-Day.6-

何かミスをしてしまっただろうか。

白咲はそんな事を思い、寝付けないまま

朝を迎えると、黒井もいつもより早く

起床し、口を開いた。

「昨日はすまない。僕ァ…人混みが苦手

でね、少しばかり人に酔ってしまった…

いや、違うな…少し大切な話がある」


そう言って、椅子に座ると言葉を続ける。

「昨日、君という存在がどんな存在か…

1人考えていた。自分の事を死神だと名乗り、

急に現れ″死因″を告げる…

君が嘘をついていたとは思わない。

だからこそ僕が事故死する

というのを嘘だとは思ってない。が、

妙に引っかかるんだ。これまで話した事は

真実かもしれない。だが、秘密にしている事が

あるんじゃないか…と」


そんな事を口にし、白咲の目を見つめる。

焦りや、困惑、様々な感情が入り交じり

ながらも覚悟をしながら応える

「バレちゃいましたか…そうですね。

私は嘘を言ってません。でも、内緒に

してる事はあります。それは…

凪さん、貴方は私を庇って亡くなる。

という事です。失望…しましたか?」


今度は白咲が黒井の表情を伺う…が、

その目に映ったのはいつもの表情の

黒井の姿であった。

「いや、失望はしないさ、お陰様で

霧が晴れたよ。ありがとう」


そう言って白咲の頭を撫でる。

黒井は続けて、

「君は忘れてるだろうが、僕ァ…

出会ったあの日から1度も自己紹介は

していないし、今度は隠し事無しで

改めて自己紹介でもしないか?」

黒井は全てを見透かしているかのような

瞳で白咲を見つめる。白咲もまた仕方なく

それを了承するのであった。


「では、改めて…私は白咲死案…

死神なんかじゃなくて、ただの人間です…

凪さんがオーストラリアに行って、

私を庇って亡くなるという運命を

変えに来ました…以上です」

涙を浮かべながら自己紹介をする白咲、

そんな中、黒井は質問を行う。


「白咲死案くん…いや、君の本当の名前は

違う…そうじゃないかい?一般論に

過ぎないだろうが、死神でもない我が子に

″死″なんて縁起の悪い文字は使わないだろう…

となると本当の名前は″杏″、その名前は

昔の絵本か何かから貰ってきた…違うかい?」

優しく問いかける黒井に白咲はただ、

首を縦に振る。


それを見た黒井は安心した表情を浮かべると、

続く様に自己紹介を始める

「僕ァ…黒井凪、君がどれだけ知っているか

分からないが画家として活動してる。

本当の夢は…」


その先を言おうとするが、言葉が詰まって

先が出てこない。白咲が心配する姿を見て

「いや、すまない。これは近いうちに

必ず話す」

そう言って言葉を濁してしまうのであった。


「ところで…凪さん、オーストラリアに

行くか…決めましたか?」

震える体を必死に抑えようとしながら

声を出す白咲、黒井は決意を浮かべながら

「あぁ、勿論」

それは、白咲が今、最も聞きたくない言葉

であった。


「なら、せめて私をアトリエに置いていって

ください…そうしたらきっと、凪さんが

死ぬ事はありませんから…」

涙を流しながら話す白咲、黒井は首を

横に振り、決断をする。

「いや、僕ァ…君と一緒に向かう。

じゃないと、僕の目的が達せないし、

言っただろう?一緒に過ごす…と。

だから、来てもらう」


そう言って手を差し伸べる黒井に対し、

白咲は必死に言葉を口にする。

「どうして、私が居なきゃダメなんですか?

私は未来で凪さんを殺しているのと

同じ様な事をやってるんですよ!

私は…私は…ただ、貴方に生きて欲しい…

それだけなのに!!どうして分かって

くれないんですか…」


必死に訴えかける白咲に黒井は

「違う、君は僕を殺してなんていないし、

庇ったのは他でも無い、僕の意思だ。

そして、一緒に来て欲しいのも

間違いなく僕の意思だ。

それに、死にたいだなんて僕ァ…

一言も言ってない。

だから、どうか信じて一緒に来て欲しい」

そう言うと泣きながらも

白咲は縦に頷いた。


黒井の電話が鳴り響き、席を外す。

その間に白咲は支度を済ませておくように

促され、気が進まないまま支度を始めた。


────────────────────


電話を終え黒井は部屋に戻る、

白咲は自分の気持ちを落ち着かせる為、

少し外の空気を浴びる事にした。

何故、ここまで自分にこだわるのか?

そんなのは全くもって分からない。

けど、決心するしかない。


そう思っていた矢先、

「白咲くん、今日の夜にオーストラリアへ

向かう。それまでに少し見せたいものが

あるから、夜まで待ってくれ」


いつもより優しい声の黒井に、

何を行うか疑問に思いながら、2人で夜を

待つのであった。


────────────────────


日が暮れ始めた頃、黒井が手を引き、

何処かへ向かおうとする。

目的地も聞かず、そのまま歩き続けると

見覚えのある道が目に映る。

「あ、ここは…」

白咲が思わずそんな声を漏らす。

間違える訳がない、ここは初めて2人で

訪れたあの草原だからである。


「着いたぞ」

そんな声がし、視界が広がる。

果てしなく続く空、そして、

そこには無数の星が輝いているのが見えた。


目的の場所に到着すると、黒井は

空を見上げ、

「僕ァ…自然が好きでね。特に

この満天の星空…都会とは違う景色…

僕にとって、秘密のスポットさ」

そう笑ってみせると、白咲もまた、

黒井の横で空を眺める。


その間に言葉を交わした訳では無い。

だが、こうして2人で見つめるのも悪くない。

そう感じた白咲であった。

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