幕間 一
――闇の世界。
人間の世界とほど近い、しかし物理的にはつながらない異界。
太陽などなく、常に暗夜のこの世界にある唯一の『国』であり、同時にこの世界全土を支配するもの。それこそ、絶対不変の女王によって統治された、シャドー王国。
だが今、本来であれば世界唯一の王国として栄華を極め、安寧を享受するはずの民はおらず。ただ静謐ばかりが国を覆い包んでいる。
民なき王国、その中心地で今もなお荘厳に聳え立つ王城。
最も高い王城の地下深く、既に隠す相手も存在しないはずであるのに、念入りに隠された研究所。
「ついに、クク、ついに手に入れたぞッ!!」
喜びを隠さず、そして平時であれば何重にも塗り固めた仮面の下に潜ませる欲望を爆発させるは、シャドー王国の女王に忠誠を誓う四人の親衛隊が一角、策謀の
今人間の世界を侵略する兵器にして兵士たる『アクマーダー』を作り上げた天才であり、政治面で女王の補佐を行う大臣でったが、現在は宰相を名乗る重鎮。そして王国創立から生き続け、自身にも幾つもの改造を施してきた、容姿実体ともにその名の通り怪物である。
彼が歓喜に打ち震えるそのわけは、今目の前に鎮座する巨大な液体に包まれた二人の少女にある。
魔法少女。光の楽園より力を与えられ、武闘派で鳴らした親衛隊の一角、狂乱のイクトゥスを打ち砕いた、闇の王国至上最大の脅威。だがその脅威は今、自身の手の内にある。
「これでようやく、我が宿願が叶う! あの腑抜けた女王を打ち倒し、面倒な小娘どもを這い蹲らせ、そしてこの王国を我が手中に収めるのだッ!」
自身らの力の根源とは相反する力を宿す光の楽園の存在、そして魔法少女。その力を以てして、闇の同胞を打倒し支配者として君臨する。その宿願の為に、彼は長く永い時間を掛けてきた。『アクマーダー』の研究もその一環で生まれたものに過ぎない。
大望、そして尽きぬ野望。それこそがヨッドを支えるものであり、最も彼の怪物たる所以だ。そして今、その野望を果たすための最大のピースが揃った。
「さあ、実験を始めるとしよう。お前たちの『闇』を、この私がじっくりと暴いてやる。そして次に目覚める時、お前たちは我が忠実なる僕として、闇の光を操る最強最悪の兵器となるのだ……!」
ごぼり。少女たちを収めた円筒に、徐々に注ぎ込まれて行く真っ黒な流体。粘性を帯びた不透のそれは、熱を持たず、しかしごぼごぼと意思を持つかのように泡立ちながら、目を覚まさない少女たちを呑みこんでいく。
「光と闇とは裏表。暗黒の中で己が
闇は深く、夜は明けない。
この暗夜の王国で、悍ましい闇がまた一つ胎動しはじめたのだった。
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