第12話 リッチさんとワンドさん
無事、作業を終えて新しいワンドをリッチさんへと手渡すと、彼はどこかほっとしたような、もちろん表情は変わらないけどそんな気がした。
やっぱりどこかで心配だったのかもしれない。
ロボさんはできるといったことは必ずできるので、僕はとくに心配はしなかったけど。
「うむ、外見はすっかり変わったが、依然と変わらぬ君がいてとても嬉しいよ、これからもよろしく頼む」
しばらく二人だけにしておこうとロボさんが言ったので、僕たちは彼らから少し距離をとった。
僕はロボさんにタオルを渡しながら言った。かなりの負荷がかかったのか、彼女は汗びっしょりだった。もちろん汗ではない、冷却水だ。これが無いとロボさんは爆発してしまうのだ。
「お疲れさまでした。新品同然に生まれ変わって良かったです。でも一部そのまま使ってた部品があったよね、あれが魂の拠り所だったとか?」
「いいえ、あれはなんて事ない、おそらく指輪を加工して作られた留め金ですよ。でもそうですね、あれがある意味でキーパーツのなのかもしれないですね」
――実は、留め金に使われたリング状のパーツの裏には、小さな文字が掘られていた。
『先生、昇進おめでとう。教授になってもまだ、好きな人とかいないんだったら私が特別に恋人になってあげる』
その文字は、おそらく彼女自身は忘れているだろう。
でも、それが魔術的には関係がなくても、なんとなく取り替えてはいけないとそんな気がしたのだ。
「あれは、そうですね特に関係ないと思いますが。すべて変えたら全く別物じゃないですか。気持ちの問題というのでしょう」
リッチさんとワンドさんはまだ会話をしているようだった。もちろんワンドさんの声は聞こえないけど。
……痴話げんかかな? リッチさんはおどおどしながら言い訳をしていた。
「だから私は……違う! 誤解だ! ……スカートをのぞこうとしたわけではない、武器があったんだ……だから違う、大体メイドにそんなことをするのは下品な貴族の……なに?着てあげてもいい?
何を意味不明なことを、君はいつも制服だったじゃないか、そもそも今は体がないではないか……だから誤解だと……」
そんな二人をよそに、ロボさんはスカートをバタバタさせて風を送っていた。あんまり行儀のいい行為とは思えないが冷却のためだからと僕は目をつぶることにした。
……わざとやってないよね。必死に謝るリッチさんが少しだけ可哀そうだ。
「ねえ、ロボさん、ワンドさんもメイド服が着たいそうですけど、できるんですか?」
「そうですね、できると思いますよ。もちろん今の状態ではなくて、人の姿にならないとですが。
彼らの研究していた不死の魔法がどういうものなのかは不明ですが、彼らはすでにその手前までは達成しいるようですし……」
そう言いながらロボさんは、汗を拭きながら時折、髪の毛を振り払っていた。そのキラキラ輝く姿はまるで生きている人間のようだった。
「あ、そうか、不死の魔法の完成形って、つまりはロボさんのことですね」
「どうでしょう、私には魂がありませんので厳密には違うと思いますが。要は、私のような、人間と遜色のない外見と機能を備えた魔導人形に彼女の魂を移せばいいのです。
彼自身が魔導人形を作れれば良いのですが。私が作っても魂の転移は可能でしょう。でもそこまではさすがにお節介でしょうし、後は二人の問題です。
それに彼は魔導人形を嫌悪していたようですし、すぐに造形ができるとは思えません。
まずは彼の技術の向上を期待しましょうか。その辺はお手伝いしますので。
……まずはワンドの分解メンテナンス、それこそ書かれている文字がはっきり読めるまで綺麗に磨くことから始めましょうか。
――それにしても、彼女はメイド服を着て何がしたいのやら」
リッチさんとワンドさんの喧嘩は続いていた。でもこんな喧嘩ならしばらく見ていたいと思った。
ロボさんも僕と同じなのか、相変わらず無表情だったけど、とても楽しそうに見えたのだった。
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