第18話 エルフさんと僕④(終)

「――ちょっと、どういうこと?」


 エルフさんは説明を求めていたが、僕は実際に見せるのが早いと思い、作業を中断して帰宅した。


「ロボさん、太陽の魔石は今どこにあるんだっけ? 見てみたいんだけど」


「はあ、いきなり何を言うかと思えば。ここにあるじゃありませんか」


 ロボさんはメイド服を脱ぎ始めた。太陽の魔石はロボさんの心臓部にある。彼女の動力源だ。


「違う違う、それじゃなくてもう一つあったでしょ? 照明用のやつ、異世界さんが、作ったはいいけど眩しすぎて、そのままどこかにしまったままの――」


 僕はあわてて訂正した。ちなみに照明用の太陽の魔石はロボさんのよりずっと大きい。

 エルフさんは何がなんだかわからないといった感じで硬直したままだった。

 



 それから、僕たちは全員で外出した。もちろん外の世界ではない。洞窟内で太陽の魔石を設置するのに最適な場所を。


「マスター、この辺なら全体を照らせると思います」


「よし、なら設置するよ」


 僕はすこし地形を変えながら微調整を繰り返し、太陽の魔石を埋め込んだ。


「ロボさんいいよ、起動してみて?」


 ロボさんは太陽の魔石と自分の後頭部あたりにある穴をケーブルで繋ぎ、太陽の魔石にあるボタンを押した。


 起動にはロボさんと太陽の魔石を繋いでロック解除しないといけないのだ。


 太陽の魔石はぼんやりと光ったが、ロボさんが作業を終えても、ゆらゆらと淡い光を放つのみだった。


「これじゃ、無理だわ。太陽には全然たりないじゃない」


 エルフさんはがっかりしたように肩を落とした。


「何を言ってるんですか。今はアイドリングの状態です。稼働するのに数日は必要なのですよ。

 あと、くれぐれもここへは近づかないでくださいね。稼働した瞬間にここにいると死にますよ?」


「え、ええ、それはそうよね。分かったわ」



 そうして、洞窟内はまるで外の世界のように光に包まれたのだった。


 ちなみに、稼働した太陽の魔石を止める方法は二つある。一つは夜の時間に直接停止ボタンを押すか、もう一つはロボさんに遠隔で強制停止してもらうかである。



 ――時は進み。やがて洞窟には草木が芽吹いた。


 エルフさんはさすがエルフである。植物の育て方には目を見張るものがある。あっという間に森ができた。


 僕は少し手狭に感じたので、今までよりももっと広くしないといけないと思い穴掘りを続けた。


 エルフさんとロボさんはもはや日課となった服作りを続けていた。


 エルフさんは様々な色の服を着ていたが、ロボさんは相変わらずメイド服だった。彼女が言うには住み分けが重要なのだと。



 ――数百年後

 最初は手狭な森だったが、いつの間にか見渡す限りの大森林に成長していた。



 エルフさんは相変わらず日が出ている間は森へ散策に出かけ、夕方になると僕達を迎えに来てくれた。


 たまに一緒に森へ出かけたときは、いろんな薬草を探して僕達にポーションの作り方を教えてくれたりした。


 彼女は弓矢が得意でいつの間にか森に住みだした動物を狩っては家に運んできたこともあった。


 出会った頃は、彼女は弓矢が嫌いだった。母を思い出すらしい。


 でも今は母の弓矢を持っても何も思わなくなったそうだ。正確には今でも嫌いで許すことはできないけど、もうそんなことはどうでもよくなったそうだ。 



 ちなみに狩ってきた獲物は食べきれないので、エルフさんは細かく切り分けて冷凍保存した。初めて彼女の魔法を見たけど凄かった。


 実は外の世界では、氷結の魔女と呼ばれていたらしい、彼女はそれが恥ずかしいのか、頬を染めながら、はにかんだのが印象的だった。



 この森はたまに雨が降る。太陽の魔石の機能の一つであるのだが、外へ出られないから僕は少し退屈だった。


 ロボさんは、相変わらず服作りをしていた。雨の日ははかどるらしい。


「ねえ、せっかくだしお話でもして過ごしましょうか」 


 エルフさんは僕のそばまで来て言った。


 雨のせいか珍しくしんみりとした表情だった。


 彼女は歳のせいかなと静かに笑いながら、今までのことを話していた。


「いろいろあったけど、いつの間にか、おばあ様より年上になってしまったわ」


 僕は以前と見た目が変わらない彼女に、そんなことは無いと言うと。


「いいえ、エルフだって年を取るのよ。不思議なのはあなた達の方」


 そう言われると僕は自分でも不思議だと思った。僕はロボさんに聞いても、知りません。お会いした時からマスターは今のままでした。

 としか言ってくれない。


 ――うーん僕とはいったい。


「あら、ごめんなさい。またこの話をしてしまったわ、ほらね年寄りは同じ話をしてしまうのよ」


 笑いながら彼女は話を続けた。


「そうね、でもこの年になってやり残したことは一つあるの。私はちゃんとした結婚をしたことがない、何を今さらっていうかもしれないけど。

 こう見えても私は幸せな結婚に憧れてたのよ」


 そう、彼女の結婚は最悪だった。正確には婚約の段階で彼女は逃げてきたのだが。


 僕たちはその出来事には触れないでいた。でも最近は吹っ切れたのか自分から話しを振ってくることがある。


 そして、少女だったころに、おばあ様から聞いた魔王様の話とか。

 あったことはないけど、乙女の顔をして話すおばあ様を見て、いつの間にか私も魔王様に憧れていたとか。


 おばあ様はおじい様のこと嫌いなの? と聞いたときにおばあ様は、気持ちは自由なのよ、とはぐらかしていた話とか。 


 いつになく、しんみりしていたエルフさんが話し終えると。


 ロボさんが服を持ってきた。ドレスのようだった。

 超大作だといってただけあって。とても凝った作りをしていた。 



「やっと完成しました。さてと、そんな、しんみりエルフさんに私からのプレゼントです。

 ちなみに、そんな遠回しに言っても鈍感なマスターは気づきませんよ?」


 鈍感、そう言われてもしょうがないけど……、僕は僕だ。

 そう思いながらロボさんの持ってきたドレスに違和感を覚えた。真っ白だったのだ。


「そういうロボさんだって、色を付けるのを忘れてるじゃないですか」


「なにをおっしゃいます。これは白が正解なんですよ。ウェディングドレスというのです」



 気づいたら雨は止み、空一面に青空が広がっていた。



 その後も僕とエルフさんは、変わらず平穏に過ごし、そして数百年後にお別れをしました。


 ――彼女は天井まで届くほどの大きな木の下で、今は安らかに眠っているのでした。



 ◆◆◆◆


「よし、完成したぞ」


 リッチさんは試行錯誤の結果、子供サイズの魔導人形を完成させた。


「私も完成しました。材料も染料も足りませんのでこれが限界と言ったところでしょうか」


 ロボさんは、真っ白な子供用のワンピースを持ってくると、完成した人形に合わせながらサイズの微調整を始めた。


 そういえば彼女も最初に作ったのはワンピースだったっけ。


 僕は遠くに見える大きな木を見ながら言った。


「なら、今度、ワンドさんが歩けるようになったら。一緒に森にでも出かけましょうか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る