第2話1限目、国語

 チャイムが鳴り、バタバタと廊下で談笑していた生徒が慌てて教室に入ってくる。夏凛もその一人で、隣のクラスになった中学が同じだった子と話していたらこの様だ。机の中からいそいそと教科書や補助教材、辞典などを出す彼女を後ろ目で琴音は見る。同じ本を愛する同志としての興味がそこにはあった。そして言語化の難しい何かもどかしい感情も。


 国語の担当は担任でクラスの生徒が、

「席替えしたいっすねぇ」

 と発したばかりに、第1回目の授業は何と席替えの時間になってしまった。みんなでくじを引いて一斉に開示するという方法でとり行われたそれは琴音にとっては夏凛の席に近づくチャンスだと思った。ありとあらゆる手段で根回しして近い番号と入れ替える算段を組んだ。結果的に仕込んでいた子の一人が近くの席を引き当てこっそりと交換してくれた。

「はい、じゃあ休み時間の間に席は入れ替えておいてね~私は急いで座席表作ってくるから!」

 そういって先生は職員室に戻っていき、残りは自習となった。琴音が確保した席は夏凛の一個斜め後ろの席。ギリギリ顔が見えるくらいの席だ、

「夏凛、この前はありがとう、やっぱこの作者さんはいいね」

 感想を述べつつ借りていた本を返却する。

「でしょ~? やっぱあの80階層の話がね……」

 自習時間に二人はその本について語り合った。そして今度は琴音の方から本を差し出す。

「昨日発売された本、多分夏凛が好きそうだと思う。だから貸してあげる」

 受け取った彼女は明るい笑顔で、

「うん! ありがとう! 琴音ちゃん!」

 と返答してきた。その笑顔の可愛さにドキッとしながら本を渡し、自習課題をそのドキドキした感情のまま終わらせる。途中何度かチラチラっと夏凛のことを見たが、真剣に課題を取り組んでいる真面目な顔がさらにドキドキを高めてくる。この気持ちが何なのかわからないまま1限が終わってしまった。終わりのチャイムと同時に席を離れ、5組にいる親友を呼び出しに行く。

「すいませーん、横井いますか?」

 クラスを覗いてそこそこ大きな声でクラスの中に呼びかける。

「おーい横井ちゃーん、お呼び出し~」

 言われて出てきた横井桜花(よこい おうか)は琴音が呼んだ事に気が付くと、小走りで近づいてくる。

「音ちゃーん! どうしたの?」

 ニコニコの桜花だったが相談の内容を聞いた瞬間ちょっと困った顔をする、

「……ってわけでその夏凛って子を見るたびドキドキしちゃうんだ。花ちゃんはどう思う?…って、なんでそんな不満そうな顔なの?」

「…別に、でもそれって」

 桜花は琴音を壁側にして耳元でささやく。

「それって恋なんじゃないかな?」

 琴音は耳元で囁かれるのが弱いことを桜花は知っている。ビクンと跳ねる彼女をかわいいと思いながら、

「じゃ、多分そういう事だから私は戻るね~」

 手をひらひらと振りながらクラスに桜花は戻っていく。耳をさすりながら琴音もクラスに戻っていく。桜花の弱点攻撃は毎回クリティカルヒットな為、今回も耳を真っ赤にしながら廊下を足早に歩くのだった。

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