第12話

 俺がデータ取りの打ち込みをしているうちにネンソンたちはティーグラウンドを広げていた。


 俺は打ち終わるとヘトヘトになってベンチに座った。


「ニーデズ。悪いけどみんなに持ち方教えてやって。後は飛ばなくても面白いはずだから自由で」


「かしこまりました」


 使用人たちが集めたボールと飛距離メモをウルトが持ってきて、ウルトも指導される輪に加わった。


 メッセスは俺に飲み物とタオルを渡し、ウルトのメモをノートに写していく。


「メッセス。それは夜でいいよ。今は体験してきなよ。体験するとしないでは違うと思うよ」


「そうかもしれませんね。では、行ってまいります。フユルーシ様はごゆるりとお休みくださいませ」


「オッケー……」


 データを取るためなので、すべてフルショットの真剣打ちだったからさすがに疲れた。


「でも、いい汗かいたなぁ。面白いよなぁ」


 俺はベンチの背もたれにグゥッと背伸びをした。


 みんなワイワイと言いながらドライバーを振っている。空振りも多いから当たっただけで大騒ぎだ。


 うん! その気持ちわかるよ。


 ん? これはきっと前世の記憶なんだろうなぁ。


 ニーデズが指導している様子をしばらく見ていたが、俺も指導に加わるために立ち上がった。みんなのところまで行く俺はニヤケが止まらなかった。


 ゴルフ! やっぱり面白いっ!



〰️ 〰️ 〰️


 ニーデズとの夕食はゴルフの話で盛り上がった。聞かれてはまずいワードも出てしまう恐れがあるので、アキオード次兄夫婦と食事はできない。だから俺の部屋に運んでもらった。

 ニーデズもしばらく指導した後かなり打ち込んでいたから、満足行くくらいは打てたようだ。


 本当はみんなと夕食をしたかったが、公爵令息という立場、公爵家屋敷という場所ではそれはできなかった。みんなは使用人食堂で食べるそうだ。


 そして夕食の後、談話室に集まった。メッセスはすでに使ったクラブとボールとその飛距離をわかりやすく纏めてあった。


 今日の感想を言い合う。みんな随分と楽しかったようで興奮したように喋る。


 メッセスもウルトも喜んでいたから手応えありだ。


「やってもらってわかったと思うけど、みんなで遊ぶならドライバーは何本も必要だね」


 庭師の弟子の若者二人がダフって二本折った。とても恐縮していたが『実験としていいデータとなったよ』と言ったらホッとしていた。


「はい。適さない木もありますね」


 テレストはデータを指で追う。


「俺が折った物は強度的に適さないかな。でも、俺の飛距離から適さないかどうかはわからないよ」


「え? そうなのですか?」


「うん。腕力とか足の使い方とかでピッタリくるドライバーは違うんだ。

だから、明日は残りの六本を使ってニーデズでデータを取ろう」


「わかりましたっ!」


 ニーデズが嬉しそうに笑顔になる。


「ニーデズ。ボールはどれがよかった?」


「一番飛んだ物を選ぶのではないのですか?」


 メッセスが聞いてきた。


「あの球場だと最長百六十メートルだよね。俺より力のある人がスイングできるようになったら場外へ行っちゃうよ。一番飛ばないボールでもクリケットよりは飛ぶから面白さは大丈夫だろう」


 俺は最長飛距離百十メートルだった。


「飛ばないのは一番軽いボールですね。これで決まりでいいですか?」


「ニーデズ。それでいいよね?」


「はい。その方が効率もいいと思います」


 確かに使用人たちにボールを集めさせて持ってきてもらう必要があるから効率も大事だ。

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