和菓子にチャレンジ(3)

 

 今日は快晴! 私の気持ちも快晴!


 私は、ウキウキしながら昨日水に浸しておいたコメを石臼で水挽きする。


 ゴロゴロ……ゴロ、ゴロ……ゴロゴロ


 石臼が、重たい音を立ててコメをすりつぶしていく。面白いように、コメがすりつぶされて、真っ白な液が上臼と下臼の間からこぼれてくる。


 昨日、ジュードさんが重力操作の魔法石をつけたままにしてくれたから、持ち運びも、石臼を回すのも苦労しなかった。


(やっぱり、便利だわ。この人造魔法石)


 あっという間に、昨日浸しておいたコメをすりつぶすことができた。


(次は乾燥かぁ……)


 火の魔法石の上に真っ白な液をたらりと垂らすとあっという間に乾燥して、今度はパリパリの紙みたいになる。魔法石の大きさがあるから、この作業を何回も繰り返さなきゃだけど、それはそれで楽しい。全部をパリパリの紙みたいにしてしまうと、すべてすり鉢の中に入れて、すりこ木で細かくたたく。


 上出来じゃない?


 出来上がった白玉粉を見て、私はふふふふんっと笑う。自画自賛ってやつ。気分良くなった私は、大声で宣言をした。


 「白玉団子を作ろう!!」


 白玉粉にお水を加えて、手で優しく混ぜ合わせる。おばあちゃんと作ったときはお豆腐をいれて作ったんだけど、この世界では、お豆腐を見たことがないから、今回は水で作ることにする。

 

 最初は白玉粉の粉のせいで、ぼそぼそっとしているけど、少しずつお水を加えて混ぜ、加えて混ぜていくと奇麗にまとまって、テカテカした塊になる。おばあちゃんが毎回、私の耳を触って、『同じだねえ』と笑っていたことを思い出す。今回は、塊を触ってから、自分で耳を触って、おばあちゃんの声色をまねてみる。


「同じだねぇ」


 なんだか、すぐそばにおばあちゃんがいるみたいで、くすぐったい気持ちになる。


 それを棒状に伸ばして、同じくらいの大きさになるよう手でちぎる。それから、両手を使ってころころと丸めて、真ん中を押してくぼませる。赤血球みたいって言っておばあちゃんに嫌な顔をされたっけ。それも楽しい思い出の一つ。


 今度は、それを沸騰したお湯の中に入れる。しばらくすると沈んていたお団子が水面に浮かび上がってくる。『浮かんできても慌ててあげちゃだめさ。せっかちはいいことないからねえ。のんびりお団子が踊っているのを眺めてから、すくいあげる。すくいあげたら、今度は急いで氷水にいれて、しゃきっとさせる。これが、美味しいお団子を作る秘訣だよ』

 

 鍋の中で踊っている白玉団子を見ていると、おばあちゃんの声が聞こえてくるような気がする。



 ゆであがった白玉粉を冷たい水の中にいれたところで、カランカランカランと、お店の扉のドアベルが音を立てた。「いらっしゃいませ」と反射的に声をかけて、扉を見る。


 ヘイルズ王子だ。


 手にはティアナの小さな花束を持っている。青い小さな花は星の形をしている。別名星の花。私がティアナが花の中で一番好きだって言ったことを覚えていたみたい。


「やあ……」と照れくさそうに笑うと、「どこにもいかないでくれたんだ。よかったぁ」とつぶやいた。


「昨日は、朝早くから訪ねてしまって、……すまなかった。プナイネンの森から帰る時、思わず、余計なことを言ってしまったから、……、その、……、また、どこかへ行ってしまうんじゃないかって、気が気じゃなかったんだ」


 (私の名前を呼んだことを言っているのね。ヘイルズ王子の様子からバレてないって思ってたから、名前を呼ばれたときはそりゃ、動転したわよ。でも、不思議とその時は逃げたいとは思わなかったなぁ。逃げたかったのは昨日のあさなんですけど?)


「一昨日は、私も気が動転していたんだ。あのまま、知らない人のふりをしていたら、シャルロットは冒険者アラン達のところに行きそうでさ。慌てて、シャルロットを引き留めようと思って、言ってしまったんだ」


 ヘイルズ王子が床を見ながら言う。


(そんな風には全然見えなかったわ。むしろ、脅されているような気がしたんだけど?)


「知らない人のふりをして、構わなかったのに……。むしろ、知り合いだっていう方が、みんなが不思議がって、理由を知りたくなるわ。」

「わかってる。だから、みんなの前では偽名でよんだだろ? しかし、本当はそんなことはしたくないんだ。せっかく、シャルロットに会えたのに……」


 片方の眉をピクリとさせて不貞腐れたような声を出す。片方の眉を動かすのは気に入らないときの癖だ。小さなころは、唇も尖らせていたけど、もうそんなことはしなくなったんだなって変なことを思ってしまった。


「なあ、シャルロット、私を助けに来てくれた冒険者アランとは仲がいいのか?」

「このお店の常連さんですよ。このお店のメニューであるあんまんの大ファンだそうです。ヴァルコイネンに来てできた年の離れた友人です」

「じゃあ、デューゼと名乗ったいけ好かない文官は?」

「最近、お店のこられた方です。あんまんの中にはいっているあんこがお気に入りで、他の新作メニューを作ってほしいって依頼されています。なので、今日は、試作品を作っているところです」


「……そうか。 ……そうなんだ…」とヘイルズ王子がほっとした顔をする。


「シャルロットが作ったあんこは美味しかったからな」と言うと、わざとらしく咳ばらいをして、自分が持っていた小さな花束を私の前に差し出した。


「そうだ。昨日は、あんバターパンケーキをありがとう。その礼だ」

「……ありがとうございます。覚えていてくださったんですね。私の好きな花」

「もちろんさ。…………、もう少し、ここにいてもいいか?」


 遠慮がちにヘイルズ王子が聞いた。いつもなら、横柄なことばかり言っているというのにだ。


「……、見ての通り、ここはお店なので、注文をしていただけたら、問題ありませんよ?」


 にっこりと、営業スマイルでヘイルズ王子を見る。ヘイルズ王子が動揺したように、一歩後ずさる。


「じゃあ、……、あんまんを一つ」

「このお店は、前金制になっております。あんまん一つ、銅貨、三枚になります」


ヘイルズ王子は自分のズボンのポケットから布袋を取り出すと、「じゃ、これで」と銅貨を三枚置いた。


「ありがとうございます! 席はご自由にお座りくださいませ!」


 

「はあぁ」と小さなため息をついて、ヘイルズ王子はキッチンカウンターに一番近い席に座った。



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