10.7 ボッチも時にはボッチじゃ無くなる
わざとらしく雑な返事をしたのに大江の口は止まらない。タラタラタラタラと自分の行動力を肯定しては落ち込んでいる。その都度俺は「そうか」や「それは気の毒だ」などそれっぽく返した。
「で、柳橋くんはどうなん?笠原の事好き?」
「別に。まあ俺みたいな人種があー言う目立つ人と執拗に絡んでいるとそう思う人も居るんだろうってのは分からなくないけど。部活と……俺はあまり覚えてないが過去に少し関わりがあったってだけだ」
一言二言で否定した所で今後も続くだろうからなるべく分かりやすく実際の関係を述べてやった。大江はふーんとつまらなそうな返事を出す。
「笠原も柏木に負けず劣らずの人気だしな。柳橋くんが踏み出せないってのも分からなくねぇよ。お互い頑張ろうな!」
「……そうだな」
どうやら大江には日本語が通じないと言うことが分かった。面倒くさいからもう良いや。
どうやらリレーも終わったようでフィールドからは談笑しながら散っていく出場者達の姿が目に映った。あとは閉会式をして高校2年の体育祭も終幕だ。
疲れからか軽い息を吐き出すと階段下に居た見覚えのある長髪の女子生徒と偶然目が合った。
「あ、ねぇあんたずっとそこに居た?」
「え……!柏木……!?いや、俺はさっきここに来た所で……」
「あんたに言ってない」
「え、あ……そうだよな……はははは……」
有頂天と落胆を一瞬間のうちに終えた大江は塩をかけられたナメクジのように萎んでいく。
柏木は明らかにこっちを向いているし……大江じゃ無いって事は俺に言ってんのか。
「俺はしばらくここに居たけど。リレー始まるくらいからは」
「そう……探してたんだけど何処にも居なかったから」
「探してた?俺を?」
特に心当たりは無いが……戸惑う俺を無視して柏木はこちらへ向かってくる。
そして俺の右隣に座る大江の前、そして俺の前を横切ると空席だった左隣へと腰を下ろした。マジで意味が分からん。
「あの……要件は?」
項垂れる大江を前にこの状況はあまり良くは無い。なんなら席を外すべきかもしれないが当の柏木が俺へ何か用事があると言うのでそうも行かない。
「何してんの。早く、カメラ見て」
「え?ああ……」
あー……そう言う事……。前回同様とても笑顔とは言い難い引き攣った顔が柏木の掲げるスマホに保存された。
「要件ってのはこれ?」
「そうだけど。……いや、勘違いしないで。あんたとだけ撮ってるわけじゃ無いから」
「おう……」
まぁそれは分かってるけど、大江も撮ったって言ってたし。でも大江の目の前で撮ってしまった事は少し気まずい。俺以外の人とも撮ったという事実と同時に大江以外の不特定多数とも撮ったって事にもなるしな。傷心中の大江にはダメージがデカい。
「体育祭なのにどーせあんたは写真の一つも撮る相手が居ないと思って可哀想だから来てあげたの」
「そりゃあどうも」
わざわざ憐れみやがって……。なんなら既に笠原と撮ってる。俺の雑な返事に柏木は不服そうに鋭い目を向ける。
「なにそれ。あんた他に誰かと撮ったの?」
「まあ……」
「誰」
「……笠原……」
「ふーん……希美ね……」
なんだよ怖いな。写真ってのはそんなに価値があるもんなのか?俺には理解出来ない。クラスの集合写真だってあるんだから要らないだろって思ってしまう。
柏木は隣でしばらく何か考えるような顔を見せた後徐に立ち上がった。
「じゃあ私は行くわ」
「おう」
そうしてくれるとありがたい。大江の前でこれ以上会話をする事は気まずいどころの話では無い。
しかし、柏木は立ち上がったものの、チラと俺を一瞥。俺が座っているからかものすごく見下されているようだ。
「なんだよ」
「いや、何も無いわ」
なんなんだ突然見せるこのシラァッと冷めた顔は。なんか恨みでも買ってたっけ?探せば思い当たる節はそこら中にあるか。
柏木は長い髪をサラッと風に流し既に階段下に戻って来ていた笠原達の元へ歩いて行った。
***
1日を終え今は自宅。のんびりと就寝までのひと時をリビングにて寛いでいる。
スマホゲームに指を走らせていると画面の上部に通知が届いた。笠原からだ。
開くと「今日はありがとう!!」と言う社交辞令のような文句が添えられた一枚の写真が送られていた。今日撮った例のものだ。
改めて見返してもやはり俺の表情の強張りは写真慣れしていないのがバレバレなものだ。
「うーわ。お兄の顔……銃でも向けられてたの?」
「勝手に覗いてんじゃねぇよ。人のスマホを覗くような奴彼氏出来てもすぐフラれるぞ」
「じゃあ出来る可能性すらないお兄よりはマシだね」
「うるせぇよ」
鈴は素早く俺の手からスマホを奪いじっとその写真を見つめる。そして俺の顔と見比べる。
「なに」
「もうちょっと自然に……爽やかに笑顔とか作れなかったの?」
「俺に爽やかさ求めんな。真顔よりはマシだろ?」
「ビミョー」
モデルでも無いのになんで表情まで評価されなければならんのか。撮れてりゃ良いだろ撮れてりゃ。
鈴がスマホを俺に返そうとした時再び通知が鳴った。すかさず鈴は伸ばす俺の手を弾き飛ばしスマホ画面を自らの顔に寄せる。
「おい」
「美香ちゃんからだよ!」
「勝手に見るな」
鈴は渋々俺へとスマホを手渡し自分も画面を覗き込む。それじゃあ何も変わらんだろうが。
早く開けよと言うように鈴がじっと画面を見つめるので仕方なくトーク画面を開いた。
「写真じゃん。美香ちゃんとも撮ったんだ……え、なんで?」
「俺に聞くな」
勝手に憐れまれたんだよ、妹であれば察しろ。
鈴は依然納得のいかない様子で首を傾げ写真を見つめる。まあ容易に予想は付くだろうが柏木は笠原と違いただポンと写真だけを送付して来ている。
「希美ちゃんはなんとなく気づいてたけど……美香ちゃん……?お兄から誘う訳ないし……いやでも……」
ブツブツと小声で呟きその都度眉間を寄せて首を捻る鈴。
「良かったねこんな可愛い人達とのツーショット撮れて」
「反応に困る事言うな。人のばっか見やがってお前はどうなんだよ」
「見たいなら見せても良いよ。はい」
無視して立ち去るかテキトーにはぐらかすかの2択だと思っていたためこんなあっさりスマホを渡されると逆に戸惑う。が、俺から聞いた以上スマホを受け取り写真を見た。
殆どは知らない顔の女の子だ。同じ人物ばかりなので親友とかそう言った類の人なのだろう。あとは数人での写真がちらほら。そして、
「剛田じゃん。お前仲良いの?」
「まぁまぁかな。悪くは無いよ」
友人との写真の合間に割り込むように出てきた鈴と剛田のツーショット……。
「何で2人で?」
「何でも良いじゃん」
「まぁそうだけど……いやもしお前と剛田が付き合うとか言ったらさ、俺そーゆーの鈍いから知っておいた方が……」
「お兄だって希美ちゃんとか美香ちゃんと撮ってたじゃん。でもそんなんじゃ無いんでしょ?」
「そうだけど俺はまた別って言うか……」
確かに自分でもおかしな事言ってるのは分かるけど……。陰キャの俺の場合と陽キャの鈴とでは意味合いが変わってくるだろ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます