プナイネンの森は宝箱(1)
「こっちこっち」と呼ぶヴィー様の声を頼りに森の中を進む。
モップルルやバーチ、ノームといった落葉広葉樹の葉が黄色や茜色に色づいていて、すごく奇麗。同じ木でも、場所によって葉っぱの色が違う。こっちは濃い赤。日陰は少し暗い赤。まだ緑のままの葉まである。
こういう場所を歩いていると、季節があるってやっぱりいいなって思う。王都じゃ、こんなふうに紅葉とか見れないものね。
「ロッティ、こっちこっち!」
モップルルの木に混じってリンコウの木が見える。オレンジ色の実が陽の光を反射してきらきらと輝いている。足元には、ミンティアやコナの薬草が伸び放題に手を伸ばしている。
(もう、薬草もいっぱい、美味しそうな実もいっぱい、やっぱりこの森は、宝箱だわ!!)
「ミンティアも摘んでいきたいです!」と興奮気味にいうと、「ミンティアってどれ?」とジュードさんが聞く。私は、手の届くところにあった、ミンティアの葉をちぎって二人に見せる。
「ミンティアは葉っぱが先が尖っているこれです。それから、あそこの楕円形の葉っぱがコーラルディナ、それから、同じ楕円形の葉っぱでも互生しているルシアンは食べるとルシアンの毒で吐いてしまうから取らないでね! それから、アランさんの足元にある二回三出複葉のベルは肉料理に入れると美味しいから取っていきましょう。それから、お肉料理には、ベルのほかにも…………、あっ! あそこにコナの実が! もう、コナの実が取れる季節なんですね!! やっぱり、豊と実りの王の季節はすごい!! コナって葉っぱは王都でも出回っていて使っていましたが、実を見るのは初めてです。 感動です!! これはぜひ持って帰らなくては ――――」
「ま、ま、待って!! ロッティ!!」
ジュードさんが、コナの実を取りに走り出そうとした私の腕を掴む。とても困った顔をしている。
「どうしたんですか?」
「いや……、その……なにか別の……が入ってしまったみたいで……、」と少し歯切れ悪く言うと、「向こうでシルビアが手をふっているから、まず、あっちに行ってリンコウの実をとるところからするのはどうかな……?」とヴィー様がいる方を指差しした。
(もしかしなくても、私、暴走していたー??)
自分ひとり、はしゃいで大騒ぎしていたことに気づいた私は、恥ずかしさで顔に血が上っていく。左手で顔をあおいでみるけど、暑い。
(アランさんとジュードさん、絶対、ひいたよねー? やっぱ、ひいたよね? どうしよー)
私は二人に目を合わせられず、ヴィー様のいる方向に歩き出した。後ろを歩く二人の会話が耳に入ってくる。
「ロッティにも熱く語るものがあるんだな」
「だな。俺にはどの葉も葉としか見えん」
(やっぱりー)
「僕にもさっぱりだよ」とジュードさんが笑いながら言うと、「そうなのか?」と不思議そうに聞くアランさん。
「僕の専門は、刀鍛冶だよ? まあ、その延長で魔法具の研究もしているけど……」
「確かに、お前に魔剣のことを聞いたら、今のロッティ以上に熱くなるな。毎回、グラムを整備しているときのお前は、いつも暴走しまくりだからな」
アランさんが笑う。「悪いか!」と言いながら、ジュードさんも笑ったままだ。
「………、アランには、何かそういう熱くなれるものってないのか?」
「今は『あんまん』だな! な! ロッティ!!」
(? アランさんは『あんまん』推しなの? そこは、魔剣とか、英雄譚とか、じゃないの? そんな私に大声で同意を求められても……)
「はははっ! 本当にアランはあんまんが大好きなんだな」
「俺は今はあんまんを食うために稼いでいる!」
アランさんの言葉に、私も思わず吹き出してしまった。三人の笑い声が森じゅうに響き渡る。木々がざわざわっと揺れている。笑い声に驚いた鳥が飛び立ったのかもしれない。
「ははは。ほんと、『憤怒の赤熊』はあんまんに弱いのかあ。他の冒険者が聞いたらなんていうだろう。オーヴァレヌ伯が知ったら、あんまんをえさにこき使われそうだ。……でもどうして、そんなにあんまんがそんなに好きになったのかい?」とジュードさんが笑いながら聞いた。アランさんは一瞬固まった後、にやにやしながらジュードさんの肩に手を回した。
(? なに? 一瞬固まったよね? )
「おまえこそ、あんなに旨いのに、どうして食べない? 俺がいなくても、『ひつじぐも』には出入りしているというのに……もしかして?」と言いかけたアランさんの言葉を遮るように、「僕は甘いものが苦手なんだ」とジュードさんが答えた。
「ふううううん?」
「そ、それより、急ごう。シルビアがどっかにいってしまうかもしれないだろ? 自由気ままなつむじ風だから、……」
ジュードさんが、急ぎ足になって私を抜かして歩いていく。私もアランさんも慌てて速度をあげて、ヴィー様のところに歩いて行った。
一本のリンコウの下にヴィー様は立っていたけれど、足元には、食べた残したリンコウの実がいくつも落ちていた。
「この木のリンコウがいちばんおいしかったよ!!」
「そうか」
「じゃあ、この木のリンコウを木に分けてもらいましょう」
「うん!」
ジュードさんが器用に木に登り、高いところのリンコウをとる。それを下に落とすとアランさんがうまい具合に受け取る。そして、それを私が麻袋に詰める。ヴィー様はリンコウの木の周りを飛びながら、ジュードさんに、あっちにリンコウがあるとか、こっちにもあるとか、リンコウの場所を教えている。その度に、ジュードさんは枝から枝と移動して、リンコウをとる。あっというまに麻袋いっぱいになった。
「これだけあれば、十分だな。今年はヴァルコイネンのリンコウは不作だったから、みんな喜んで買うだろう」
アランさんが麻袋の紐を縛りながら言う。
「そんな売る気は――「えー!! ヴィーのジュースは?」」
ヴィー様が私の言葉を遮って、不満げに口を尖らせた。
「シルビアがヴァルコイネンのみんなに分けたら、きっと、みんな喜ぶと思うぞ?」
リンコウの木から降りてきたジュードさんがヴィー様の頭を撫ぜる。
「そっかぁ。いいよ。ヴィーの分以外はみんなに分けてあげる!」
尖っていた唇を引っ込めて、ヴィー様がにこりと笑う。
「ふふ。じゃあ、次はレビンを探しましょうか。ヴィー様、レビンを見ませんでしたか?」
「さっきね、リンコウの木の上から見たら、この先にレビンがいっぱいあったよ! でもレビン、みんな枯れているよ? いいの?」
「ええ。レビンは翠と風の若君の季節に花を咲かせて、豊と実りの王の季節に枯れて枯れた枝に種を残すと聞いています。だから、問題ないです。私も実際に見るのは初めてなので、ワクワクしています」
「ふーん。そうなんだ。じゃ、ロッティ、一緒に行こう!!」
私はとても幸せな気持ちで、ヴィー様のあとを追いかけて、レビンが一面にあるという場所にむかって走った。
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