10話 土熊の巻 上

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この話は医術のことに触れていますが僕は医術を学んでいません。


持病を抱えているため病院の先生に治療してもらっているので人より少しだけお医者様に通う回数が多いだけです。患者の立場からお医者様の先生のイメージ像を作り上げ小説を書きました。

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 あるところに土熊 粟生(つちぐま あおう)という者がいたとある文献に残っている。 


 酒を飲み、大根の漬物が好物で、書をたしなみ、芸術を愛し、医術にたけて、また仁の者であると書かれている。土熊はある藩の御殿医をしていたが、あるとき命を辞して、野に下り、町医者になったとのことである。この話は土熊が町医者になったばかりのころ、そんなところから始まる。


赤乃は歩いている。しかし、ときどき心臓のあたりが空洞になったように感じる。さらには疲れやすくなっている。幼い頃に健康を保つには運動をすればいいと物知りのご老人たちに聞いたことがあるが、冗談じゃない。もう運動なんかする体力、精神力残っちゃいない。それでも歩く。


歩いていると、周りがどんどんと赤乃を避ける。見えるように頭の辺りを右手でくるくると回す人たちもいる。


 赤乃は昔から村で「アホウ、アホウ」とさげすまれていたので普通の人よりかは平気なふりをできた。

 心が折れないように、頭のなかで念仏を唱える。唱え続ける。


御仏さまどうかどうか僕をお導きください。御仏さまどうかどうか。御仏さまどうかどうか。


 ごほっ!


 赤乃はつばを飲み込み思わず咳き込む。両手を口に当てる。ぬるっ、としたものが、べたっ、と手のひらについた。血だった。


 怖くなりその場に立ちすくむ。動けない。その時、

「大丈夫か!」

 と肩にトンと両手を置かれた。かすみゆく目でふり返る。もう両目がかすんで何も見えなかった。

「うん」

「わしは近くで町医者をやっとる土熊というものじゃ。一緒にうちの家までいこう。少し休んでいけ」

「分かった」

土熊先生の家は診療所になっていた。何人もの患者たちがそこで布団をかぶって雑魚寝をしていた。アルコールの匂いとかションベンの、つーん、とした匂いがする。少し臭い。土熊先生はちょいとごめんよと言って寝床をひとつ確保する。

「たいしたところではないが・・・・・・」

「お代が払えません」


 先生は、ははっ、と笑うと、赤乃の眼をしっかりと見据えると、

「いらんよ」

 先生の瞳はきらきらと童子(わらべこ)のようにきらめいていた。思わず「何でですか」と問う。先生は腕を組むと、にやりと不敵に笑う。

「もっている奴からお金は取るよ」

 その言葉を聞くやいなや赤乃はそこに崩れ落ちた。そのまま意識が薄れていく。

「ありが・・・・・・とうご・・・・・・ます」

 そのまま眠りについた。


そのまま二日ほど寝て起きると土熊先生に診察に呼ばれた。先生は脈や心臓の音などを聞く。お腹のあたりをしきりに押している。先生の顔が少しこわばっている。

「いつから血を吐くようになったのか?」

「食欲はあるのか?」

「眠れているのか?」

 とかいろいろ聞かれた。先生はしきりに紙に筆でなにかを書きこんでいる。

「大丈夫なんですか」

 先生は声を荒げて、

「少し静かに」

 それから本を取り出し熱心に読んでいる。少し見えたが日本語ではなかった。先生は黙りこくっている。

「もう大丈夫だ。服を直しなさい」

「はい」

「僕の病名はなんですか?」

 先生はそれには答えず、念仏のように

「大丈夫。大丈夫だから」

 それだけを繰り返していた。

 先生は一言、

「少し疲れているだけだ。しばらくうちで休みなさい。滋養のあるものをたくさん食べればきっと大丈夫だから」

 それから二日後、また血を吐いた。

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