第10話

「これはなんのためのロープですか?」


 ネンソンが弟子たちを見ながら聞いてくる。


「どのくらい飛ぶかだいたいの目安を知っておきたいから」


「ロープの長さは?」


「一応八十メートル。足りないかもしれないけど」


「「「八十メートル!!!???」」」


 ネンソンとテレストとサマラが目を丸くした。メッセスは準備してくれた人なので驚いていない。


「とにかくやってみよう!」


 俺はテレストからドライバーを一本受け取り立とうとした。


 そして、はたと思い出す。


「「ティー!!!」」


 俺とニーデスは目を合わせてハモった。

 それからニーデスが絵を書いてテレストに説明を始める。


 俺はネンソンに声をかけた。


「ネンソン。ここ三メートル四方を短く刈り込んでくれ。そうだな。四ミリくらいがいいかな」


「かしこまりました」


 ネンソンは弟子にも指示を出してすぐに作業にとりかかる。


 やはり、やってみると手落ちはあるものだ。


 その間にボールを改めて確認した。


「サマラ。試験的にいろいろと試すけど、最終的には重さはある程度固定したい。重さによって飛距離が変わるからね」


「かしこまりました。なるべく誤差が少なくならようにいたします」


 革の厚さの均等化も難しいこの世界で重さの固定は更に難しいと思われる。


「数を揃えてもらうのに無理言ってすまないな。それなりに技術料は弾むからさ。よろしく頼むよ」


「!! それは助かります! がんばります」


 そう言っている間に準備ができたようだ。


「フユルーシ様。おまたせいたしました」


 ニーデスがティーを手渡してくれた。初めて作ったにしては上手くできている。さすがに父上が勧めてくれた職人だ。

 ニーデスがティーは折れやすいと説明したらしく、テレストはまた作業に戻っている。ネンソンたちにもニーデスがオッケーを出したようだ。


「サマラ。一番軽いボールをくれ」


「え? 飛びませんよ」


「飛距離が予想もつかないから、飛ばない方がいいよ」


 サマラは首を傾げながら渡してきた。もしかしたら四十メートルほどを考えているのかもしれない。俺はいくらなんでも……ぐふふふと考えている。


 俺がティーエリアに立つとメッセスが改めて声を上げた。


「では、フユルーシ様に新たなる球場の開幕始球を執り行っていただきます。

皆様。拍手をお願いします」


 これまで関わってきた者達が拍手する。テレストも手を止めて拍手していた。

 俺も調子に乗ってやあやあと手を上げる。ここでは一番爵位が上だからね。


 ニーデスが俺に手渡したティーとは別のティーをわざと丁寧に刺し、俺からボールを受け取って恭しくセットした。


 かえって緊張するよ……


 気持ちを引き締める。


「よしっ! いくぞ!」


「フユルーシ様。リラックスですよ」


「あ! そうだな。了解!」


 ニーデスの小さな声のアドバイスに笑った。


 俺はボールを正面にして構える。ニーデス以外は構えだけで驚いているかもしれないが、それを見ることはできない。


 スゥーと息を吸って止めた。


 ゆっくりと振り上げ腰を残すことを意識して振り下ろす。


 ああ! この感覚! 久しぶりだぁ!


『スッパーン!!!』


 思いっきり振り抜いた。


「ナイショーッ!!!」


「きっもちいい!!!」


 俺の声とニーデスの声だけが球場に響いた。

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