第3話 現実

 俺は常盤さんと連絡先を交換した。俺は携帯を持っている。発信履歴を見てみた。


 知らない番号が表示されていた。

 まりか♡なんてのがある。その人に何回も掛けていた。


 その人に試しにかけてみる。取り敢えず女性は電話しやすい。

「はい、まりかだよ。前田さん?」

「う、うん」

「もしかして、そろそろ会いに来てくれる?」

 嫌がっている感じではない。

「ごめん・・・ちょっと聞きたいんだけど。俺のことどう思ってる?」

 俺は何を話していいかわからなかった。俺が今記憶喪失だから、どこの誰か教えてくれなんて言ったら切られてしまうかもしれない。

「え?そんなの急に言われても」

「いいんだよ。正直に言って」

「優しくて、いい人・・・かなぁ」

「そう。ありがとう・・・俺さ、びっくりするかもしれないけど、今、記憶喪失で・・・。俺と君ってどうやって出会ったのかな?」

「ああ・・・お客さんかな。私が店員で、前田さんがお客さん」

「あ、そういう関係。プライベートで会ったりは?」

「今のところないかなぁ・・・」

「お店ってどこにあるの?」

「ほんとに知らないの?」

「うん」

「大塚の〇〇〇っていうピンサロ」

 大塚、巣鴨は激安店が多いことで有名だ。その代わり、女の子のレベルは期待できない。いや、そんなことを言っては失礼だ。みんな一生懸命頑張ってるんだ。

「あ、そうなんだ。今度、行くよ。指名するから。ショートメールで店の名前もっと詳しく送ってくれない。ネットで調べて行くから」

「いいよ。せっかくだから同伴してよ・・・」


 俺は電話を切った。風俗に行けるくらいだから金はあるんだろうか。

 財布の中を見ると、キャッシュカードが入っている。あとは現金が1万円あった。

 どうやって生活してたんだろう・・・。


 俺は今朝自宅から出てきたはずだ。

 その家は3LDKの自己所有のマンションだ。

 どうやって生活してたんだろう・・・。

 不思議でたまらない。

 妻子が逃げてしまったのだったら、マンションなんて無駄な金がかかるだけだ。

 リストラされたんだったら、一番先に売るだろう。


 俺は免許証を見た。

 

 目の周りがクマだらけで、昔の面影は全くない。

 薬中みたいだった。

 住所は足立区になっていた。

 あれ・・・俺、江東区に住んでなかったっけ?

 家は木場だったと思うんだけど。


 俺は今朝足立区から来たのか・・・仕方ないから足立区の綾瀬の住所に帰った。朝起きた時は、ぼんやりしていて、何も考えていなかったが、3LDKの家から出て来たと思っていた。


 綾瀬のアパートは木造2階建てだった。外階段の〇〇〇ハイツという名前だった。俺もずいぶん落ちぶれたなと思った。ポケットには鍵が入っていて、回すとドアが開いた。

 

 嘘だろという感じだった。

 その瞬間まで、俺はまだ夢の中にいると思っていたのに!!

 自分を殴りたかった。


 俺は中に入って、散らかった部屋を見渡した。キッチンが廊下にあって、調理中は背面にバストイレがあるという一般的な間取りだ。こんなところに住んでたなんて・・・。

 台所に食器が置きっぱなし。コンロは電気のみ。

 俺はすぐに部屋を片付け始めた。何もかもが小さくて使いづらい。


 俺はもともとはきれい好きだったはずだ。

 それに酒も飲まなかったのに・・・いつからアル中になったんだろうか?

 まったく覚えていない。

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