2.6 遠足とは?
役目を終え俺の班へと戻る。3人の体操着姿が見えた。あーそういや中澤の取り巻きも居るんだったな。あそこに俺が入っていくのもなんか違う。
「仕方ねぇ……」
俺は引き返し川の方へと進路を変えた。
ぎゃあぎゃあと水を掛け合ったり落とし合ったりする陽キャラが目につく。ほほう、こうなりゃもう猛獣だな。
手頃な石に腰を下ろし、1日の疲れを吐き出すようにふわぁと大きな欠伸をした。
こういう何もないところは嫌いじゃない。ごちゃごちゃしたテーマパークとかデパートやらの何が良いのか。
シンプル・イズ・ベストをもっと流行らせようぜ。そしたら新潟も結構良いとこ行くぞ。未だに新潟は米しかないとか思ってるやつどうかしてるな。
「つまらなそうだね」
「んだよ?またお前か……」
俺の横に石を並べて座ったのは中澤。ついさっきまで居た取り巻きの姿はない。
「言っただろ?また後でって」
「いーや、お前は後日って言ってた。なに、お前だけ時間進むの早いの?」
「ははは、やっぱ誤魔化しも通じないなぁ」
不自然な笑いに俺も愛想笑いで適当に応じる。
「で、話とは?」
「うん……」
ふぅ、と息を吐き出す中澤。どうでもいいとは思いつつ、そのあまりに重たい空気に俺もごくと唾を飲む。
「柳橋くんって誰か付き合ってる人が居たりする?」
「……………は?」
なんだこいつ?こんな真剣な顔してそんな事か。あー、真面目に聞いて損した。こいつもやっぱただの陽キャか。
「いねぇよそんなん。てか、仮に居たとしてなんでお前に言うと思ったんだよ。そんなくだらねぇことをこんなに引っ張っんな」
「そう、か……」
何か腑に落ちないと言った顔の中澤。誰も知らないだろうな、学年の人気者がこんなふにゃふにゃくんだなんて。
「……俺はお前の話ってのがもっと深刻な悩みかと思ってたよっ」
近場にあった石を川へ投げる。水切りがしたかったわけではない。ただ運良く2、3回跳ねたらラッキーみたいな程度だった。
結果はボシャンッとしぶきを上げたせいで近くにいた女子生徒に睨まれただけだった。
中澤は顎を擦りながら何か考えている。
そういやこいつ話は長くなるって言ってたよな。おそらくまだ続きがあるってことなのだろう。
「ごめん俺の勘違いだったみたいだ、てっきり……あ、いや……」
「てっきり何だ?そう言う半端なのが一番気持ち悪い」
ズバズバ言い過ぎる妹になれているせいか、はっきりものを言わない相手をそのまま放置することは出来ない。
中澤は困ったようにうーん、と苦笑いを浮かべ、
「てっきり笠原か、神谷と付き合ってたりするのかと思って……ほら、同じ部員ならそれくらい知っておきたかったし、無神経な発言とかもしないで済むだろ?」
「あっそう……」
───呆れた。もういいや。
俺は大きく息を吸った。そしてその空気をそのまま塊でぶつけるように中澤に言ってやった。
「断言してやろう俺はそう言う○○が好き!とか○○と付き合う!とかそもそも興味ない。そしてそんなくだらないことをこそこそ嗅ぎ回るような奴にもな」
固まる中澤。綺麗な短髪がさらさらと靡く。口はぽかんと間抜けに空き、目はぱっちり開かれ微かに安堵が見え隠れしているようにも見える。
「どうやら俺の頭の中だけで勝手に話が進んでたみたいだな……俺の予測が当たってたらどうしようかと思ったよ」
「……?別にどうもしないだろ。お前には何も関係ない」
それもそうかと中澤は軽い声で笑う。何か吹っ切れたようなそんな声で。
帰り時間を考えると残りはもう30分もない。俺達もそろそろ荷物のまとめ作業を始めなければならない頃合いだ。
俺は長らく手の平に遊ばせていた薄い石を満を持して川へ投げ、安定の4回というショボ記録を叩きだした。この4回の壁なかなか越えねぇな。昔から。
「けどさ、君と仲良く成りたかったのは本当だよ」
中澤も真似するように水切りをし、当然のように俺の記録をダブルスコアで越えてきた。こういう田舎遊びくらい下手くそであって欲しかった。全く、この世は不平等だよ。
「その呼び方やめろって言ったろ」
火の片付けは俺が神谷の班に行っていた時に中澤達が終わらせていたようで、片付けと言っても自分の荷物をまとめるくらいしかなかった。そしてガスバーナーはその日のうちには戻ってこなかった。
***
翌日、放課後。
初っぱなから笠原のマシンガントークが見事に炸裂していた。自分の班の出来事から偶然見た他の班の状況までつらつらと言葉を繋げている。それを時々クスリと笑いながら神谷がうんうんと聞いている。
どうやら昨日俺が感じていた笠原の元気の無さは思い過ごしだったように思える。
あまりに楽しそうに語るので、俺も何か話そうと試みたがエピソードが無さすぎてやめた。
「あー!そういえば昨日柳橋くん優也くんと結構一緒に居たよねー!いつの間にか仲良くなってたんだーて、ちょっとびっくりした!」
静かにネットニュースを見ていた俺に笠原のマシンガンが被弾。
「仲良くなってねぇよ。同じ班だったら話くらいすんだろ」
俺は一言も話す気無かったけどな。本来このような小規模イベントで新しい仲間をゲットするらしいのだが俺にはそんな経験はない。
「でも柳橋くんがあんなに誰かと一緒にいるのなんか新鮮だったって言うか……あ、別にディスってるとかじゃないからね」
いやディスってるよ、それは。なーにが新鮮だ。中澤のアホらしいお悩み相談を一蹴してやっただけだ。
「たった数週間の付き合いってだけで俺を知り尽くしているような言い方してんじゃねぇよ」
陰キャボッチと言えど色々あるからな。特殊なオタク趣味のせいで孤立するものから俺のように1人が楽という理由だけで自ら孤立を選ぶものまで。そう、俺はわざと孤立してるの、反論は認めない!
「……私は前から少しは……知ってるつもりだったけど……」
笠原がボソボソ何か言っていたようだが、脳内の自己肯定処理が忙しくてよく聞き取れなかった。
「ヤナギと優也くんって話合うの?」
神谷がど直球に疑問点を突いてきた。おいおいおい、数年前の俺だったらかなりのダメージ負ってたぞ。
陰キャは陽キャを嫌うくせして話しかけられただけで一喜一憂しちまう惨めな生き物なんだからよ。
「合わないだろうな。合わせる気もない」
ボッチをボッチたらしめるものの1つに「協調性の欠如」がある。周囲に合わせることが出来ないという特質こそがボッチである由縁、とまで言っても過言ではないだろう。
「じゃあどんな話してたの?」
好奇心というか何かを期待するような目で俺を見る神谷。「私も気になる!」と笠原も身を乗り出した。
まぁ、解決したことだし別に言っても問題ないか。俺は分かりやすくニヤリと笑む。
「ふっ、知りたいか?あいつの面白~い勘違い」
「勘違い?」
何かを予想するように2人は顔を見合わせてふむと考える。
「おう、あいつな、俺とお前らのどっちかが付き合ってると思ってたらしい。笑えるよな、そんな大逸れたことを深刻な顔で聞いてくんだから」
「……」
あれ?何この沈黙。俺そんな変なこと言ってたか?
笠原と神谷を見るとどちらも同じような顔で俺を見ていた。
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