-Day.4-

目が覚め、辺りを見回すがソファに

白咲の姿がない事に気付く。

また、あの日の様に何処かへ向かったのか?

少し焦りながらも部屋を見て回ると、

白い部屋に1人、黙々と林檎を見つめる

白咲と、見慣れた画材の姿があった。


黒井は思わず大きな溜息を漏らし

「君は一体何をしているんだ、それに、

その画材は僕の物だろう?僕ァ…

君が絵を描く行為は否定しないが、

流石に人の物を勝手に使うのはどうかと

思うんだが?」

問い質す黒井に対し、白咲は焦ったように

「ち、違います!!自分の部屋を

見てください!!」

白咲は1度部屋に戻る様に促し、

黒井も呆れながらも部屋に戻る。

するとそこには昨日買った物がそのまま、

机に乗っている事に気付く。


すかさず白咲の居た部屋に戻ると、

少し不満そうな顔をした白咲が

「本当は秘密にしてサプライズするつもり

だったんですけど、凪さんにそんな事を

言われるとは心外です!」

と、明らかに怒った様子をしていたので

「いや、すまない…まさか君が同じ物を

買うなんて思っていなくて…」

そう詫びると調子に乗った白咲が

「それなら、今日は1日私に絵を教えて

ください!!」

黒井に対しドヤ顔で告げたのであった。


黒井は小さな溜息を零し、

まずは自分の作品を見せる様に告げると、

白咲は真剣な表情で筆を動かす。

ぎこちない手先、色の使い方、

何をどう使えば良いのかすら分からない姿は、

無駄が多く見受けられた。


「黒井さん、出来ましたよ!!これが、

今の私の作品です!!凪さんには

劣ると思いますが、頑張りました!!」

そう言って差し出して来たのは青い小鳥と

リンゴ絵。お世辞にも上手とは言えない絵で

あったが、とても温もりを感じる。

そんな絵であった。


「はぁ…僕ァ…こんな君に絵を教えないと

いけないのか…粗が目立ち過ぎているし、

基礎がなっていない。けど、君の真剣さと

この絵の温もりに免じて教えはしよう」

そう言って自身の部屋から使い慣れた画材を

持ってくると白咲の隣に椅子を並べた。


「ところで、急に絵を描きたいだなんて、

どうしたんだ?」

黒井がそう問うと白咲はすかさず、

昨日のあった出来事を話始めた。


────────────────────


「あ、あの!!実は1つ相談がありまして…」

咄嗟に桜庭に向かって声に出す。

「ん?白咲ちゃんどうかした?

もしかして、スキンシップは嫌いだった?」

そう不安そうに見つめる桜庭に対し、

すかさず言葉を続ける。


「実は凪さんともっと仲良くなりたくて…

2人の話を聞いていたら、私はこれまで

知った気になっていただけで、本当は

何も知らないんだな…って、改めて

思ったんです。だから、もし、良かったら

仲良くなれる方法を教えてください!」

それは紛れもない心の底から

出た本音であった。


桜庭もまた、先程の優しい表情から少し

真剣な表情をしながら

「あはは、それは難しい話だね。

第一、さっきも言ったけれど黒井くんは

これまで友人と呼べる人が

居た事が無かったし、

黒井くんにとっても、

きっと、白咲ちゃんが初めてなんだよね。

だから私の方こそ教えて欲しい位だよ」

白咲に対しそう笑って見せ、

言葉を続ける。


「でも…黒井くんの好きな物を体験

してみたら何か分かる事が

あるんじゃないかな?」

きっとコレだ!そう思った私はすかさず

「なら!凪くんがいつも使っている画材を

ください!!」

そう言って、帰り際に購入して

いたのであった。


────────────────────


「って、事が昨日ありまして…」

恥ずかしそうにする白咲、少し呆れた表情を

浮かべる黒井。

「はぁ…僕ァ…一体どれだけ過大評価されて

いるんだ…」

想像とは違う言葉に動揺しながら思わず、

白咲が声を漏らす。


「凪さん…?過大評価なんて…」

そんな事を言うが、黒井は

「いや、君達は僕を過大評価しているよ。

最も、それは君たちに限らず世間一般も

だが…僕ァ…孤高なんかでもなければ、

天才でもない。ただの凡人に過ぎないんだ。

そして、前に進む度に周りの人達は離れて

いって…気付いたら1人になって…

笑い方の1つすら忘れてしまった…

それだけに過ぎないのさ」

そう言って不器用に笑って見せた。


「違います!凪さんは確かに棘があると

思いますし、少し傷付けられる事も

あります…でも!それ以上にこんな私に

対して優しく接してくれました…

それは誰がなんと言おうと嘘なんかじゃ

ないんです!それに、今は1人じゃないです!

私が傍に居ます!天才かなんて

関係ない、私は″黒井凪″という

1人の人が好きなんです!!」

真っ直ぐ黒井を見つめるその瞳は

嘘偽りの無い、白咲の本音であった。


「いや、すまない。僕ァ…少しばかり疲れてた

みたいだ。君は僕と仲良くなりたい…

ただ、それだけだったね。それじゃあ改めて、

今から絵を教えよう。まずは何を描きたい?」

それなら…と思い白咲は、黒井に何を

描きたいか伝える。


最初こそ色の組み合わせや道具の使い方、

それすら分からなかった白咲が少しずつ

絵が上手くなる事を実感しながら、黒井は

1つ1つ、出来る限り丁寧に教えていく。


「凪さん!こんな感じでどうですか?」

そこにあったのは、空と虹、緑の草原に

白いハトが2羽…見違える程良く描かれていた。


「あぁ、最初に比べればかなり描ける様に

なったな。まだ、完璧とは言えないけど、

間違いなく上達してる。その気があるなら

いつでも教えるから、聞いてくれ」

そう言うと黒井は自分の部屋へ戻ろうとし、

白咲もまた片付けようとする中、

黒井が急に振り向き


「今日はありがとう、君のおかげで、

僕ァ…改めて、自分に足りないものと、

描きたい物を見つけることが出来た。

また明日」

そう言って黒井は部屋を後にした。

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