-Day.3-

目が覚め、辺りを見回す。

そこにはいつもであれば絵を描いている

はずの黒井が何処かへ出かける

支度をしている事に気付く。

「こんな時間に珍しいですね…

何処か行くんですか?」


そんな言葉を口にすると彼は

「僕ァ…今から画材を買いに行く、

仮にもアシスタントを名乗っているなら、

君も来るだろう?」

こちらに振り返りながらそう問いかける。

私も咄嗟に返事をすると、支度を済ませ

アトリエを後にした。


────────────────────


「凪さん!目的地はまだなんですか?」

思わず声に出してしまう。

それもそのはず、アトリエの近くの

綺麗な街ではなく、そこからはずれた

何処かへ彼が向かっていたからである。

「もうすぐだ」

そんなよくある返事に疑心暗鬼に

なりながらも、ただひたすら後を

ついていくにした。


しばらく歩き続けると、そこには年季の入った

お店が1件立っているのを目の当たりにする。

「もしかして、このお店が目的地ですか…?」

不安がる私に対し彼は頭を縦に振る、

その姿を見て自分も店に入る事にする。


「あら、黒井くんいらっしゃい!

そちらは彼女さん?初めまして!」

1人の女性は黒井と私に目を向ける。

「勘弁してくれ…コイツは彼女なんか

じゃなくて、自称僕のアシスタントだ」

黒井は呆れた表情を浮かべる。


「は、初めまして!凪さんのアシスタント

として同居している白咲死案です!」

そんな自己紹介をすると女性は笑い、

「画家のアシスタントねぇ…黒井くんは

やっぱり変わってるわね♪

今日もいつもので良いかしら?」

女性は慣れた手つきで後ろから画材を

幾つか出し、黒井の前に並べる。

「あぁ」

そう一言、言うと黒井もまた財布を取り出す。


「ところで、お2人はどんな関係なんですか?」

ふと疑問に思った事が口から零れ落ちる。

すると、黒井が溜息をつき、

女性が話を始める。

「私は桜庭 四季…これでも、画家として

活動していたのよ♪で、黒井くんは

元教え子って感じかしら?最も、

私の方が若いけどね♪」

すかさず、私も言葉を出そうとするが、

声が出ない。


そんな事をしている間に黒井が

いつも見せない様な笑顔で

「昔話はやめてくれ、恥ずかしいだろう?

それに、僕ァ…まだ、君の作品は

廃れてないと思うのだから自信をもってくれ」

そう言って桜庭さんの目を見つめていた。


何も出来ず2人の会話を

聞いていると、私の知らない昔話や

色々な話を耳にしたが、記憶に残ってない。

ただ、1つだけ言えるのは嫉妬に似た何かを

感じていて、ただ、その2人の空間が

羨ましく、そして眩しく見えた事位である。


少し経って、話を済ませると黒井はアトリエに

帰る、そう言って店を後にする。

何も考えず、私も後を追おうとするが、

「ちょっと待って!」

そう桜庭から呼び止められる。

「なんですか?…」

少しでも早く帰りたい私はそう応えるが、

そんな事お構い無しに桜庭は

言葉を続け始める。


「黒井くん…彼は私にも無愛想だったのよ?

それに、あの子はいつも孤高であり続けている

からこそ、友人も居なかったし、いつも、

心のどこかが空っぽに見えた…でも、

今の黒井くんはそれが感じられないし、

笑顔だって今日初めて見たわ…だから…」

そう言って私の事を抱き締め耳元で、

「黒井くんの事をよろしくね、可愛い

アシスタントさん♪」

と、呟き元いた場所へ戻ろうとする桜庭に

対し、私は少し心を開いてみることにした。


店から出るとそこには黒井が立っており、

「遅いぞ。って、何か買ったのか?」

そう言って待ちくたびれる黒井に、

白咲はいつもの様に、

「内緒です♪」

そう笑って、アトリエへと帰るのであった。

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