第25話 キングさんと僕②
――エルフの森ができるずっと前のこと
「マスター、子供が巨大な鳥に捕まってこちらに降りてきています。どうしますか?」
僕はそう言われて上を見上げた。捕まっているのはゴブリンの子供のようだった。
当然ゴブリンを見たのは初めてだったけど、特徴は異世界さんから聞いていたので一目でわかった。
このままだとあの鳥に食べられてしまう。僕はロボさんに目配せすると。
ロボさんは拳銃を取り出し、2、3発、鳥の頭をかすめるように撃った。
驚いた鳥はゴブリンの子供を放すをどこかへ飛んで行った。
落ちてきたゴブリンの子供をロボさんは無事キャッチした。
彼は気を失っているようで、しばらくはロボさんが膝枕をして様子を見ていた。
やがて彼は目を覚ますと、ぼんやりとしながら呟いた。
「ここは?……人間の女?」
「いいえ、私は介護用のメイドロボットですのでご安心を」
そうして彼は自分の状況を理解したのか勢いよく飛びのいた。
「な! お、女、こんなことして、さては王族である俺をハニートラップにかけるつもりだな?」
「おや、自分が何をおっしゃってるのか理解しているのですか? 随分とおませさんなゴブリンですね」
ゴブリンさんは真っ赤になっていた。
「こほん、俺はただのゴブリンじゃない、王の末裔だ、つまり俺様のことはキングと呼ぶといい」
「あらあら、分かりました、では幼いキングさんはいったいどうしてこんなところまで来たのですか?」
「そ、それは…………、うわ~ん!」
ゴブリンさん、いやキングさんは泣き出してしまった。ロボさんは姿勢を低くしながら目線を合わせて彼の涙を拭いていた。
どうやらキングさんの一族は人間に襲われて全滅してしまったそうだ。かろうじで逃げ延びた彼は、この近くで巨大な鳥に捕まってここまで運ばれてきたのだと。
そうして泣き疲れたのか深い眠りについた後。
「マスター、どうしましょうか?」
「とりあえず、どこも行く当てがないようだし、せめて自分で何とか出来るまではここで面倒見ようか」
こうして、僕とロボさんは幼いゴブリン、キングさんとの生活が始まりました。
キングさんは最初は僕たちを警戒していたようだけど。僕たちのことを話すと誤解が解けたのかすっかり打ち解けました。
「なあ、姉ちゃん、俺を助けたときに使った凄い音がする道具、あれって何なんだ?」
「これのことですか? これは拳銃のようなものです。小さい金属を飛ばす魔法の道具ですよ」
「ば、ばか、男の前でスカートをまくるな!」
ロボさんは相変わらずスカートの中にしまっていたらしい。まあ異世界さんがそう命令したからしょうがないけど。
キングさんの反応からするにどうも間違ってるんじゃないかなと思うんだよな。
「お、俺は高貴なゴブリンだからなんとかなってるが、普通のゴブリンの前でそんなことしたら襲われるんだぞ!」
「あら、おませさんですね、あなたは私を襲わないんですか?」
「こ、この、子供だと思って馬鹿にしてるだろ! 俺が大人になったら――」
「大人になったら? ならはやく大人になれるといいですね」
「このー、覚えとけよー」
すっかり仲良しになったみたいだ。
でもキングさんにはいずれ故郷に帰り、王として一族の復興をするという使命がある。
だから、僕たちはできるだけ彼を支援した。
戦い方を教えるのは僕達では無理かなと思ってたら、ロボさんはなぜか得意だった。
戦闘用じゃないって思ってたのになんで得意なんだろうと聞いてみると。
どうやら専守防衛らしい。詳しくわからないけど、防衛のための必要最低限の戦闘力はあるのだといった。
それってつまり戦闘ができるってことなんじゃ、うーん異世界さんの言葉はたまに意味不明なものがあったけど、これは特に酷い解釈だとおもった。
でもおかげてキングさんはみるみる強くなっていった。
僕はそうだな、ゴブリンさんと一緒に穴掘りをした。穴掘りは大事だと教えたのだ。
特に人間に隠れて生きるにはダンジョンが絶対必要なのだから。と僕は自分にもキングさんにも言い聞かせた。
「兄ちゃんの言ってることは正しいよ。俺のじいさんはかつて魔王様の幹部でダンジョンに住んでたんだ。勇者以外だれも侵入できなかったって聞いたことがある。
だから自信持ってよ。それに穴掘りは体力つくし農業にも応用できるだろ?」
むう、キングさんに励まされてしまった。
そうして時は流れ、キングさんは立派な青年になった。
まだ幼さは残るが身長はロボさんよりも若干小柄かなといったくらいまで成長した。
ゴブリンの大人はこれくらいが平均なのだ、だからもう子ども扱いするなよとも言ってた。
いよいよ旅立ちの前夜。キングさんは僕に話があるといって少し離れた場所に移動した。
「兄ちゃんは姉ちゃんのこと好きなのか?」
「うん、好きだよ。大事な人、あロボットだっけ」
「そういうところだぞ! 相変わらず鈍感だな……」
むう鈍感だと言われてしまった。でもキングさんは真剣だ。受け止めるしかないのだ。
「まあいいや、俺はいずれ王になる男だ、いつまでも過去の失恋にこだわらないのだ。
で、約束してくれ、姉ちゃんを幸せにすると」
「もちろんさ、でも君も幸せになってくれると嬉しいな」
「おう、男の約束だぞ!」
こうして、僕たちは握手を交わして夜が明けた。
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