第6話 妻と再会
俺とバイトの阪木さんは、件のマンションに行った。俺は怖かった。妻がまだ平然とそこで生活してるんじゃなかという気がしたからだ。阪木さんは平然とインターホンを押していた。俺はカメラに映らないように死角に隠れる。阪木さんは宅急便のふりをしていた。すごく頼もしかった。
「お届け物です」
かなり堂に入っている。配達員に見えるような帽子と作業服のような物を着て来てくれていた。前は実際配達のバイトをしていたそうだ。
「はーい」
妻の声がした。
エントランスを開けてくれた。
俺はショックだった。妻がやはりそこにいたからだ。
離婚して出ていったんじゃないのか。
「前田冴子さんでよろしいですか?」
「はい」やはり妻だった。俺は横からドアをこじ開けて割って入った。
「お前・・・何で俺のマンションに」
俺を見た妻は驚いていた。
「あ、すいません」
妻がドアを閉めようとしたので、俺は足を挟んだ。
「おい!どういうことか説明してくれ!」
俺は叫んだ。8年間、俺を追い出して、優雅にマンション住まいしていたとは。
「俺たちは離婚したんじゃないのか?」
「い・・・いいえ・・・」
「どういうことだよ」
「あなたこそ・・・」
「こっちが聞きたいよ」
「私も知らない・・・」
「え?」
「あなたに、いなくなって欲しかったの。死んでくれたらいいなと思って。で、本当にそうしてもらったの」
俺は凍り付いた。
「俺は死んでない。でも、8年も前に記憶をなくしたって嘘だろ?」
「いいえ。あなたは8年前にいなくなったのよ」
「何でお前が知ってるんだよ?!」
「連れて行ってもらったの・・・闇社会の人に」
「え?」
「あなたとは籍を抜いてないけど。7年以上経ったから、そろそろ家庭裁判所に失踪宣告の申請しようかと思ってたのに・・・どうして帰ってきたの?」
失踪宣告ってのは、7年以上所在が分からない場合は、死亡とみなされる制度だ。あまりに長い間行方不明だと、相続などができない。あと少しで、俺のマンションは妻と子どもの物になるはずだったのか!俺は法律的に死人になるところだった!くそ!お前は悪魔だ!
俺は妻の髪をわしづかみにした。
「お前、男がいるんだろう?」
俺は掴みかかったが、阪木さんに止められた。
「まあ、落ち着いて」
「なんてこった!」
***
俺と阪木さんは一緒に警察に行った。彼がいてくれてありがたかった。正直言って、俺は動揺しすぎて、何が何だかわからなくなっていた。阪木さんはなぜか当たり前のように付き合ってくれる。何の見返りも求めずに?
そこで俺は、妻が俺を闇社会の組織に売って、俺名義のマンションで8年間暮らしていたことを伝えた。
「闇社会って何ですか?それを証明できるんですか?」
警察の人は笑っていた。やる気が全然感じられなかった。
「多分、精神的な病気なんじゃないですか?遁走ってよくありますよ」
俺は財布を見ても保険証を持っていなかった。
あるのは免許証だけ。住所は足立区。
俺は翌日、取り敢えず役所に相談に行った。
なぜか阪木さんが付いてきてくれた。彼とは夕方バイトで一緒だったし、一日中一緒だった。本当に暇なのか、気の毒だと思ってくれているのか、謎だったが。
次の日は、俺は病院に行った、双極性障害で解離性遁走というのがあると言われた。診断までにいろいろなテストを受けなくてはいけないそうだが、金がないから無駄足になってしまった。
俺は失われたパズルのピースを埋めたかった。
知り合いが誰もいないので、そのまま、コンビニのバイトを続けていた。
阪木さんはなぜか親身になって俺にいろいろ教えてくれた。
それから、常盤さんだ。あちらから電話を掛けて来て、俺の汚い狭いアパートまで会いに来てくれた。
そしてマリカ♡という女と、民生委員の女性。それ以外は誰の連絡先も知らなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます