第2話 彼女 400文字

 四両目の車両の端、いつも私が座る席に誰かが座っていた。指定席でもないのだから当然といえば当然なのだけど、何となく落ち着かない気持ちで、その隣の席に腰を下ろす。


 読みかけの本を開いて読み始めると、隣の彼の制服に目が行く。同じ学校の生徒みたい。ポケットに入れた手に血管が浮いているのが見える。同級生の男の子の手とずいぶん違うんだなあ、とどうでもいいことを考えた。


 何ページか読み進み、少し人の増えた車内に、お爺さんが乗ってくるのが見えた。本を閉じて声を掛けようとした時、隣の彼が立ち上がってお爺さんに席を譲った。私は驚いてほんの一瞬だけその彼を見上げたけど、なんとなく恥ずかしくて、どんな顔なのかは全然わからなかった。


 本に視線を戻してしばらく眺めていても、結局それから一ページも進まなくて、ただ斜め前に立つ彼の手を視界の端でずっと見ていた。

 次の朝、電車の扉が開くといつもの席にまた誰かが座っているのが見えた。


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未必の恋 夜行性 @gixxer99

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