第11話 メンテナンス
「――いやぁ、そんなこんなでいろいろあったんだけど、結局は私の生涯をかけた研究は未完におわってね、今は見た通りアンデッドの体に落ち着いたのさ」
結局は当初の研究は完成せず。妥協のすえ、アンデッドの体になったそうだ。
とはいえ、人の姿こそ維持できなかったが、生前の記憶はそのままに保ちながらも、より完成に近い不死の体を手に入れたわけだが。
「今までと、キャラが違わないですか?ほら、一人称とかその砕けた口調とか、もはや別人ですよ?」
どちらかと言えば今のリッチさんが本来の姿なんだろうとは思ったけど、最初の頃のキャラと違って残念な感じだ。
「ほら、今ではいかつい姿だし、彼女の助言もあってさ、ちょっと大げさな感じに振舞うことにしたのさ。
それに、ほら、君は自分を僕というだろ、キャラ被りも問題だろ?」
どうも、リッチさんの今の立ち振る舞いは彼女さんプロデュースのようだ。
そんな話をきいて、ロボさんはふとリッチさんに尋ねた。
「ところで、その彼女さんは今どこにいるのですか?」
「ああ、ここだよ、使ってくれと言われたけど、壊れたら大変だろ? だから今でも大切にしまってあるんだ」
そういってリッチさんは懐からワンドを取り出し僕たちに見せてくれた。
あ、これ、リッチさんが何かあると取り出しては考え事をしていたワンドだ。
「でも、今まで一言もお話してないようですけど、魂の転移は成功したんですよね?」
「ああ、成功してるよ、でも会話はできないんだ、なんせ口がない。こればっかりはしょうがない」
「でもリッチさんとはお喋りしてましたよね。以前は独り言をいってるんだと思ってましたけど」
「ああ、魂のつながりというかな、私にだけは声が聞こえるみたいだ。だから、今でも助手、いや同士としていろいろ議論をしているよ」
そうして彼は再びワンドを懐へしまった。
「一つよろしいでしょうか、道具は使われるためにあります、まあ、大切にされているのは尊重しますが。少しは心にとめておいていただけると幸いです」
ロボさんは、他にも何か言いたげな雰囲気があった。彼の懐に入ったワンドの方に視線を移しながら、何やら考えを巡らせているようだった。
それに少し怒っているようにも見えた。同じ道具としての在り方に思うところがあるのだろうか。
「むう、たしかに、メイド殿は道具として使われながらも、手入れが行き届いている。しかし私は手入れなどできないし、壊れたらと思うとな」
手入れと聞いて、僕たちは結構長い時間ダンジョンの工事をしていたのに気づいた。僕たちもそろそろ手入れは必要かな。
「さて作業もひと段落ついたことですし、そろそろ戻りましょうか」
ロボさんは不動のままだった、瞳の奥の光が何やら点滅していたのが見えたので、どうやらワンドさんと何か会話を試みていたようだ。
「――失礼しました。リッチ様、提案があるのですが、そちらのワンド、メンテナンスしましょうか?私は魔道具の整備は得意ですので」
「むう、そうか? だが大事な……、ん?そうか君もそうすべきと? …………そうだな、本人の了承を得たからよろこんでお願いしようか」
そして、リッチさんの大事なワンドを預かりメンテナンスをすることにした。もちろん僕は何もできないからロボさんが一人で行うのだが、一応どういう作業をするのかは確認しておいた。
まず、古くなった部品を新しいものに交換する。
しかし交換すると内包している魂そのものに影響はでないのだろうか。疑問だったので、それとなくロボさんに聞いてみた。
「問題ありません。家を改装するようなものですから。新しくなった家でも住む人は別に変わらないでしょう?ただ改装中は魂を別の場所に移す必要はありますので――」
そう言うと彼女はワンドを手に持ち、その先端部分を額に当てた。一瞬、ロボさんの目が光ったので、彼女の魂が移ったのだろう。
◆◆◆◆
「はじめまして、リッチのお弟子さん。ここは私の魔力コアの内部です。作業終了まで、しばらくは窮屈だと思いますがおくつろぎください」
「あ、はい、お構いなく。
――じゃなくて、なにこれ! こんな洗練された魔力回路はみたことがない! 一つも……いや部分的には理解できる、けど規模が全然違う! あなた、同じ道具とかいってたけど、いったい何者なの?」
「前にも言いましたが、私はただの介護用ロボットですよ?魔導人形のようなものです」
「……そうだったわ、あなたは伝説の勇者様により創造されたのだったわね、最初は疑ってたけど、今なら納得いくわ、素晴らしい魔法ね、悔しいけど私たちのそれをはるかに凌駕してる。
ぜひ教えて頂戴。私にできることなら何でもするから!」
「何でもするからなんて、不用意にいってはいけませんよ。魔法使いのあなたならその意味は分かるでしょう? それに誤解を生みますよ?
でも、そうですね。教えられるならそうしたいのですが。私が私自身を設計したわけでないので、あなたが知りたいことの説明できないでしょう」
「……そう、残念。ならこれだけは教えて? 魂の転移は、本人が特別な思い入れのある物でない限りできないと思っていた。
けど、あなたが用意したのは思い入れどころか、全く知らない部品だらけよ。もとのワンドの部品はほぼ残ってないじゃない」
「そうですね、簡単に説明するなら、最初に行った魂の転移は、生まれ持った体からまったく違う物への移動ですから、当然、生まれ持った体から離れたくないという思いが働き、移動は困難になります。当然、歳を重ねるごとにそれはより強くなるでしょう。
よって一度目は、自身にとって特別な思いがある物でなければなりません。
しかし、二度目の場合はもっと簡単です、特にあなたの場合は…………」
「何よ、私が単純だとでも言いたいわけ?」
少し、もったいぶるように、話を続けた。
「そうではありません、そもそも、あなたはこのワンドに物としての執着はないのでしょう? ただ何かをプレゼントしたいという思いがあっただけで。
つまり、今のあなた自身にその思いがある限り、別に知らない道具でも一定の魔力量があれば問題ないのです。
素敵ですね、恋愛についてはよく分かりませんが、応援しますよ。
さて作業が終わりました。お疲れさまでした。あとお節介かもしれませんが、彼は難聴系だと思われますので頑張ってくださいね。」
「――なっ!」
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