10.1 ボッチも時にはボッチじゃ無くなる

 あ、そう言えばなんかあったよな……。


「なんだっけ、あれじゃねぇか?あの……友達未満なんとか未満みたいな奴」


 そう、確かテレビかなんかで聞いた表現。詳しくは覚えていないがそんな感じの言葉があった気がする。


「は?友達未満なら他人じゃない」


「そうか?知人枠もあると思うけど」


 それ無くされたら俺の周りのほぼ全員の立ち位置が同格になってしまう。


「あんたが言いたいのは友達以上恋人未満でしょ。なんでもう友達の域超えてんのよ」


「あ、それだ。それはねぇな」


「あんたに言われたくない」


「そうですか……」


 仲の良い初々しい男女を燃え上がらせる為の言葉だろう?そんなものは片側に俺がいる以上相応しくない。


「ねぇ、あんたまさかもう帰る気?」


 店を出て来た道の方向へ歩みを進め始めた俺に柏木が後ろから呼び止める。


「そうだけど……用は済んだだろ?」


「はぁ!?あんたさぁわざわざ電車に乗ってここまで来たのに?あり得ないわ」


「なんだよ、何か買いたいものでもあんのか?荷物持ちくらいならするけど」


 丸一日俺の用事に潰させるのは悪いと思っていたが……こいつもそれなりの用があると言うのなら……まぁ良いか。


「まずお昼。どっかで食べるわよ」


 長い髪を風に靡かせ、柏木は颯爽とビルの中へと進んで行った。



***


 

 俺は今落ち着いた雰囲気のレストランのような場所にいる。


 すぐ横が窓のため、覗いた外は行き交う人の波が見下ろせた。


「あんたは?決めたの?」


「ん?ああ……まぁ」


 メニュー表を見た感じパスタやピザなどのイタリアンの店らしい。値段もそれほど高く無くちょうど良い。やっぱ行き慣れてると店とか色々知ってんのかな。


 注文を済ませて少しすると、2種のパスタが運ばれて来た。1つは俺の頼んだ貝類が入ったものでもう1つは柏木の頼んだカルボナーラだ。


 意外とそーゆー普通のなんだな。てっきり激辛のピザとかかと思った。


 柏木はパシャパシャと数枚写真を撮った後、手を合わせ、食べ始める。しかし、直後俺に話しかけて来た。


「ねぇ、さっき言ってた荷物持ちって何?」


「そのまんまの意味。いつも鈴のやってんだよ」


 口に食べ物があるためモゴモゴとしながら答えると柏木は眉を寄せる。


「あんた鈴に甘すぎない?この前鈴から聞いたんだけど服とかもあんたが買ってあげてんでしょ?なんで?」


 まぁそう思うよな。側から見たら不自然と言うか、過保護ってどころじゃない。気持ち悪がられても仕方がないとすら思っている。


「俺にも色々事情があんの」


「何それ?言えないの?」


「言う必要が無い」


 ———少なくとも今は。


 上手く行っている今にわざわざ過去の経緯を辿る必要なんてない。終わり良ければ全て良し。


「無理に聞く気は無いけど……」


 柏木は紅茶をストローで吸いながらそう答えた。世の中には知らない方が良い事なんてザラにあるしそうしてもらった方が俺としても楽で良い。


「それで……この後はどこか行くのか?」


「そうね……私も鈴の誕プレでも選ぼうかと思ってたんだけど……昨日の夜ネットで買っちゃったから……まぁ他の候補として見て見ようかなぁとは思ってたくらい」


「そうか……」


 俺はパスタを頬張りながら頷いた。正直どこでも良いからな。


「それよりあんたの誕生日いつ?」


「まだ先だ」


「は?いつかって聞いてんの」


「11月です」


 圧を掛けて答えさせたくせに柏木からは「ふーん」と気のない返し。隠すことでもないけど言いふらす事でも無い。知られすぎるのはなんか嫌だが。


「気が向いたらあんたにもなんかあげようか?」


「何でだよ。そんなバレバレの情け塗れのプレゼントなんか要らんわ」


「何、なんかムカつく。別にそーゆーつもりで言ってないんだけど。気が向いたらって言ったわよね?」


「おう……どうであれ俺は物欲が無いからな欲しいものなんて特に無い」


 最低限不自由無い生活を送れれば俺の欲は満たされる。そんな地球に優しい低燃費人間が柳橋克実なんだよ。


「あっそう」

 

 不満そうにそう言うと柏木はフォークに巻いたカルボナーラを口へ詰め込んだ。



***



 連れられて来たのは雑貨屋、服屋、文房具屋とさまざま。しかし俺を気遣っているのか、柏木は試着などする度「どっちが良いと思う?」などと度々俺へ話しかけたりしていたので俺もそんなに退屈では無かった。まぁその決断を迫られる事はかなり難易度が高く感じたが。


 そして今は映画館の前。


「今から映画か?」


「そんな訳ないでしょ。こっち!」


 柏木の指差す方を見るとそこには何台ものクレーンゲームが並んでいた。


 ゲーセンか。こいつもこんなとこ来るんだな。


 柏木はずんずんと奥へ向かって行く。俺も後ろから追っていると、ある1つの台に辿り着いた。何やら血飛沫を上げて白目をむいた人型のぬいぐるみが雑に放り込まれている。


「これ、普段綾と一緒に居るなら見たことあるでしょ?」


「あー、確か……あいつが好きな漫画のキャラクターだよな……」


 名前までは流石にね……キャラクターは見たことあるけど。


 名前を思い出そうとぬいぐるみを凝視していると、チャリンと硬貨が投入された。


「あ、これやんのか。これかなり取りにくそうじゃね?」


「やってみないと分かんないでしょ」


「まぁそうだけど…….」


 中学時代近所のゲーセンに通って1人遊びを極めていた俺からすれば取りやすいかどうかくらいは分かる。だがこの真剣な雰囲気に絶対に邪魔はするなと言われているようで俺は静かに離れて他の台を見てみることにした。


 フィギュアからお菓子まで色々とある。


 休日ということもありそれなりに混んではいるが大半は学生だ。俺はなるべく空いているお菓子の台へ向かい数個のチョコレートを獲得。


 欲しかったのかと言われると別にそうではない。ただの暇つぶしだ。


 少し時間も経ったので柏木の居た台へ戻ると、


「はぁ!?これ絶対取れないでしょ!」


 荒れていた。


 見た感じ既にそれなりの額を突っ込んだらしい。


「何見てんのよ」


「いや……」


 もう少し時間空けよう。俺は再度他のゲーム機の探索へ向かった。


 見慣れないキャラクターも多く並ぶ中俺でもはっきりと見覚えのある、と言うより普段から目にしているキャラクターが目に着いた。


「これは……」

 

 見覚えのあるそいつの正体は鈴の持っているぬいぐるみだ。普段はリビングにあるため意識せずとも視界に入る。そしてそのキャラクターは柏木のカバンにも付いていた。流行っているのか?


 褐色の身体に太々しい顔が付いた二足歩行の動物。犬?熊?その詳細は分からない。ただ不細工だ。


 目の前にいるのはちょうど手のひらになる程度のぬいぐるみのようなストラップだった。


「久しぶりだな……」


 おそらくもう少し時間もあるので、俺は目の前の投入口に硬貨を入れる。そしてどこか懐かしい体制で右手にハンドルを握った。


 見せてやるぜ!俺の極めたクレーンゲームの技術を!

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