9.10 思い掛けない繋がりが増える事もある

 無事、いや、かなり危険な状況ではあったがなんとか乗り切り新潟駅へ到着した。


 身体的にと言うか、精神的な疲労感が凄い。変な方向に気を使いすぎた。しかしそれは柏木も同じだったようで、


「なんか疲れたわ、あんたが無駄にくっ付いてくるから」


「おい!……変な言い方すんなよ」


 そーゆー瞬間は何度もあったのは事実だが……。断じて意図的ではない。てか俺は悪くないだろう。


 柏木は相変わらずの冷たい態度で先へ進む。俺もその後を追っていると、数分歩いたところで専門店の多く入ったファッションビルに到着した。


 この場所は鈴に何度か連れてこられているので外観やどんな店が入っているなどか少しは知っている。駅からの行き方とかどこに何の店があるかとかは知らないけど。


 ビルの入り口、おそらく雑貨屋か何かに繋がっている自動ドアの前に着いたところで柏木は脚を止め、こちらに振り返った。


「何が欲しいかとか聞いてんの?」


「いーや、何も。聞いてもまともに答えねぇし」


「予算とかは?」


「特に。何万とか言われたら流石にキツいけど」


「そう……」


 これ程までに条件も何も無い状態だとは思わなかったのだろう。柏木は壁に寄りかかり、少し考える。


「そんな深く考えなくて良いからな。本当にパッと思いついたようなのでも……」


 元々ここまで付き合わせる気は無かったし。こいつだってあのバレー部の数少ない休みを使っていると思えばなるべく早く切り上げたほうがいい気がする。


「あんたさぁ、去年とかは何あげてたの?」


「去年?なんだったかな……あー、財布だったか?確か」


 確か去年はバイト先の大学生の女性が持ってた財布のブランドの似たような奴を買った気がする。服装とかも綺麗にしている人だったからその人の持ち物ならまず失敗は無いだろうと踏んでそれにしたんだっけな。


「じゃあせっかく私も居るんだし化粧品とかで良いかもね。そーゆーのあんた知らないでしょ?」


「確かに……」


「じゃあ決まりね。着いて来なさい」


「お、おう……」


おー、なんかめちゃくちゃ頼もしいな。味方にいたらすげぇ心強い存在って感じだ。一時的な協力関係に過ぎないけど。


 少し進み、エレベーターを上がるとよく分からない場所に着く。香水なのか甘いような独特な香りがそこら中に充満していた。


「こっちよ」


 言われるままに黙って着いて行くが見渡す限り女性客と女性店員しか居ない空間に少なからず居心地の悪さと言うか場違い感がしてならない。


「何きょろきょろしてんのよ。キモい」


「うるせぇ!慣れてねぇんだよ」


 一々辛辣だな。もっと陰キャの生態を知っておいて欲しい。てかこんな奴が現れぬよう陰キャの生態についてを小学校の道徳に組み込むべきだ。


 と、そんな事を突っ立って考えている間にどこかへ消えた柏木。


「あれ……?」


 おいおい、勘弁してくれよ。こんな売り場に陰キャ1人置き去りにしないでくれ。おまけに俺は方向音痴まで兼ね備えているってのによ。


 しかしこーゆー時は動かない事が1番だからな。


 俺は顔だけ平静を装いながら、1番近くにあった商品棚からリップクリームらしきものを1つ手に取り、あたかも購入を考えているような素振りを作った。 


 すると少しして、横から知った顔が現れた。

 

「ねぇちょっと。ほら、これとか良いんじゃ無い?」


 そう差し出されたのは何かの化粧品……?正直使用用途すらよく分からない。

 

「そうなのか?」


「何その言い方」


「だって意見求められても俺なんも知らないし」


「確かにそうね。……じゃあ私が全部選んだ方が良いって事?」


「むしろその方がありがたい。俺のセンスなんかたかが知れてるしな」


「でもそれ、あんたが選んだんでしょ?」


 そう言って柏木は俺の手元へ向けて指を差した。俺も自然と自分の手元に視線を向けると先程適当に取った1つのリップクリームが握られている。


「あーこれはそんなんじゃねぇよ」

 

「そう?それは私も良いと思うけど」


「へぇ、そうか」


 本当に適当に手に取っただけなんだが……。まぁ多少デザイン的なのを直感で選んでいるってのはあるかも知れないけど。


「じゃあこの2つにする。ありがとな。……で、レジどこ?」


「はぁ……あっち。私も行くから着いて来なさい」


「おう」


 思いの外早く決まって良かった。値段見た感じそこまで馬鹿げた値段では無いし。まぁ化粧品の相場を知らないからよく分からないんだが。


 レジ前の列に並んでいると周りの客から向けられる視線がキツい。どーゆー組み合わせ?のように思われているのだろうな、きっと。だがそんな事は鈴との時と同じだ。慣れている。


 順に列は進み俺は会計へと進んだ。


 綺麗な服装で身を包んだ女性店員はにこやかに微笑み俺の持っていた品を受け取る。


「こちら、ラッピングはされますか?」


「ラッピング……じゃあお願いします」


 くっ、会計一つ取ってもこの動揺してしまうのはなんなんだろう。別に陰キャでも良いがこーゆーのは治したいと切に思う。


「こちらは……彼女さんへですか?」


 何やら意味ありげに微笑みながら店員は俺が尋ねて来た。


 こう言う店はそんな事まで聞いてくるのか。そんなこと知ってどうするのだろうと思いつつ俺は答える。


「いえ、妹です」


「あ!妹さんでしたか!お可愛いですね」


「え……」


 どーゆー事だ?この人は鈴の知り合いだったのか?いや、だとしても俺の事まで知っているなんて数少ないはず……。どーゆー事だ?なんか怖ぇな……。


「ちょっ、バカ!……あ、妹じゃなくて……」

「いや……これは鈴のだろ?」

「あんたはややこしくなるから黙ってて!」

「はい……」

 

 何が何だか……。そして何故か怒られた。よく分からないし言われた通り黙っていよう。


「あ、そ、そうでしたか……お待たせしましたぁ……」


 今度は店員までも目をパチパチと焦ったようにそして何故か気まずそうに包装された商品を渡してきた。


 とても変な空気が流れていたので俺はその後の会計を素早く済ませ店を出た。



***



「ねぇ、あんた変なこと言わないでよ」


「はぁ?それはこっちのセリフだ。俺はただこれが誰へのプレゼントかって聞かれたから妹のだって答えただけだろ?」


 店を出るとすぐ今まで言葉を我慢していたように柏木が語気を強めて迫って来た。


「そーじゃない!あんたの言い方のせいで危うく私があんたの妹にさせられるところだったの!」


「あ、それで店員もあんな感じに……いや、だったら俺より勝手に勘違いした店員が悪くね?あとそれならあの時はっきりお前が否定してくれりゃあ良かったのに」


「……」


 俺が珍しく反論すると図星だったのか、柏木は押し黙る。そして少ししてから口を開いた。


「ねぇ、あんたにとって私とあんたはどーゆー関係?」


「は?……関係?」


「あの時咄嗟に答えようとしたけどなんて言えば良いか分からなかった」


 俺と柏木の関係……?名前をつけるとすれば知り合い……ってのはなんか遠すぎるし友達って感じでもないし……その間ってなんで言うんだろう。


 

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