第26話 キングさんと僕③(終)

 次の日、僕たちは洞窟の出口である大穴の真下に来ていた。


「なあ、こんなところに来て何するんだ? もうお別れも済んだし、いつまでもいたら決心が緩んじゃいそうだ」


 キングさんは崖を上って外の世界に出るつもりだったようだ。しかしよほどの経験者でないと、この崖を上るのは危険だ。


「はい、ですからここから外に飛んでいこうと思いまして、ここが丁度よい場所なのですよ」


 そういうとロボさんは異次元ポッケからジェットパックを取り出した。


 たしかに隅っこにいたら壁にぶつかる恐れがあるしここなら安心かも。


 そうして、ロボさんはもう一つポケットから服を取り出した。防火性ボディースーツだ、たしかあれを着ないと大変なことになるんだった。


 僕は以前、飛行実験したときのことを思い出した。でもたしか一着しかなかったような。



「さあ、キングさん服を脱いでこれに着替えてください」


 そう言うや否や、ロボさんは自分の服を勢いよく脱ぎだしたのだ。


「ね、姉ちゃん何やってんだよ!」


「さあ、何もたもたしてるんですか、もしかして着方が分からないのですか? では私がお手伝いしましょう」


 こうして、キングさんは裸のロボさんに服を脱がされると、ボディースーツに着替えさせられた。


「な! お、俺は! 何が起こってるんだ!」


 目の前で起こったことが信じられないのかキングさんは混乱していた。

 

 ロボさんは裸で平気かと言われると問題はない。彼女の素体は、ミスリル繊維魔法粘土複合材料で出来ているため、魔法耐性は高いのだ。  


「さあ、準備はいいですね。なにそわそわしてるんですか、ほら目を合わせてください。

 飛行中は振り落とされないように私の身体をしっかり抱きしめてくださいね」


「お、おう…………(俺はどうにかなっちゃいそうだ)」


 こうして、キングさんはものすごい爆音と共に洞窟の出口まで打ち上げられ、外の世界へと旅立ったのだった。




「お帰りなさい」


 ロボさんはキングさんを届けた後、無事に戻ってきた。裸で……。


「ねえ、ロボさん、さすがに人前で裸になるのはよくないと思うんだ」


 いくらロボットとは言えその辺は気を使うべきだと言った。


「そうでしょうか、ああ、それで、お別れの時に嫁に来いと言われてしまったのでしょうか。

 次があったら気を付けるとしましょう」


 まったく、僕も鈍感だと思うけどロボさんも大概だと思ったのでした。

 


 ◆◆◆◆

 ――数年が経ち


 ゴブリン族はかつて人間により奪われた領土をすべて奪還するまでに勢力を拡大していた。  


 始まりは突如現れた王族の末裔と名乗るゴブリンの青年が現れてからである。


 彼は散り散りになっていた氏族をまとめ上げ、人間たちに立ち向かっていき連戦連勝を重ねていった。


「偉大な王よ、これでわが一族の失われた土地は全て奪還することが出来ました」


「うむ、我が一族の悲願がついにかなったな」


「はい、全て偉大な王のおかげです。うん? おい! そこのものそれはなんだ?」


 王の側近のゴブリンは目の前で戦利品を運んでいる者を呼び止めた。


 それは人間の死体のようなものであったがよく見ると、得体のしれない人形のようなものであった。 


「はい、偉大なる王の御前に拝謁いたします」


 ゴブリン達は幹部の者はおろか下級士官クラスでも礼儀が行き届いていた。王の成果のたまものであった。


 彼は少年時代に出会った女神から高い知識を授かっており部下の教育には熱心だったのだ。



「これは、人間たちの使う魔導人形というやつです。デコイとして使われていたので我らもなにか有効活用できるかと思いまして」


「ふむ、なるほどな人間どもの魔法も侮れませんな。ん? 王よどうかされましたか?」


「……いや、何でもない、そうだな、我に考えがある。その魔導人形を綺麗にしておくのだ。我は少し席を外す。

 それと、しばらく出かけるので後は任せた」


「王よ、急にどちらに?」


「なに、人間の商人と取引をしてくるだけだ。安心しろ衣服を調達するだけだ」


 王は、そういうとその場を立ち去った。



 ――人間の商人の一部は儲かるならば異種族とも取引をする。当然この地域は下等と言われたゴブリンではなく。

 高度な知性を持った王が治めているため人間の商人は多いのだった。



 しばらくすると、ゴブリン族の首都には戦勝記念として魔導人形を改造した女神像が設置された。


 それは彼が少年時代にお世話になったというメイド服をきた女神を模したものであった。


 それからは彼の王国以外でもゴブリン族共通の勝利のシンボルとして氏族の間に広まるのに時間はかからなかった。

 


 ――ある没落貴族の独白――



 俺の生まれは貧乏貴族の三男だった。


 当然家督を継げるわけでもなく、良家の婿も絶望的だ。俺は顔がよくないのだ。


 それでも一応は貴族ということでなんとか騎士にはなれたが、配属先は最前線であり明日も死ぬかもしれぬ状況だった。


 よりによって、勢力を増したゴブリン族によって占拠された要塞の奪還戦に参加しないといけないなんて、運がないと己の人生を呪ったものだ。


 だが俺は必死に戦った。そしてなんとか勝利することができた。もっとも、ここは奴らにとっても戦略的に重要ではなかったのか、すでに本隊は撤退した後だった。


 また命拾いしたなと、要塞を巡回していると、奇妙な像を見つけた。


 どうやらただの魔導人形のようだった。ゴブリンが何のためにと不思議に思ったが違和感はそれだけではない。


 見た目は人間の女の顔、正確には長い髪だったためそう思っただけだ、しかもメイド服を着ているじゃないか。


 どういうことだ、ゴブリンの呪術か何かか?


 ……だがどうだ、地べたに寝そべって泥だらけになっているメイドの人形を見て俺は閃いた。



 ――これは金になる。


 俺は、全財産つぎ込んで魔導人形を入手すると。そこに長い髪の毛を付け、メイド服を着せたものを友人の貴族に見せた。


 彼は「いくらだ?」と俺に聞いてきた。


 それから俺の人生は変わった。商品も次々とバージョンアップさせていった。


 金だけはある非モテの貴族をターゲットにしたフルスペックなものも作ったりした。

 


 しかし、これがいけなかった。ヒットしすぎたのだ。社会問題になっているとは気づかずに俺は商売を続けた。


 やりすぎた結果、新たに制定された法律によって俺は捕まった。



 だが後悔はない、俺の発明は裏社会で未来永劫発展するのだ。俺は歴史に残る発明品を作ったのだ。


 かつて最高の発明家と言われた伝説の勇者様と同じくらいの功績じゃないか。いやさすがに驕りすぎか。



 ◆◆◆



「ほら、お姉さま、これで最後よ、でもほんとに動けなくなるからびっくりしちゃった」


 ロボさんは幼女に支えられながらなんとか着替えを終えた。


「さすがに、太陽の魔石をフルスキャンしたのは堪えましたね。さて着替えも終わったことですし。

 約束通りあなたにはお礼をしないと、どんなメイド服が着たいのかしら?」


「ほんとに? そうね、それでは遠慮なく――――」



「――さすがにそれはちょっと……メイド服はアダルトグッズではありませんよ、私を作ったマスターもそういうものは否定していましたし。

 いったいどこからその知識を得たのかしら」


「ちょっと言っただけよ。それにそういうのは貴族のたしなみだって男子の間で流行ってたんだから、きっと先生だって……」

 

 途中まで喋ってから彼女は真っ赤になり黙り込んでしまった。



「まったく、だれがそんなの広めたのやら。外の世界のメイドは理解不能だわ」

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