第10話 プレゼント
――そして幾年も時が過ぎた。
「先生、もう私の身体は限界のようです。何とか形状を維持してるけど、ほとんど動かないでしょう。ほら、歩こうとすると、まるでゾンビみたい」
外見はもう気にしてない、先生が気にしないから。でも動けなくなるのは問題だった。
やはり、魔法は失敗していた? あるいは、目的を達成し、この世に縛る思いが無くなったのが原因なのか。
現に私たちを守ることを目的としている二人は未だに健在だ。
現在、破壊しつくされた城は立ち入り禁止になっている。
城下町は無事であったため、そこから、討伐軍が度々侵入してくるようだった。
彼らはその侵入者を撃退させてはいたようだが、それ以上のことはよくわからない。
なぜなら、外へ出てしまえば、彼らがかけた防御魔法が解けてしまう恐れがあったからだ。
防御魔法がなくなったら研究室は一瞬で崩れてしまうだろう。そんなリスクは負えない。
いずれにしても、このまま体が朽ち果てたら魂はどうなるのか、そのまま霧散してしまう恐れがある。
しばらく考えた後、先生は意を決したのか。
「なら、そうですね。今できる魔法の全てにかけてみましょう」
私たちは今までの研究成果をまとめ、それを応用した魔法を作り出した。
「この魔法なら魂の転移が可能になるでしょう。宝石とかそういう魔力のある物が前提ですが。何か特別な思いの詰まった物にならリスクはより低いと思います」
素晴らしい魔法だった、人の魂を何かの道具に治めることが出来るならこれは革命的だ。先生はやはり天才だと思った。
……でも。そんな道具は持っていない、おしゃれなんて人生で一度しかしたことがない、それも先生は無関心だったから、より一層無頓着になった。
卒業しても学生時代の制服を着ていた。制服は魔導士の服としては完璧だったので何も問題はなかった。
「とても素晴らしい魔法です……。でも、その条件に合う道具を持ってません。アクセサリーだって着けたことないし。
……こんなことなら同級生の女子達みたいにアクセサリーとか集めておくんだった」
当時の私に後悔した、女は見た目じゃないとか突っぱねてばかりで、興味すら持てなかったのだ。
「いえ、あります。――ほら、君から貰ったものがあるんですよ」
先生は懐から、随分と古びたワンドを取り出した。
見た瞬間に思い出した。それは私が学生だったとき、先生が教授に昇進したお祝いでプレゼントしたものだった。
「…………うそ、先生、一度も使ってくれなかったじゃないですか」
「いや、実は照れくさくてね、人前では使えませんでした。
でも、とても思いが込められてました、手作りですよね、嬉しかったですよ」
嬉しくて泣きそうになった。体はもうほとんど動かないし涙もでなかったけど。
「あのとき、一度も使ってる姿を見なかったから、とても落ち込んでたのよ? でも、そのワンドならきっと成功するわ」
確信した。なぜなら、それ以上に特別な思いを込めた物など存在しないから。
「私の魂が無事それに収まったら、今度こそ使ってくださいね。約束ですよ?」
「ええ、約束します。では、意識を集中してください。始めますよ……」
――それからまた時は過ぎた。
結局は当初の研究は完成せず。妥協のすえ、彼はアンデッドになることを選択した。
とはいえ、人の姿こそ維持できなかったが、生前の記憶はそのままに保ちながらも、より完成に近い不死の体を得ることはできたのだった。
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