第17話 エルフさんと僕③
「ロボさん、エルフさんが目を覚ましたみたいです」
「分かりました、変わってください」
目の前には、まるで空を移したような綺麗な髪の女性が顔を近づけてきて、おでことおでこをくっ付けた。
そして、まるで星のようにきらきらと瞬く透き通った瞳で私の眼の奥を見つめていた。
――そうか、私、ついにお会いできたのね。
「……おばあ様?」
「…………失礼なエルフですね。初対面の女性にいう言葉ではありませんよ?」
「え!」
………………。
どうやら私はまだ生きていたようだ。
◆◆◆◆
「いやぁ、無事で何よりでした。心配したんですよ?」
「…………。」
「まだ、どこか具合でも悪いのですか?」
「…………。」
「あ、服がボロボロだったので勝手に着替えさせました。もちろん、やったのはロボさんですが」
「…………! 何よこの格好、私を使用人にでもしようってこと?」
彼女は、メイド服を着た自分の姿を確認すると、元気にしゃべりだした。よかった怪我は大丈夫みたいだ。
「おや、この格好とは失礼なエルフですね。私は常にその格好なのですが」
ロボさんは、おばあ様と言われたことを、まだ根に持っているようだった。
「その、ごめんなさい。そんなつもりじゃ。それはもう忘れて頂戴。それと、助けてくれてありがとう」
それから、彼女は自分がどうしてここにいるのかを僕たちに話してくれた。
そして僕たちの話も聞かせた。でも異世界さんの話はやめておいた。なぜなら彼女たちエルフの宿敵である勇者その人だからだ。
少なくとも今はそうした方がいいと思ったのだ。
エルフさんは回復し、自分で歩けるようになった。
しかし時折、彼女は酷くおびえたように部屋の隅っこで震えているときがある。
ロボさんはPTSDだといった。しばらくは、ストレスから解放された空間で時間経過をみるのが最適らしい。
僕はロボさんの言うとおりにエルフさんから少し距離をとることにした。男性に対しての忌避感があるのは間違いないのだ。
それにロボさんには心を許している節がある。
「しばらくは、私が彼女の面倒を見ますので。……マスターは、そうですね。いつも通り穴掘りをしてればよいのでは?」
ロボさんは少し機嫌が悪い。おばあ様が一緒だと安心だしねと、言ってしまったのだ原因だろうか。
そうして、僕はしばらく、一人で洞窟の拡張工事を続けていた。退屈だったが、家に帰ればたまに目が合うエルフさんを見るのが楽しみになった。
最初は、目が合った瞬間にそらされたりしたものだが。徐々にそれが薄れていき、次第に挨拶を交わすようになっていった。
あるとき、ロボさんは、大量の糸を部屋に運んでいた。
「どうしたんですか? その糸、包帯が必要なんですか?」
ロボさんは手芸が苦手だ、包帯しか作れない。
「いえ、彼女がメイド服に飽きたから、他の服を作りたいと言いまして。もっとも作るのは布からですが」
エルフさんは手芸が得意なようだった。それに集中できる趣味があるのはいいことだとロボさんが了承したのだ。
「どうせですから、私も彼女に教わろうと思いました。人に教えることで彼女の人間不信も改善されるでしょうし」
全面的に賛成だ。エルフさんもしゃべり方が明るくなってきてるし。
――そうして時が過ぎた。
「あなた、いつも穴を掘ってばかり、この洞窟で何してるの?」
エルフさんは僕が作業をしている場所まで歩いてきた。
洞窟内は暗いので。彼女は光の魔法で周囲を照らしながら僕を探していたようだ。
ここまで遠出したのは初めてじゃないだろうか。
「何って、穴を掘ってるんだけど……」
「そ、そう…………。と、ところでどうかしら?」
どうって、あ、そうか。何か雰囲気が違うと思ったら、エルフさんは真っ白なワンピースを着ていた。
「ついにできたんですね。よくお似合いですよ」
その姿は光に照らされて、より白色が際立ち、とても神秘的に見えた。
「ええ、布から作ったから、時間がかかったけど、その分とても良いものができたわ」
彼女はとても生き生きしていた。僕も嬉しくなった。
「ところで、この糸、まるで上質なシルクのようだけど。シルクとは違うみたい、強い魔力を感じるし、何の糸なの?」
「あ、はい、この糸は以前こちらに住んでたアラクネさんの糸ですよ」
「え? 今なんて? …………いや、何でもない。そうよねシルクだって芋虫だし」
彼女は話題を変えた。どうやら、蜘蛛が苦手なようだ。
「こほん、それはそれとして、染料がないから少し物足りないのよ。もちろん白は白で素敵なんだけど」
僕は染料が何なのか知らなかったので、エルフさんに聞いた。
エルフさんは染料とは何なのか得意げに話したのだった。
曰く、さまざまな植物を煮出したものに布を浸して色を移すのだそうだ。
「そうですか、でもここには植物がないですね。少し残念です。でも外にでるのは危険ですし」
エルフさんは外の世界から逃げてきたのだ。そんなことはさせられない。
「そうね、それに、ここで植物を育てるのは難しいわ。光の魔法だけでは限界があるし。太陽の光をなんとか運んでこれないかしら」
そう言いながら、いろいろと考えている彼女の姿を見ていたら、僕は思い出した。
「あ! 太陽ならあります!」
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