第27話 幕間 ドゥイットユアセルフ

 男には憧れるものがある。


 いや、今回はちょっと疑問だが。


 それはドゥイットユアセルフ、DIYだ。日本人にはなじみがないが欧米では当たり前なのだ。


 俺だって、前世では他人のやってるのを見て、いいなーとか思う程度だった。


 あれは編集された動画だから憧れるのであって、作業はとても地道なものなのだ。


 いろんな電動工具をネットで検索して使い方とか調べてるうちに情熱はいつの間にか消えてしまった、あの頃の俺を思い出していた。


 

 しかし、今は違う。全て自分でやらないと生活が出来ないのだ。



 そう自分に言い聞かせながら『ブイーン』と心地よい音を立てるチェーンソーで丸太を切っていた。


 基本的に機械の音はいい音で好きだ、俺はものづくりの人間なんだなぁと自分の世界に浸っていると。


「今日は何してるんですか?」


 少年が俺に話しかけてきた。この少年は穴掘りが得意なので、むしろこちら側の人間といえるだろう。


 銃にはまったく興味を示さなかったが今回は自分から話しかけてきている。


「少年よ、君はこの築二十年は経とうとしている、このぼろ屋に思うところはないかね?」


「言われてみれば、たしかにあちこちガタが来てるし、そうか新しく家を建てるんですね」



 そうなのだ、俺もこの年になってマイホームパパになるとは思わなかった。いや言葉の意味は違うし独身ではあるのだが……。


 つまりは自分の家がもっと好きになれるようにリフォームをするのが今回の目的だ。


 せっかくメイドさんがいる家なのにぼろ屋だと恥ずかしすぎて死ねない。


  

 俺はそんなことを話すと、少年は死ぬなんて言わないでほしいと言われた。


「いや、物の例えなんだが……。まあ安心しなさい、俺はまだアラフィフだ年寄りにはまだ早い」


 そう、今は人生百年の時代だ。あれ? この世界は中世っぽいから五十年だっけ?、いや割とぼんやりな世界なのでそんなことはないのかもしれないが。

 

 ……まあそんなことは置いといて、作業を続けよう。



「少年よ、これはチェーンソーという木を切る道具だ、君に向いているかもしれないよ」 


 試しに少年にチェーンソーの使い方を教えたが。うーん、体格のせいなのか危なっかしい。

 

 これは彼には無理かと思っていると。


「おや、マスター、また男の子の夢でも始めたのでしょうか」


 ちょうど良いタイミングでメイドさんの登場だ。


「いいところに来たね。早速だがロボさんや、これを持ってみてごらん」

 

 ――俺はとんでもないことに気づいてしまった。メイド服とチェーンソーはとてもマッチしている。


 銃の時もそうだったがメイド服万能説はあるかもだ。


 つい悪乗りでいろんな戦闘ポーズをとらせてしまったが、チェーンソーは工具である。決して真似してはいけない。



「うむ、さすがは万能ロボットだ。すっかり使い方を覚えてしまったか」


 機械を使った作業はロボさんと俺でやるとして。


 少年は少し落ち込んでいるようだ。うーむ、しかし工具を持たせるのは危険だし。


「よし、新しい家は石造りにしよう。そのためには大量の石材が必要だ。あと地下室も作るから君には頑張ってもらうぞ。

 なに、気を落とすことは無い。穴掘りと馬鹿にできないぞ、君にしかできない素晴らしい特技だ、チートとも言っていい」



 結局は彼にはいつも通りの仕事をお願いした。だがこれは最適解だ。

 

 この辺りはどうやらミスリル鉱石が大量に取れるようで、岩盤がとても固いのだ。


 彼にしかあのスコップが使えない以上はこれが正解なのは間違いない。 



 おかげで石材に必要な石はあっという間に取れた。


 あとは加工だが、うちのメイドさんはやはり優秀だった。作ったのが俺なだけある。


 あっという間にグラインダーなどの工具を使いこなしてしまった。


 しかも加工技術はとても精密で隙間すらできないほどである。 


 あとは床や壁に組んでいくだけとなった。


 しかし、ミスリル鉱石のタイルは模様が綺麗で、生前の世界にあった大理石とかそういうのと比べても格別な雰囲気がある。

 

 おまけに防火性能が抜群なのだ。燃えないどころか火が勝手に消えてくれるという素晴らしさがある。

 

 やはりファンタジー金属は伊達ではないのだ。



 こうして作業は順調に進み、ついに完成した。


 みごとな洋風の建物だ。メイドさんがいる家にふさわしい外観ではないだろうか。


 あと、もし来客があってもいいようにある程度、部屋数も増やしておいた。……いままで一度も客など来なかったが。


 まあ、俺は引きこもりだから客などいるわけないのだ。



 いつかの為だ。俺がいなくなっても彼らはここで生活するのだから。



 しかし、このごろは疲れがたまるようになってしまった。


 気づいたら俺もおじさんなんだよな。



 ここは温泉でも、いやいや、そんな都合よく湧くものでもないし。大きめの風呂は家にある。


 そもそも俺はハーレム系勇者でもないし温泉回などありえない。


 それにしても、あいつらはいったいどうしたいのか。

 

 全員と結婚でもするのだろうか。俺はごめんだ修羅場しか見えない。


 平穏が一番だ、そうだ今度ロボさんにマッサージでもしてもらおうか。


 その程度のご褒美で俺は幸せなのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る