1.10 部活動とは?
「まあいいや。今度また違うの持ってくるから」
「そ……、期待しとく……」
まだまだ先は長そうだな。
これといった質問も来てないようだし、田辺先生から渡された書類は笠原がさっきからずっと書いているようだ。今日はもう帰るとしよう。
「柳橋くん、部長は柳橋くんで良い?」
「は、何言ってんの。どう考えても笠原だろ」
面子的におかしいだろ。当然そうでしょ?みたいな感じで言ってくんな。笠原と中澤を差し置いて俺が部長とか本当勘弁。
「えーっ私!?……まぁ別にいいけど……」
思いの外嫌がらずにさらさらと名前を書いていく。
よし、帰ろう。
出口へ向かって歩き出す。しかし、扉へと触れる前に勝手に戸が開いた。
「ごめん、遅くなって……柳橋くんも来てたんだ」
「あ!優也くん!」
俺の行く手を阻んで現れたのは昨日入部が確定したと言う中澤優也。笠原も作業の手を止め彼に小さく手を振る。
「……ああ………まぁ一応部活なんで……お前何しに来たんだ?」
なんだろう。こいつ苦手だ。優しくふわってくる甘い声といいこの偽善者じみたさわやかな笑顔といい、なんか引っ掛かる。言っておくが嫉妬ではない。
「俺も一応顔出しておこうかなって思っただけだよ。迷惑だった?」
「別にそんなんじゃないけど。今日はなんもねぇよ」
話を聞いていないのか、俺の脇をスッと歩いていき、ソファーの角、神谷の正面に腰を下ろした。そして出口付近で立っている俺へちらりと、視線を向けた。
「柳橋くんはもう帰っちゃうの?せっかく全員集まれたのに……」
お前以外の3人では何度か集まっているけどな。1人増えたくらいでそんな特別感出ねぇわ。
「特にやることもないし。意味なく残っててもしょうがないだろ」
中澤はうーんと顎に手を当てなにやら考える素振りを見せる。と、その時、
「よし!終わったー」
作業をしていた笠原が複数の書類をとんとんとまとめ、神谷の隣へドサッと腰を下ろす。
「今日から生徒会執行部管轄、相談部となりましたー!」
笠原が元気よく声を上げる。相変わらず神谷は静かにスマホから目線を移すだけだが、中澤はおおーっと派手にリアクションを取った。
「あ、そうだ!みんなこの後時間あるならご飯でも食べに行かない?親睦会ってことで」
笠原、神谷は直ぐ様賛成の色を見せる。と、当然3人の目がこちらに向く。うわ、これ断れない奴かよ……。
「俺はいいや。3人でどうぞ」
「え、なんか用事でもあった?」
眉を寄せて申し訳なさそうな顔で俺を見る中澤。
「別にそう言うんじゃないけど」
いや、これは違うんだ。ほら、クラス会とか体育祭の打ち上げとかだとさ、そうゆうの慣れてない奴が行くと何か発言するごとに変な空気になったりするじゃん。それを未然に防ぐ為だからな。
***
来てしまった。神谷、笠原に行かない理由を問い詰められた後、全員の予定が会う日に行くことにしようと、話がどんどん進んで行き、流石に俺がしんどくなってしまった。
ここは学校近くのショッピングモールの中にあるファミレス。全体的に安価なため多くの学生が集う。17時半と、夕食にはやや早めの時間のため、待ちもなくすんなり席へ案内された。
「へーそうなんだ、神谷はなんかスポーツとか興味ある?」
「私はあんまり。中学の時卓球やってたけどあんまり興味はない、かも」
口数比は中澤:笠原:神谷:俺=4:4:2:0と言ったところか。俺は開始から延々とカルボナーラを啜ってる。まったく、聞き上手は大変だぜ!
にしてもこのカルボナーラなかなかうまいな。
「そう言えばさ、柳橋くんは部活経験とかあるの?」
うおっ、突然回してきやがった。口に含んだ食材をなるべく早く噛み砕き、ごくんと飲み込む。
「ないな。スポーツが得意なわけでもねぇしかといって他に興味のあるものもないから」
「……そっか……」
やめろその反応。予想してたことがしっかり起こってんじゃねぇか。
「それじゃあ何でこの部活始めようと思ったの?」
さっきの空気感じてんのにまだ来るかい?普通はもう話し掛けること事態やめるだろ。笠原も「あ!私もそれ気になる!」など無駄なことを口走るし。
「始めたくて始めたんじゃない始めさせられたんだ」
「えーでもその割りに私には生き生きして見えるよ」
なんだと?俺が?生き生きして見える???
「いつ?どの辺が?」
「わっこわっ!突然元気になった!」
さっと隠れるように隣に座る神谷の肩にしがみつく。俺は不審者かなんかかと思ってんのか。
「なってない。疑問に思っただけだ」
「はははっ……柳橋くんって意外と面白いんだな。学校で静かだからわからなかったよ」
何が面白いのか。まあ勝手に満足しいているのなら結構。
俺は残り数本の麺をフォークにクルクルと巻き付け口へ含んだ。うまい。また来よう。
この日はファミレスを出た後一応解散となり、俺はすぐ帰宅した。
***
週末も何事もなく終え月曜日。当然土日には部活は無く、それだけは救いだった。
「おはよう、柳橋くん」
イヤホンを付けて殆んど寝るような体勢へ入っているにも関わらず声を掛けてきたのは中澤だった。目の前に現れただけでシャンプーか柔軟剤か知らんが花のような匂いがブワッとした。
「なんだよ。俺に何か用か?」
「用がないと挨拶もダメなのか」
中澤は俺の前に座りながらはははと半端な笑みを浮かべる。
「わざわざ寝ようとしている奴を起こしたんだ。用もなく呼ぶ方がおかしいだろ。ほら、お前の取りまき達が不思議そうにこっち見てるぞ」
あれは……
2人は「なんで中澤とあのボッチが!?」みたいな感じでちらちら視線を飛ばしてくる。そしてそれが俺と合うと急いで逸らしてくる。俺と目合わせるとだめとか言われてんのか。メデューサかよ。
「取り巻きって……ただの友達だよ。けど君の言ってることは当たってる。用件はあるよ」
「へーそう。じゃあ用件とやらを早く言ってくれ。俺は眠いんだよ」
中澤は俺の態度にどこか呆れたような様子ではぁと一息着く。
「来週にある遠足のことなんだけどさ……」
「遠足?なんだそれ。この学校そんなガキっぽい行事あったか?」
高校生になって遠足とか誰が楽しめんだよ。保育園に逆戻りじゃんか。
「2年からあるみたいだね。1年が新入生オリエンテーションしてるときにやるんだよ。ほら、去年やっただろ」
あー、1拍2日のあれか。俺が寝坊して途中参加したくなくて休んだ奴か。嬉しかったな。思っても見ないところに連休が出来て。
「それがどうした?」
「あれ、男女2人ずつの4人班なんだよ。一緒の班にならないか?」
男女2人ずつ。こいつらは普段3人だ。それで1人溢れるってことか。いいじゃん、ここでその友情にどのような亀裂が入るかってところも面白そうだ。
が、俺にこの話ってことはそう言うことか。リーダー格の中澤が一歩引くことで維持する、と。
「そうかそれで俺をね……お前の引き立て役になれってことだろ?お安いご用だよ」
「べ、別にそう言う意味じゃ……」
分かりやすく焦る中澤。
けど確かに、中澤と同じ班になりたい女子生徒の身になってもそうだ。あいつの取り巻きである丸山や大江が居るより、俺みたいな影の薄い存在の方が、回りの視線を気にせず中澤に近づきやすいことだろう。
「俺のせいで丸山と大江のどちらかを1人にするのはちょっとな。それに……」
だろうな、んなこと知っている。
「俺自身、もう少し君と仲良くなりたいんだ」
中澤は照れ臭そうに先程よりも小声で言った。けど、その顔は告白とかするときの顔だろ。したこともされたこともないから分かんねぇけど。
「たった1回のイベントで仲良し扱いされても困る。俺は誰となろうが何も変わんないからどうだっていい」
中澤はありがとうと一言言い、取り巻き達の方へ戻っていった。
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