第21話 夏休みの前に 前編

高校3年の、夏休み直前の事だった。

婚約破棄された。

突然だった。

でも、別にショックとかは無かった。

だって、一度も会ったことが無かったから。

逆に、とある理由から、うれしかったかも?

私が産まれたときには、もう決まっていたそうだから、許嫁とでも言えば良いのかな?

政略結婚?

うちは、旧家とはいえ、そんな大げさな家格ではなかったはずだから、単純に婚約しただけなのかもしれなかったけど。


物心ついた頃から、まだ見ぬ婚約者にふさわしくなれるように、努力した。

いつ会えるか判らない、どんな人かも解らないのにね。

自分自身を消して、品行方正、成績優秀、眉目秀麗、スポーツ万能、etc………


私にだって、理想はあった。

ドキドキするような触れ合いがあって、時にはぶつかり合って、ず〜っと一緒に歩んでいけるような人と、共に老いていければ、な〜んてね?


いつしか、私は、無表情になっていった。

だって、どんなに努力しても、誰も認めてくれないんだもの!

当たり前だって?

自分自身を守る為だったのだろうか?

感情を表すことも無くなっていった。

それから、『クールな氷の女王』とあだ名されるまでになり、私は、少しずつ、少しずつ、壊れていった。


その、壊れかけた私の日常に変化が訪れたのは、新高校3年の春、新学期始まりに偶然入った、喫茶店での出会いからだった。


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