1.9 部活動とは?
「あやと結構仲良くなったんだね。あの子大人しいし少し個性的だから心配だったんだけど」
「別に仲良くはねぇよ。他人から知人になっただけだ」
笠原の頭に❓が浮かんで見える。こいつはやっぱあれか、挨拶したらみんな友達!とか思ってるタイプか。
「ただ、あいつは無言で居てもいい奴だから気を使わなくて楽だってのはあるな」
「何それ!私がうるさくて気を使うって言うこと?」
はい、その通りです。まぁ、気を使うとまではいかないけどな。俺が気を使うのはあの独身アラサーおばさんだけだ。
「そう言えばさ、あやの相談解決したの柳橋君なんだよね。どういう相談だったの?」
「えっ?先にお前相談受けてたじゃん。それで解決しなかったから俺のところ来たんじゃねぇの?」
「私に?あやが?してないよ。柳橋君が帰っちゃったあの日は柳橋君に相談したいことがあるからって言ってそのまま少ししゃべって一緒に帰ったの」
そうだったのか……。俺そんなグロいの好きそうな顔してんのかな。
「あの子はさ、周りからの視線とか結構気にしちゃうタイプだからあまりそう言うの打ち明けられなかったんだよね、きっと」
確かに。あの趣味を告白したことで引かれるのが怖いとかは言ってたような気もする。いや、待てよ。そうなると俺からは引かれても嫌われても良いみたいな意味合いになってくるな。
「でもやっぱり柳橋君凄いんだね。あんなにすぐに解決しちゃうなんて」
「俺は殆んど何もしてない。お前らが受け入れなければ大失敗だった訳だしな」
元より俺のボッチになれ!みたいなメッセージを神谷が良い風に取り違えたことで解決したんだし。俺の手柄にしてくれるってんなら悪い気はしないけどな。
ここで陽キャ諸君に1つ忠告。唐突に誉めるのはやめて欲しい。照れて勘違いして変な方向に突っ走って自滅ってルートに入る可能性が高いので。
「……そう言えばさ……私、部活辞めることにしたんだー」
「……そうか」
意を決して、という感じに発表されたが、俺はさほど驚かない。何故ならそうするのがどう考えても正しいからだ。
「え、それだけ!?」
笠原は大きな目をさらに大きくして俺の前に先回りしてきた。
「それだけも何も……逆に陸上部やりながらこんな部活入っていたことの方が不思議なくらいだ」
届け出を出していない現時点まだ部として成立していないこんなところに、毎日顔を出すことが面倒になったのだろうか。殆んど仕事もないしな。
「いや違う違う!辞めたのは陸上部の方だから!」
「は!?……それは何で……」
陸上部のエースみたいな存在だった筈だろ?そんな奴がどうして突然……。
「まぁ……前々から考えてたんだよねー。ほら、バスケ部とかソフト部とかの助っ人頼まれたりもするし……私勉強は苦手でさ……この前の大会優勝出来たら辞めようって決めてたんだ」
少し照れたような様子で話す笠原。要するに、何かを手放さなければならないほど現時点余裕がなく、その結果一番軸となっていた陸上に区切りをつけたということだろう。
てかこいつ他の部の助っ人までやってたのか。よくそんなことまで出来るもんだ。感心通り越して怖ぇわ。
「そんで、この部活は続けんのか?」
「うん……そのつもり……だけど……」
「だけど、何だよ」
笠原は質問が来ると思っていなかったのか、一瞬ビクリとしてから作り笑いのような笑顔で、小声で答えた。
「こんなの自分勝手だよねー、勝手に色々引き受けといてキツくなったから辞めますなんてさ」
「自分勝手……そんなこと言ったら全員そうだろ。頼んだ側も頼まれた側も……まあ1人の俺にはそんなこと思う瞬間すらないけどな」
笠原は静かに微笑んだ。
そうこうしているうちに気が付けば俺の家の前まで来ていた。
「俺はここで。書類、書いておけよ」
「うん、バイバイ!今日はありがとう」
何がありがとうなのだろうか。ふとそんな疑問が浮かんだがすぐにどうでもよくなり、後ろで手を振る笠原に背を向け玄関へ入った。
***
食事と入浴を済ませ、時刻は午後8時前。高校始まって以来の長い1日に身体も疲れていたらしく、今はリビングのソファーに埋もれたまんま動けない。
「克実、今日どうしたの?」
食器を片付け終えた母親がテレビを見つめる俺に問う。
「どうした、とは?」
「帰りいつもより2時間くらい遅かったじゃない。鈴と同じくらいだったでしょ?」
そうだよな。いつも4時に帰宅していたボッチ陰キャ息子が、突然6時過ぎに帰ってきたのだから。
「まあ、色々と……」
「なにぃ?友達でも出来たの?」
そこは普通「彼女でも出来たの?」なんですけどね。息子に友達出来たのって聞くの小1くらいだろ。俺は高2です。
「そんな楽しいもんじゃねぇよ。強制的に部活させられてるだけだ。これからこんぐらいに帰ること増えると思う」
了解、とだけ返ってきた。なぁんだ、とややがっかりした感じで俺を見る。ですよね。息子に久々に友達ができたと思ったらこき使われてただけだったんだからな。もう期待してくれるなよ。
「お兄ちゃん結局部活入ったんだね。何部入ったの?」
ちょうど風呂から上がってきた鈴が俺達の会話を盗み聞きしていたらしく、頭をタオルでゴシゴシ拭きながら冷蔵庫へと向かった。
「何部……名前はまだない」
ちょっと夏目漱石っぽくしてみたが妹には刺さらなかったようだ。母親に関してはスマホを見ながら鼻唄なんか歌ってやがる。
「何それ、キモッ」
「キモかねぇだろ。本当に名前は決まってねぇんだよ」
妹からのドストレートキモいは流石に堪えるな。俺はピッとテレビを消すと荷物をまとめ、自室へ向かおうと立ち上がる。と、
「なんか忘れてる。何これ、漫画?スプラッ……」
「あっー!待て貸せ!」
「ちょっと……!」
鈴の手から強引に奪い取る。
「もしかして、部活と言いつつ変な本でも買って来てたの?」
「そんなんじゃねぇよ。……ほっとけ」
ちらりと鈴の方を見ると目を細め、うわぁ……と小さく呟いていた。とんだ災難だな。神谷はこうゆうのどうしてんだよ。
「そういう本、お兄ちゃんは見ない方が良いと思うよ。本当のサイコパスになられても困るし」
「そうね。克実、法を犯すようなことだけは駄目だからね」
「……はぁ」
そう来たか。興味を示すわけでもなく警告と。俺に信頼と言うものは無いのかね。鈴に関してはこれ以上近づくな、みたいな視線を向けられてるし。
なんだよこの感じ。なんか俺が可哀想な人間みたいになったじゃねぇか。もうそれでいいや。
***
翌日、放課後。
「どうだった?」
目を輝かせて俺に問う神谷。
「まぁまぁ……だった」
思いの外全体のストーリーとしては面白かった。大雑把な内容としては、人喰い族と人間との対立を描くホラーサスペンスといったところか。けどな、
「あれ常人にはキツいぞ?ほとんどずっと目ぇ細めて読んでたわ」
結局昨夜は1巻のみ読み終えて就寝。といってもそこらじゅうの模様が人喰い族の顔に見えて眠れなかった。まさか序盤からあんなに飛ばしてくるとはな……。
俺の答えが予想外だったのか、神谷は少し残念そうに、「そっか……」と呟いた。
いやー、これでも結構頑張ったほうだぜ?読んだだけでも誉めてほしいくらいだ。
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