし」
社会勉強だななんだの綺麗事並べる奴は多いが誰も彼も所詮は金目的だ。本当に社会勉強なんかに興味がある奴だとするのならボランティアに参加した事ないとは言わせない。
「バイトかぁ……私もやってみたいなぁ……」
笠原が意味ありげにそう呟く。
「じゃあやればいいじゃん。忙しいなら単発とか短期とかもあるし」
「うーん、中々ね……助っ人とか呼ばれちゃうと予定も組み辛いから」
人気者ならではの悩みだ。俺なんか休み希望少なすぎて逆に心配されたくらいだ。40代独身男店長に心配されるとは……。
「綾は?バイトとか興味無いの?」
話を振られた神谷は顎に手を当て考え、答えを出す。
「家から近くて月一くらいであまり人と関わらなくていいバイトなら……かな」
「そんなんねぇだろ」
くすくすと笑う神谷。やる気は無いらしい。
「届出も出さないとだからやってる人少ないみたいだよね……柳橋くんは出してたの?」
「いや、面倒臭くて出してない」
「前バイトしてた場所ってすぐ近くのコンビニだよね?城北高校の先生とか生徒にバレたりしなかった?」
「基本的に俺の顔見て気づく奴は居なかったな。田辺先生には何回か会ったけど黙ってくれてたみたいだし」
俺もあの人の路上喫煙黙ってあげてるしね。お互い様よ。
「逆に学校から近すぎる事もあってあそこに城北高校の生徒俺だけだったんだよ。あんま警戒されてないってのもある」
灯台下暗しみたいな……使い方合ってるか分からないから言わないけど。
笠原はほぉーと何故か感心したように頷いていた。
「じゃあもう一回そこにすれば良いんじゃない?」
「まぁそれが1番楽ではあるんだけど…….」
辞め方が辞め方たからなぁ。人手不足を知っておいて大した理由もなく突然辞めていったやつなんかまた採用してもらえるかわかんないし。そもそも、
「もう人は足りてるかも知んないだろ?」
「そっかぁ……じゃあ今から行ってみようよ。店長さん居たら今の状況は分かるかもしれないよ!」
「は!?何でそうなる?」
なんか勝手に勢いづいた笠原は手早く荷物を纏め始める。それに合わせて神谷も身支度を始めた。
「待て待て待て待て!俺はまだ行くとも言ってないんだが!?てか店長と顔合わせるのすら気まずいってのに……」
俺の言葉には聞く耳を持たず、2人は戸締りまで済ませ俺へ向き直る。
「この前小学生の子の社会科見学もした事だし私達もそんな感じで!」
「ただコンビニ行くだけのどこに学ぶところがあるんだよ」
「もしかしたらヤナギのバイト先見つかるかもしれないよ」
「そりゃそうだけど……」
だめだ。目をキラッキラさせて立つ2人を前に俺の抵抗は虚しく消える。一体このテンションはどこから来るんだろうか。
「無理そうだったらすぐ帰るからな」
「はい!」
「はい!」
俺は荷物を纏め終えると謎の期待を膨らませる2人の後ろを追い掛けた。
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