第11話

 俺が打ったボールは八十メートルフラッグ超えたあたりに落ちた。九十メートルほどか。

 ウルトが転がるボールの元に急いで駆けつけて色の違うフラッグを立てる。


「ブワッハッハッハ! でも飛ばないねぇ! ニーデズ、見てよ。ドライバーであんなもんだよ」


 俺がフィニッシュポーズを解いて振り返るとニーデズはニコニコとしていた。


 が、他は口を大きく開けてポカンとした。メッセスでさえ、口が開いている。メッセスはロープを用意したくせに信じていなかったようだ。


「あれ?」

 

 みんなの反応の悪さに思わず首を傾げた。ニーデズが気が付いて周りをキョロキョロ見る。あ、と小さく声を出して苦笑いで俺の元へ走ってきた。


「みなさんはクリケットのホームランしか知らないので、十六歳の少年が九十メートル飛ばしたことに驚かれているのだと思います」


 クリケットは年齢や技術によってグラウンドの大きさは異なるが、主に直径百メートルの円形だ。国王陛下主催の大会になると百二十メートルになるらしい。

 そして、打席はその円の中央付近。つまり、ホームランでも五十から六十メートルほどなのだ。


 それでもゴルフと考えると飛んでいない。九十メートルは九十ヤード強だ。前世のドライバー飛距離の半分ほどである。ボールやドライバーの質的にはこんなものだろう。俺のテクニック……かもしれないけど……、それは敢えて口にしない。

 ちなみに、ヤードは使わない。説明ができないし、使い分けてもらう手間も省きたい。


「ニーデズもやってみてよ。そうしたらみんなも現実に戻ってくるさ」


「アハハ。やってみます! 楽しみです!」


 ニーデズは俺からドライバーを受け取り、転がっているボールを一つとって、ティーを刺し直す。ボールは俺と同じ重さの物を使った。


「行きますよぉ!」


 ニーデズはボール拾いの方へ声を掛ける。ウルトが手を上げた。


 ニーデズのボールもいい音をさせて飛んで行く。八十メートルほどだ。ロープのフラッグを少し越している。

 俺はパチパチと手を叩いた。ニーデズもスイングがよかった。体で覚えていたことは忘れないのかもしれない。


「メッセスぅ。メモしてくれた?」


「あっ! はいっ! すみません。

ニーデズ様っ! フユルーシ様に何とお声掛けなさったのですか?」


「「あ……」」


 これまた思わず出たワード。でも、ナイスもショットもある言葉だから大丈夫だろう。


「ナイスショットって言いました」


「なるほど! フユルーシ様! ナイスショットです!」


「坊ちゃま! かっこいいです!」


「凄いっすね! ナイスショットです!」


 みんなが思い出したように俺を褒めた。


「ニーデズも、ナイッショッ!」


「ありがとうございます!」


 俺を皮切りにみんなもニーデズを褒める。


「じゃあ、みんなもやってみてよ」


「待ってください」


 ニーデズからストップがかかる。


「ドライバーとボールのデータを取らないと比べられません。フユルーシ様のお仕事ですよ。

ファイトです!」


 ニーデズが優しげに笑う。


 それからニーデズに言われたように打っていく。ドライバー一本に付き、各重さのボールを三回。二本ほど、数回で折れた。テレストはその二本に納得しているようだ。


 言っておくが、俺はダフっていないっ!


 テレストは横目で俺を見ながら次のティー作りに入っている。ニーデズは折れることがあると説明してくれたらしい。

 実際に俺だけで三本折れた。


「こんなのはすぐに作れますから問題ありませんよ」


 頼れるテレスト。


「メッセス。量産してもらうつもりだからしっかりお金よろしくね」


「かしこまりました」

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