-Day.2-
目が覚めると黒井がソファを見渡す。
が、白咲の姿が何処にも見当たらない。
念の為、アトリエ内を隅から隅まで確認するが
やはり居なかった。
黒井は深く溜息をつき、
「逃げたな…」
そう言葉を漏らし、椅子に腰を下ろす、
朝食を済ませると画材を用意した。
いつもの朝、そう言ってしまえばそうなのだが、
それと同時に白咲と一緒に住み始めてそれ程
時間が経ってないにも関わらず、
この時間がただひたすら長いように感じた。
自身の心臓や呼吸の音、振り子時計の
秒針の音、外から聴こえる風の音、
アトリエも昨日より広く、
そして、何も無い空間の様にも感じ
改めて白咲の影響力を理解する。
「昨日は…流石に言い過ぎたか」
そう反省すると再び手を動かす、
一分、一秒が昨日よりも遅く感じながらも、
白咲の帰りを待ち続けた。
時刻は昼過ぎ、日が落ち始め、辺りが
暗くなり始めた頃。チャイムが鳴る。
「すみませ〜ん!開けてくださ〜い!」
聞き覚えのある声に思わず手を止め、
ドアを開く、そこには大きな荷物を抱え
立ち止まっている白咲の姿があった。
白咲が荷物を下ろすと黒井は
「何処に行ってたんだ?」
焦る黒井に白咲は大笑いする。
「凪さん、机の上に置いた手紙
読んでないんですか?ちゃんと書いて、
置いておきましたよ」
その言葉を聞くとすぐさま、机の上を見る。
確かに見慣れない手紙が一通、
「少し買い物に行ってきます 白咲」
と書かれていた。手紙を見た黒井に対し、
白咲は少しからかう様に
「凪さんもそんな所あるんですね」
そう楽しげに応えた。黒井もまた
「てっきり、昨日言い過ぎたか…と」
言葉を口から漏らす。
少し、白咲は少し真剣に
「自覚があるなら、少しは自重してください、
最も、心配してくれるだけでも
嬉しいですけど」
そう言うと黒井に少し笑ってみせた。
「結局何を買ってきたんだい?」
黒井は白咲に問いかける。
白咲は笑顔で
「昨日のお返しです」
自慢げに買ってきた物を取り出す白咲、
そして、黒井が中身を確認する。
牛乳や鶏肉、玉ねぎ等が入っており、
白咲がシチューを作るのだと理解した。
「キッチン借りますね」
ご機嫌な様子で白咲はキッチンに立ち調理を
始める。何かを手伝おうとしても、
「今回は私に任せてください!」
の一点張りで結局黒井は座って待つ事にする。
不思議と安心してしまった事に複雑な
感情を抱きながらも、黒井はソファで絵を描き
時間を潰す事にした。
小一時間が経った頃
白咲の出来たという声で
何かが完成したのだと思いテーブルへ向かうと
そこにはシチューとパン、サラダが
置かれており、何処か懐かしさを感じた。
「いただきます」
一体、こうして誰かと食卓を囲んだのは
何時ぶりだろうか。
そんな事を思いながら手を進めると、
白咲が食事に手を付けずこちらを
見て居ることに気付き、黒井が口を開く。
「白咲くん、作ってくれてありがとう、
とても美味しいよ」
それは自然と出た言葉であったが、
白咲はとても満足そうに、
「私だって凪さんに負けないくらい
料理が得意なんですから!」
そう言って、白咲も食事を始めるのであった。
────────────────────
黒井は食事を済ませ、食器を片付けると、
ベットに横たわる。緊張が一気に解れた様な
感覚と睡魔が押し寄せ、まぶたが重くなるのを
感じた。
「名前…初めて呼んでもらったな…」
そんな、白咲の声が聞こえた様な気がしたが
そのまま眠りについた。
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