未必の恋

夜行性

第1話 彼 400文字

 四回目。これでもう四回目だ。朝の電車であいつが席を譲るのを初めて見たのは先週の水曜日。他の車両に行けばまだ空いてる席だってあるし第一あいつが座ってたのは優先席でもない。みんなスマホを眺めるか寝てるか、もしくは寝たふりをしてる中、子供連れの女に席を譲った。


 俺は薄く目を開けて横目にそれを見ながら真面目な奴っているんだな、とぼんやり考えた。


 それから毎日あいつは同じ席に座り、ほぼ毎日席を譲っていた。制服を見れば俺と同じ学校だが、後輩だろうか。


 次の日、俺はあいつの席に座った。二駅目であいつが乗ってきて、俺をちらりと見ると、隣に腰を下ろした。そのままいくつか駅を過ぎ、少し混み始めた車内に爺さんが乗ってきた。


 隣の席であいつが動く気配がして、俺は立ち上がり、爺さんに席を譲った。吊り革を掴んであいつを見下ろすと、俯いた前髪の下に長いまつ毛が見えた。電車を降りる時、俺はイヤホンの音楽が止まってるのに気付いた。

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