花野学園高等学校
小雨(こあめ、小飴)
第1話花野学園高等学校女学部 入学式
学校のチャイムが鳴り響き体育館に集められた生徒のざわつきが静まる。教頭が壇上に上がりマイクの前に立ち、
「只今より、花野学園女学部の入学式を開始します」
入学式は学園長の話に始まり、覚えてもいない校歌を歌って終了した。上の学年から順番に体育館から外に出て教室へ戻っていく。そして今度はクラスで生徒の自己紹介が始まり私の番に回ってきた。
「えっと、音葉 夏凛(おとのは かりん)です。趣味は本を読むことと、絵を描くことです。」
夏凛の可愛さにクラスが一瞬どよめく。自分ではそんなに思わないがよく告白とかを過去されていたのでなんとなくかわいいのかも、とは思っている。そんな中、彼女が気になる生徒が一人いた。
「如月 琴音(きさらぎ ことね)です。趣味は読書、あんまり喋るのは得意じゃないです…よろしくお願いします」
凛とした顔立ちに大人な性格、趣味も合いそうということで休み時間迫りくる女子たちを躱しながら彼女のもとへ向かった。
「えっと、如月さんだっけ? 私、音葉。どんな本読んだりするの?」
如月は音葉を読んでいる本から顔を見上げて眼鏡をはずす。眼鏡を外すとよりキリッとした顔が胸にドキンと来る。
「下の名前でいいよ、琴の音って書いてことね、結構ありきたりな名前だと思うけど。音葉さん?も下の名前でいいかな」
距離を急激に縮めてくる琴音にドキッとするもどうにか平穏を装って対応する。
「う、うん! いいよ! それで琴音ちゃん、その読んでる本って……」
その本の表紙にはすごい見覚えがある。そう、裏表紙の階段と地下都市の風景、
「これ? 最近出た作家さんの”地下都市150階層”って本。書籍化する前から読んでるんだ」
「あのさ、これ」
言いつつサッとある本を差し出す裏表紙は階段と地下都市の風景……だが表表紙に向かうグラデーションの色が違う。
「これってイベント限定販売の150階層特別編じゃない! あれ列に並べなかったのに……」
「よかったら私もう読んだし、貸すよ?」
琴音の驚く顔が目に映る。この作家さんの本は世間的にはまだ無名の段階で数百人程度の知名度だがイベントとなれば数量限定の書籍が台風にさらわれるがごとく消えてしまうし、滅多にそうなってしまうとお目にかかれないからだ。
「い、いいのかい? こんな貴重なものを……しかもクリアカバーまでしてあるのに……ホントに貴重も貴重なのに……」
みんなに聞こえないように夏凛は琴音に話しかける。
「ほかのファンの人には内緒だよ。琴音ちゃんのこと……気になってるの」
「じゃあ今度感想聞かせてね! 授業始まるから戻らなきゃ!」
足早に自分の席に戻る夏凛、空いている窓からは温かい春風が琴音の席に吹き込んでいた。
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