第2話 彼女 400文字
四両目の車両の端、いつも私が座る席に誰かが座っていた。指定席でもないのだから当然といえば当然なのだけど、何となく落ち着かない気持ちで、その隣の席に腰を下ろす。
読みかけの本を開いて読み始めると、隣の彼の制服に目が行く。同じ学校の生徒みたい。ポケットに入れた手に血管が浮いているのが見える。同級生の男の子の手とずいぶん違うんだなあ、とどうでもいいことを考えた。
何ページか読み進み、少し人の増えた車内に、お爺さんが乗ってくるのが見えた。本を閉じて声を掛けようとした時、隣の彼が立ち上がってお爺さんに席を譲った。私は驚いてほんの一瞬だけその彼を見上げたけど、なんとなく恥ずかしくて、どんな顔なのかは全然わからなかった。
本に視線を戻してしばらく眺めていても、結局それから一ページも進まなくて、ただ斜め前に立つ彼の手を視界の端でずっと見ていた。
次の朝、電車の扉が開くといつもの席にまた誰かが座っているのが見えた。
未必の恋 夜行性 @gixxer99
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます