第4話 勇者、ギルドに向かう
スルト新興国は2年前、魔王が討伐されたことによって生み出された国である。
というのも、魔王は
そのため、どうにか
国を急遽たちあげたため、法制度や貨幣など国の根幹を担うものはリワド王国を参考にした……というか、貨幣に至っては王国と同じ
ようやく、首都であるシスト市が見えてきた。
「意外と近かったな」
「ち、近くない……! 全然近くない……っ!」
「もう少し速く走れば早くついたんだけどな」
「ひぇっ」
この2日間で無数にやったやり取りを行いながら、減速。
歩きの速度まで落とすと、ソフィアを背中から下ろした。
「本当に検問を突破できるんだろうな」
俺はシスト市の入り口を見ながらそう尋ねる。
市の周辺はモンスターや盗賊などの襲撃からその身を護るために数メートルの市壁が存在しているのだ。
その中に入るためには、当然ながら検問を突破しなければ行けないのだが。
「突破できる可能性は高いとしか言ってないが」
「おい」
「駄目なら別の場所に行けば良いだけだ。まぁ、ここは私に任せろ」
こいつ、俺から降りた途端に急に元気になりやがったな。
しかし本人がどうにかできると言っているのであればそれを信じてみるのも良いだろう。そもそもソフィアがいなければ、打つ手も無かったことを考えれば、現状は恵まれてる方だと思うし。
そんなことを考えながら市壁に向かって歩いていると、入り口に立っている二人の衛兵が見えてきた。
「私は今から君のことを勇者じゃなく、ハザルと呼ぶ。確か本名がそうだろう」
「あ? あぁ、確かに俺はハザルだけどよ」
「後、私のことはソフィアと呼ぶな。ソフィーと呼べ」
「なんで?」
「エンデルワースの手が伸びたときに、私の名前から素性を特定される恐れがある。商売の邪魔をされたら敵わんからな」
「……分かったよ」
そう答えると、俺は自分の髪を触った。
そこには俺の自慢の黒髪はなく、老人のような白髪が見える。
道中の村で染料をもらい、それで染めたものだ。
「ほんとに髪を染めただけで通り抜けられるのか?」
「髪型と髪の色彩とが人に与える影響は大きい。だが、ここで何を言っても始まらん。とにかく検問通り抜けるぞ」
「はいはい」
これ以上ソフィアに何かを言っても始まらないので、俺は文句をつけることを諦めて検問へと足を運ぶと、俺たちが門をくぐり抜けようとした瞬間、衛兵二人がそれに待ったをかけた。
「新顔だな」
「名乗れ」
それに素早く反応したのがソフィア。
彼女はいつもの低音ではなく、高く……まるで、初めて都会に出てきた田舎娘のような顔立ちを作ると、
「はい! 私はソフィー! こっちは
とても高い声でそう言った。
……ん? 兄??
「兄妹か。あまりに似てないな」
「前の母は兄を産んで死んだと聞きました」
「なるほど。どこの出身だ?」
「エルト村です」
どこの村だよ。
と、俺は思ったのだがそれは衛兵たちも同じようで、
「聞いたことのない村だな」
「王国と新興国の境目にある小さな村です。村人は30人ほどで、村長の名前はミシルです。牛を飼っていて、時折その肉やミルクを近くの街まで売りに行ってます」
「ふむ」
すらすらと出てくる言葉の羅列に、思わずソフィアの出身地の話かと思ってしまったが……そんなわけがない。こいつはエンデルワース家の長女で、めちゃくちゃ金持ちのお嬢様だったんだ。
そんな村で生まれてるわけがない。
つまりは全部が作り話。
真っ赤な嘘というわけだ。
だが、そんなことなど1つも知らない衛兵はソフィアの言葉を信じたのか、それっきり村の話は終わってしまった。
「それで、一体何のようでここに?」
「ここに来れば仕事があると聞きました」
「働きに来たのか」
「はい。まずは兄と二人で冒険者をしようと」
「なるほど。ギルドの支部はこの周辺だと、ここにしか無いからな」
洪水のような嘘の数に俺が下を巻いていると、そんなことなど露ほども知らない衛兵たちが槍を下ろした。
「よし、通れ。くれぐれも犯罪を犯すなよ」
「ギルドはこの道をまっすぐ行けばたどり着く。迷うことはないはずだ」
「はい! ありがとうございます!」
借りてきた猫のように衛兵に頭を下げたソフィアは、俺の手を取って足早に検問をくぐり抜けた。
「と、こんな感じだ」
「お、おいおい。すげぇな」
「私が意味もなく君の背中で2日間も背負われているだけだと思っていたのか。ちゃんと考えていたんだよ」
ちょっとドヤ顔をするソフィア。
うぜぇな、こいつ。
「それだけ口が回るなら詐欺師だって出来るんじゃないか?」
「
「良けりゃやるのか?」
「人を騙すというのはどうあがいても
答えになってるんだか、なってないんだがよく分かんねぇ答えが返ってきたので俺はそれをスルーした。
「それで、さっき言ってた冒険者をやるってのは?」
「あれは本当だ。勇者である君の身体能力を活かして金を稼ぐには、冒険者が手っ取り早い」
「冒険者ってのは、あれか。
まだこの世界には
それを開拓し、人の土地にすることができれば一攫千金も夢じゃないと。
「それも確かに冒険者の仕事でもあるが、私たちがこれからやるのはもっと雑用のようなものだ。周囲のモンスターを狩って素材を手に入れ、周囲の治安を保つ」
「雑用じゃねぇか」
「需要があればそれも立派な仕事だ」
そう言いながら、ソフィアは街の中をまっすぐに進んでいく。
その隣を着いて歩くこと数分。すぐに冒険者ギルドなる建物が見えてきた。
「さて、本来だったら私はVIPで出迎えられるところなんだが……残念ながら、今はしがない冒険者志望の1人というわけだ。大人しく通常の手続きに甘んじよう」
「それを言うなら俺もVIP待遇だろ、本来は」
「まぁ、それもそうか。中に入ろう。良い
そう言いながら、俺たちはギルドの中に入る。
昼前だからか、既にギルドの中には数人の冒険者しかいなかった。
「登録を頼む。私と兄の二人分だ」
そういうと、まんまると太った受付嬢は黙って壁を指差した。
ソフィアと俺が全く同時にその方向を見ると、『冒険者登録1人銀貨50枚』と書かれた木の板がぶら下がっているではないか。
「冒険者に登録するのに銀貨50枚も必要なのか」
「なら、二人で銀貨100枚か? 困ったな」
俺が金を持っていないのは当然として、今はソフィアも金を持っていないのだ。
「金が払えなきゃ登録はできないよ」
そして、受付嬢は酒に焼けた声でそういって興味もなさそうに俺たちから視線を外した。
「これは一度撤退しよう」
「おいおい。どうするんだよ」
「私に考えがある」
「……?」
そう言って、俺たち
「なんだよ、考えって」
「金を稼ぐための金を手に入れるために金がいるというのもよくある話だ。だから、私たちはこれから働くぞ」
「冒険者は?」
「もちろん、銀貨100枚貯まればギルドに登録しよう。だが、それを稼ぐためには元手が0でもできる仕事をしなければならない」
「何をして?」
「瓶洗いだ」
「はい?」
「
「嘘だろ……?」
「いや、
「ん? 金貨10枚貯めるってやつか?」
「それだ。銀貨100枚と言わず、金貨10枚。一気に稼いでしまおうじゃないか!」
「……瓶洗いで?」
「まさか。それだけじゃない。私に良い考えがあるんだ」
そういってソフィアはいつものように笑みを浮かべた。
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