第6話 ラダト大聖堂
大聖堂はそのほとんどが幕で覆われていた。工事の際に埃が辺りに飛ばないようにという配慮と、大工たちの安全も兼ねている。
「父さーん」
リリスは沢山の大工のなかから父の姿を見つけると大きく手を振った。すると遠くから父親とおぼしき男が歩み寄ってくる。
「持ってきたよ、コレ」
そう言ってリリスは先ほどの設計図を彼に渡した。
「おお、すまないな。どうだ、ラダトは。大きいだろう? ゆっくりしていくといい、少しくらいなら母さんも怒らないだろう。……こちらは?」
ひとしきり話した後、父親はカンナの方を向いた。
「カンナだよ。助けてもらったんだ」
俺も助けたけどな、とリリスは得意げに一言加える。
「それはそれは。息子がお世話になりました」
「いえ、偶然ですから」
頭を下げる父親に軽く会釈すると、カンナは大聖堂を見上げた。今は全貌を見ることができないが、この幕が取り外されればさぞや壮大な光景なのだろう。
「中って覗けるの?」
リリスが父親を見上げた。父はうなずく。
「ああ、もう中の改修は終えて残りは外側の改修だからな。よくお祈りしていくといい。帰り道も危険は多いぞ」
「うん。カンナ、行こうぜ」
じゃあねと父親に手を振ると、カンナの手を引いてリリスは駆け出す。父親はその光景を目を細めて眺めると、自分の仕事へと戻っていった。
「そんなに慌てなくてもいいだろう」
走り出したリリスにカンナは声をかける。
「うん、なんか少し胸騒ぎがしたんだ。父さんの雰囲気が薄いっていうか……うまく表現できないけど」
「薄い?」
「薄い……というか消えそう? ううん、なんかモヤモヤしてるけど、とにかく早めに作業を終わらせた方がいいと思うんだ」
リリスの言葉にカンナは押し黙る。
この少年はやはり只者ではないのかもしれない。何らかの虫の知らせはおそらく正しいものなのだろう。しかし経験が少ない分、うまく表現できずにいるのだ。
まあいいや、とつぶやくリリスと、カンナは聖堂の入口をくぐった。
高く開放された天井やいくつもの巨大な柱は圧巻だが、何より正面の祭壇に圧倒される。
(さすが大聖堂といったところか。精霊の数が違う)
祭壇の周りで踊るように飛んでいる精霊の姿がカンナには見える。彼らが居着くということは、この場所が偽物ではなく確かに信仰を集めていることを意味している。
時間帯も関係するのだろう、その聖堂の中には誰一人いなかった。祭壇に近寄る二人の足音だけがやけに大きく響く。
リリスは祭壇に祀られている神に一礼して祈りを捧げると、周囲を気にしながら祭壇のわきへと足を向けた。
おもむろに壁を叩きはじめる。
「どこかに扉があるはずなんだ」
聖堂は特別な空間であるからあからさまに判るような扉は付けないのだと以前父親が言っていた、とリリスはカンナに説明する。
先ほど父親に渡した設計図を頭の中に描きながら壁をさぐっていると、ガコン、という音が聖堂内に突如響いた。
「やっば……」
響き渡った音にリリスは肩をすくめて小さくなると、慌てて辺りを見回した。幸いにして外の工事の音にうまく隠れたらしく、リリスたちの行動に気がついて中に入ってくる者はいないようだ。
現れた隠し扉に手をかけると、その隙間からカンナが先に中へと入る。続けてリリスも足を踏み入れた。長い廊下がまっすぐと伸びている。
「覚えているか? 設計図」
カンナの問いかけに、リリスは無言のまま
目の前の廊下は祭壇のうしろでぐるりとコの字を描いている。この廊下の両脇にいくつもの小部屋が並び、物置だったり神官の詰め所だったりと様々な用途が当てられている。
目的の空間は祭壇の真裏。そしてその入口は今いる通路沿いと記憶している。当然ながら隠し扉にしてあるはずだ。
リリスは座り込んで壁を慎重にさぐる。
「あ、カンナ。ここ……」
リリスはカンナを手招きした。装飾された壁にかすかな隙間がそこにあった。
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