-Day.7-

機内で眠りにつく、いよいよ今日が

僕にとって、運命の日…そんな事

分かりきっている。

だからこそ、やるしかない。

そんな事を思いながら、到着を待つ。


────────────────────


飛行機に乗る事、10時間、

目的であったオーストラリアへと到着する。


「おい、白咲くん起きろ。着いたぞ」

そう言って白咲の体を揺さぶる。

「おはようございます」

明らかに乗り気でないのが伝わるが、

仕方ない…と少し強引に手を引きながら

時間まで観光する事にした。


様々な所を巡るが、相変わらず

元気の無い白咲

「なァ…白咲君。君は、僕とオーストラリアに

来た事があるだろう?正直に言ってくれ、

ここに来た事はあるかい?」

少し、探る様に質問をする黒井、

白咲は少し悩んだが、縦に頭を振る。


やっぱりか…そんな事を思いながら

溜息をつく。

「僕ァ…未来でどんなルートを進んだか

なんて知らない、だが、君は知っているから

こそ、終わりが何処か…そして、いつか…

それが分かっているからこそ、

楽しめない。違うかい?」


白咲はまた小さく頷く、ここまで大人しい

白咲を見ると調子が狂う。

そんな事を感じながら、話を続ける。

「昨日、僕が話そうとしていた事…

覚えているかい?」

そう問いかけると白咲はすかさず

「本当の夢…でしたよね?

結局、凪さんは何になりたかったんですか?」


元気の無い白咲に対し、黒井は決心を決め、

言葉を口にする。


「僕ァ…元々、小説家になりたかったんだ。

それも、誰かの支えになれる…

かけがえのない…そんな小説を書く、

小説家にね…」

意外な夢に戸惑う白咲に構わず、

話を続ける。


「でも、ある時壁に突き当たった。

それは自分に才能が無かった事、

どんなに努力し続けても、一度も賞を

取ることなんて出来なかった。

自分でも惨めに思えるくらい泣き叫んで

いたのを今でも覚えているよ」

そう言う黒井は今までにない、何処か悲しげな

表情で白咲を見つめる。白咲も思わず

「なら、どうして画家に…?」

そんな言葉を口から漏らす。


黒井は溜息をつくと、

「ある時、1枚の紙に自分の今の感情を

ぶつけるように、とにかく何かを

書いてみよう。そう思って、ただひたすら、

1枚の紙に殴り書く様に書いた。

それは小説なんかじゃない。

ただの落書き…だったはずが、

美術の先生から評価をされ、コンテストに

出してみないか?そう言われて、

ダメ元で応募してみた…そしたら…

生まれて初めて入賞した。

それからというもの、あっという間に

名前が広がり、業界では知らない人は居ない

…そんな人になっていた」


そう言って、溜息をつきながら

白咲を見つめる。

「そんな事があったんですね…それに、

私は一度も聞かされた事がありませんでした」


その答えを聞いた黒井は安心し、

いつもの様に言葉をかける。

「僕が、未来の事を知らないように、

君にも知らない事がある。僕ァ…ね。

小説家にはなれなかったが、これでも

シナリオを考えたり、予想するのが

得意なんだ。僕の推測が正しければ…」

深く呼吸をし、覚悟を決める。


「君は、僕の未来で彼女だった。

もし、そうであれば全ての辻褄が合う。

初めて会ったにも関わらず、黒井ではなく

″凪″と呼んでいたこと、

画家にアシスタントなんて必要ないにも

関わらず、突然現れた事…店での外食が

苦手である事を知っていた事…極めつけは、

僕の最後が君を庇って、亡くなるという事を

告げた事。君は知っているだろうが、

僕はお人好しじゃないんだ」


真剣な表情を浮かべる黒井、

白咲は涙を堪えながら、

「はい、その通りです…私は、黒井さんの

彼女です…騙してごめんなさい」

すんなりと認める白咲、黒井は安心した

表情を浮かべると、

「僕の推測が合っていて良かったよ」

そう言うと、観光の続きを行った。


────────────────────


観光を楽しんでいると後ろから

「あの!黒井さん!」

それはいつもの様に元気な白咲の声で、

思わず後ろを振り向く

「私の事、聞かなくていいんですか?」

そんな事を口にする。


「僕ァ…決まった未来なんてのに興味はない

、それに決まった世界なんてのは、

小説やアニメみたいな物でもない限り、

存在しないと思ってる。これでいいかい?」


意外な答えをする、黒井に戸惑いながらも、

白咲が言葉を続ける。

「私は黒井さんの彼女なんですよ?

だからこそ…」


何かを言おうとする白咲の言葉に割り込む様に

黒井が口を開く。

「興味はない。それと、君が話したい

訳では無いだろう?後、黒井と呼ぶのは

やめてくれ。違和感がある」

呆れた表情を浮かべながらも目的地へと

着実に足を進める。


────────────────────


日が暮れ、辺りが暗くなり始めた頃、

目的地へと到着する。

「ここは…?」

思わず口を開く白咲、それもそうだろう。

ここは落石なんて有り得ない。

塔の前なのだから。


「凪さん、目的地はここじゃない…

ですよね?だって、取材を受けたのは

崖で…そこで凪さんは…」

戸惑う白咲に黒井はため息をつくと、

「僕ァ…これでも有名な画家として、

活動してるんだ。本当の夢では無かったとは

いえ、僕ほどの人になれば場所はある程度

選べる。ただ、それだけの事だよ」

そう言って、白咲の方を見つめると跪き、

小さな箱を取り出す。


「凪さん、いきなりどうしたんですか?

お腹でも痛いとか…」

心配そうにする白咲、僕の覚悟は既に

決まっている。


「白咲…いや、杏くん。僕と結婚してくれ」

そう言って、笑みを浮かべる。

白咲は思わず

「未来で付き合っていたからって、

結婚なんて…」

白咲の不安を振りほどく様に、

黒井が口を開く


「僕ァ…未来なんてのは興味が無いし、

未来の自分の意思なんてのは尊重しない。

信じるのは今の自分、そして、目の前に居る

君だけだ。最も、未来の僕が君に対し、

婚約をしようとしたが、その際不幸にも

事故に巻き込まれてしまった。

なんて事は嫌でも伝わってきたさ。

僕ァ…ベタな言葉は言えないし、

そこまで器用ではない。けど、

今の君が好きだ」


そう言って、小さな箱の中から指輪を

取り出す。

「私でいいんですか…?」

不安そうな声が響く。

「あぁ、君じゃなきゃ、ダメなんだ。

それに、君は未来を知っていると

言ったが、僕の居る未来は見た事が

無いだろう?だから、一緒に新しく築こう」


黒井の真っ直ぐな瞳に、思わず

「はい…!こんな私で良ければ…」

その答えを聞いた黒井は白咲の指に

指輪をはめ込むと、

「君は笑顔の方が似合っている」

そう言って、取材を始めるのであった。

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