人造魔法石は便利なんですけど?

「店主。ここに、ギルドに所属している刀鍛冶師ジュードから譲り受けた人造魔法石がないか?」

「ジュードさんは、どうして捕まったんですか?」


「何?」と上級騎士が声を荒げ、眉間にしわを寄せるのがわかった。


(ジュードさんが捕まったことを言ってはいけなかったんだ……)


 その上級騎士はじろりと店内を見回して、ヘイルズ王子がいることに気がついて、ああと納得したような顔をした。私に話す気がなくなったのか、視線をヘイルズ王子に移す。


 (上級騎士ってプライドが高くて、平民を見下している人が多いのよね)


「ヘイルズ王子。ずいぶん大きな耳をお持ちのようですな」


 (この人、ヘイルズ王子にも嫌味を言うんだわ。辺境騎士団って王都の騎士団と仲悪いので有名だけど……)


 ヘイルズ王子はゆっくりと立ち上がると、私の隣に立った。


「情報収集も仕事の一つなのでね」

「しかし、王子が供も連れずに、このような店にいらっしゃるとは……。王都の騎士団は主をほったらかしにして何をしているのやら……」

「先日の狂鼠襲撃の時に、助けてもらったお礼にと思って訪ねたんだよ。まあ、ヴァルコイネンは治安がいいと聞いているから、私ひとりで訪れても問題ないだろ? 部下たちには別の仕事を頼んだほうが効率がいいと判断したんだよ。それに、君たちみたいにぞろぞろ来ては、店主も困ってしまうだろうからね」

「くっ………」


 上級騎士が悔しそうな顔をする。


「それで、君たちは人造魔法石を探しているのかい?」

「……はい」

「どうしてだい?」

「刀鍛冶師ジュードが、人造魔法石を使って狂鼠を呼び寄せたのではないかという情報がはいってきました」

「ほお?」


 ヘイルズ王子が、片方の眉をあげる。


「そのため、人造魔法石を押収して鑑定を行います。おい、店主、人造魔法石を持っているのか? 持っていないのか?」


 上級騎士が私にむかって怒鳴る。


(威圧すればなんとかなるって思っているのかしら)


「ジュードさんから借りている魔法石はありますが、それが人造なのか、天然なのか、判断がつきません。店の裏にあるので、それを取ってきて、お見せするのではどうでしょうか?」

「取ってこい。しかし、一人で行かせて逃げられても困る。おい、誰かついていけ」

 

 上級騎士が後ろに立っているメンバーに声をかける。残りのメンバーが顔を見合わせていると、ヘイルズ王子が「私がついていこう。問題あるまい?」と言った。


「しかし、それでは……」と上級騎士が言いよどむと、「私では問題ありか?」とヘイルズ王子が口角をあげて聞く。


「私も大切な部下を失っているんだ。私も真相が知りたい」


 ヘイルズ王子が上級騎士をじっと見る。上級騎士はヘイルズ王子の視線に耐え切れず下を向いた。


「…………」

「決まりだな。店主、私が一緒に行こう」


 そう言うと、ヘイルズ王子が貴族の女性にするように、優雅に右手を差し出した。


(こういうところは王子様なんだよなぁ……)


 私はその手に手をのせて、歩き出した。



 

 石臼はお店の裏手に置きっぱなしにしてある。私はヘイルズ王子をお店の裏手に案内する。


「ヴィーは、扉が開いた途端、消えた。あれは精霊か? 初めて見たぞ」


 上級騎士達が見えなくなると、ヘイルズ王子が小さな声で話しかけてきた。


「そうかもしれませんね」とあいまいに答えると、気を悪くした風もなく、「それにしても、ずいぶん食い意地ははっている精霊だな」とヘイルズ王子が笑った。私もつられてふふふっと笑う。


「それはそうと、ジュードとやらに借りたという魔法石は、本当に人造魔法石なのか?」

「ええ。ジュードさんがそう言っていたから間違いないかと」

「どんなやつだ?」

「土の魔法石を改良した灰茶色の重量操作の魔法石です。人間の暮らしが便利になるように、月白の塔の祭司たちが開発した魔法石だと言っていました」

「確かに、人造魔法石は月白の塔で開発している。灰茶色の重量操作の魔法石は、私も知っている。だから、人造魔法石自体は問題ないはずだ」

「そうなんですね。私、初めて聞いたから、さっきの騎士様の話をどう考えていいかわからなくて……ほら、最初に余計なことを言ってしまったし……」


「まあな」とヘイルズ王子が笑った。


「これです」と、石臼に結びつけた灰茶色の魔法石を指さした。ヘイルズ王子は結び目をほどいて、魔法石を手にのせる。


「私が知っている重量操作に特化した人造魔法石に間違いない」

「他に見たことあるんですか?」

「ああ。開発途中というのもあって、人造魔法石は普通の魔法石の五倍の値がする。しかし、この重力操作の人造魔法石は、商人には評判がよくてな。裕福な商人なら、かなりの確率で持っている魔法石だ」

「五倍とはかなりの値がしますね。でも、確かに、昨日使ってみて、便利でしたもの」

「そうか。使ってみたのか」


 私とヘイルズ王子はそれを持って、辺境騎士団が待っている場所へと戻った。


 上級騎士はそれを受け取ると、しばらく魔法石を眺めていた。そして、突然、「お前も一緒に来い」と言い出した。


「なぜだ?」とヘイルズ王子が、眉をよせて聞く。


「もし、人造魔法石を持っていたら連行しろとオーヴァレヌ伯爵に命令されています」

「なぜ、初めから言わなかった?」

「言えば、逃走する恐れがあるからです。来い!!」


 私の腕を上級騎士が引っ張ったので、ヘイルズ王子が「待て!!」と声を荒げた。


「私の恩人にそのような手荒な真似はするな。君たちは、その人造魔法石を先に持って帰るがいい。その魔法石の鑑定が必要だろう? オーヴァレヌ伯には私が連れていくと伝えておけ」


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