第24話 キングさんと僕①
森は真っ暗だった。
真っ暗とはいっても星とか月の光はある。ではなぜこんなことをいうかというと。
いつまでたっても朝にならないのだ。本来なら今は昼間である。
「先生、これは何か良くないことが起きてるのでは?」
深刻な表情で、魔法使いらしい制服を着た幼女、ワンドさんがリッチさんに話しかけた。
結局はメイド服はお預けになったようだ。
ロボさん曰く、幼女がメイド服を着てもただのコスプレであると言ったため当分は背丈に似合う服を、という事である。
ではなぜ制服なのかといえば、これしか記憶になかったのだとワンドさんが言い切ってしまったからだった。
「あなたは、女として恥ずかしくないのですか?」
「う、うるさいわね。いつもメイド服しか着てないあなたに、い、いえお姉さまに言われたくないわ」
あ、その呼び方はまだ有効なんだなと思いながら、話を本題に移す。
「今は、昼間だよね? 森にいる動物もなんかざわざわしてるし」
「はい、恐らくは太陽の魔石のトラブルでしょう。夜間モードは問題なく動いているので、メインの太陽に問題があるのかもしれません。
とりあえず状況を確認してきましょうか?」
ワンドさんは目をキラキラさせながら僕らの会話に食いついてきた。
「なにそれ、面白そう。ねぇ先生も一緒に行きましょうよ。勇者様の遺産が直接みられるチャンスよ」
「うむ、そうだな、我々も一緒にいいかね?」
魔法使いの二人はこういうのに興味津々なんだなと思った。リッチさんまで子供みたいな反応だった。
まあ、別に断る理由もないし、せっかくだから皆で行こうか。
こうして僕達四人は森の奥深くに出かけて行った。
しばらく進むと小高い山に差し掛かった。その山の山頂に太陽の魔石はある。
「見つけました。これから解析をしますので、少し離れていてください。爆発するかもですよ?」
「ひっ! そんなに危険なの?」
太陽の魔石をまじまじと覗き込んでいるワンドさんは、びくっと首をすくめた。
「いえ、冗談ですよ、あなたがいたずらしそうでしたので言ってみただけです。
ちなみに本当に爆発したら逃げ場なんてどこにもないですよ?」
たしか異世界さんは、最強の魔法を魔石化してほぼ無限のエネルギーを得たとかいってたし、そんなのが爆発したら大変だ。
でも爆発は絶対起こらないとも言ってた、爆発させるにはそれに匹敵するエネルギーで起爆しないといけないから理論上無理らしい。
「どっちにしても危険じゃない。でもこれの凄さはわかる。内包する魔力の上限に想像がつかないくらい。
先生はどう思いますか?」
あ、魔法使いトークが始まったみたいだ。こうなるとしばらくは止まらないから放っておこう。
異世界さんも一度話し出すと止まらないから似た者同士なのかなと思った。
そんなことを考えていると。ロボさんは太陽の魔石の後ろ側の蓋を外し、中からケーブルを引っ張り出して、彼女の後頭部にある
ソケットに差し込んだ。
「これからメンテナンスモードに入ります。月や星の明かりもなくなりますので、さらに真っ暗になります。
しばらく時間がかかると思いますので、マスターたちは野営の準備でもしていてください」
そういうと、さっきまで月や星の光で、ある程度明るかったのがすっかり真っ暗になっていた。
僕たちは直ちに明かりとテントを用意した。
「野営なんていつ以来かしら。魔法学院でも年に一回か二回くらいのキャンプがあったくらいかしら」
「あれはキャンプではないぞ、一応は実戦訓練として実施される重要な行事だったのだが……」
僕はそれに興味がわいたので詳しく聞いてみた。
曰く、魔導学院の学生さんは卒業後には騎士団所属の魔導士になる人も多いため戦闘訓練はもちろんのこと、サバイバルの知識も必要になるのである。
ちなみにワンドさんは、あんなのは、ゆるいキャンプと同じだといってた。
さすがは優等生なんだと感心していると彼女は語気を強めながら言った。
「同じテントだった同級生達は、やれ、虫がいるだの、お風呂に入れないだの文句ばかりだったかしら。お風呂なんて水浴びでもすればいいのよ。
私たちは魔法使いなんだから」
「君は昔からそうだったね。友達はいたのかい?」
「い、いたし……、それにちょっと汗かいたくらいでやたら大げさに言うのがおかしいのよ」
なるほど。彼女はキャンプが好きなようだった。この辺でも出来そうだし、たまには皆でやるのもいいかもしれない。
――ずいぶん話し込んでしまった。学校生活というのにぼんやりと憧れみたいなものを感じるくらいには長い時間が経った気がした。
作業が終わったのか、ロボさんは僕たちのところに戻ってきた。
「修理は完了しました。原因は、太陽光発生装置と魔力コアとの間の断線のようでしたので、実際の作業は簡単でした」
ロボさんは全身汗びっしょりだった。もちろん汗ではない冷却水だ。太陽の魔石の不具合を隅から隅まで調査するために、ロボさんの頭脳にかなりの負荷がかかったためだ。
「ちょっと、お、お姉さま、汗びっしょりじゃない、さすがに私でも引くわよ」
あれ、さっきと言ってることが違うような。
「おや、これはお見苦しい姿をお見せしました。そこのムッツリ幼女さん。メイドになりたいなら着替えを手伝ってもらえますか?
随分と消耗してしまったので運動機能に制限がかかってしまったようです。手伝ってくださるならお好みのデザインのメイド服を作って差し上げますよ?」
「はい! お姉さま!」
とても清々しい返事をして二人はテントの中に入っていった。
「よかった。流石にもう、人前で裸になることは無いみたいですね」
「そうなのか? 今でもそういうところはあると思うのだが……」
そういえばリッチさんはスカートの件でワンドさんから説教をされたことを思い出した。
「いやあ、昔はもっとすごかったんですよ。いきなり全裸になることもあったんです。そういえばその時はゴブリンの王様と一緒に住んでたんですよ」
そう、たしか異世界さんが亡くなってからしばらくした後だったっけ。出会った頃はまだ小さな子供だったなぁ……。
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